Vリーグ、新設アジア枠の面白さと日本人プレーヤー育成のジレンマ。

Vリーグ、新設アジア枠の面白さと日本人プレーヤー育成のジレンマ。

 バレーボールの国内リーグ、V.LEAGUEが10月26日に開幕し、男子のトップリーグ・Division1(V1)は1レグが終了した。昨シーズンの覇者・パナソニックパンサーズが首位で、昨季6位のサントリーサンバーズが2位につけている。

 今シーズンのリーグは“新生”とうたいながら、「何が変わったのかわかりにくい」という声がとにかく多い。プレーする選手たちでさえそう口にする。

 ただ、コート上で明らかに変わった部分もある。“外国人枠”である。昨シーズンまで外国人枠は各チーム1だったが、今シーズンから、アジア枠の1枠が加わった。

 アジア枠と言っても、男子はASEANと中国、韓国、女子はASEANの選手に限られる。つまり男子ではイラン(世界ランキング8位)、女子では中国(世界ランキング2位)といった強豪国が含まれない。

 Vリーグ機構によると、そうした国の有力選手は年俸も高額なため、資金力のあるチームだけが大きな補強をして有利になることを危惧する声がチーム側から挙がり、制限を設けたと言う。

中国代表の劉力賓が先発に定着。

 そのため、当初の「競技力向上のため」という目的よりも、「東南アジアのマーケットに対してビジネスを広げるため」という意味合いが大きくなっており、中途半端な感は否めない。

 ただその制限の中でも、大きな戦力になっている選手もいる。男子のV1では10チーム中5チームが今季アジア枠の選手を獲得し、そのうちJTサンダーズ、東レアローズ、大分三好ヴァイセアドラーの3選手が先発で起用されている。中でも存在感を発揮しているのがJTの中国出身選手、劉力賓(リュー・リービン)だ。

 劉は中国代表アウトサイドの23歳。開幕から先発に定着し、オーストラリア出身のオポジット、トーマス・エドガーに次ぐ得点源となっている。スパイク決定率2位、サーブ効果率7位はいずれもチームトップの成績だ。

ハイレベルな試合が増える。

 昨シーズンのJTは明らかにエドガーに攻撃が偏っていたが、今季はそれが分散されている。劉はパイプ攻撃を得意とし、時にはクイックを打つなど器用さも備え、チームの攻撃の選択肢を広げており、試合を見ていても面白い。JTのセッター、深津旭弘は言う。

「クビアク選手みたいな(トリッキーな)プレーもするし、楽しんでバレーをしているからいいですね。昨季はエドガー1本を軸に行くことが多かったんですが、力賓の攻撃力はすごく高いものがあるので、試合を追うごとにもっと活かしていきたいと思います」

 身長212cmのエドガー、200cmのミドルブロッカー小野寺太志、197cmの劉が前衛に3枚並ぶ時のブロックは世界レベルの高さで、それを相手チームがどのようにかわし、打ち破るのかは試合の見どころの1つとなっている。

 JTのヴコヴィッチ・ヴェセリン監督は、「アジア枠は素晴らしいアイデア」とうなずく。

 実力のある選手が加わることでチームのレベルが上がれば、見ごたえのあるハイレベルな試合は増える。それは観客を惹き付けることにも、その中でプレーする日本人選手の競技力向上にもつながる。

コートに立つ日本人の減少。

 しかし一方で、外国籍の選手が増えた分、コートに立てる日本人選手が減っているのも事実だ。JTでいえば、1年目の武智洸史がその1人。

 武智は星城高校、中央大学で、日本代表エースの石川祐希と対角を組んできた、守備に長けるアウトサイド。昨シーズンは内定選手としてVリーグに出場し、シーズン後半は先発に固定された。しかし今季、JTは劉と山本将平がアウトサイドで先発し、武智は3番手の状態で出場機会が限られている。

 今、男子のV1で先発起用されているアジア枠の選手3人はすべてアウトサイド。そこではオポジットにも外国人選手が起用されているため、サイドでは日本人選手が1人しかコートに立っていない。

 今後、アジア枠の選手を起用するチームがさらに増え、しかもポジションが偏れば、そのポジションの日本人選手が育たないという問題が出てくる恐れがある。

日本人選手の成長する場が。

 ポーランド代表で、パナソニックに所属するミハウ・クビアクにアジア枠についての印象を聞いた時、彼が指摘したのもまさにその点だった。

「私の意見としては、アジア枠の選手がいい選手であれば、その選手が入ることでリーグのレベルがアップするので、それはいいことだと思う。しかし一方で問題がある。例えば、日本にはいいオポジットがあまり多く育っていない。

 それは、Vリーグのほとんどのチームがオポジットに外国人選手を起用し、日本人オポジットが成長する場が取られていたからです。だから、またアジアから別の選手を獲得したら、それは日本人選手が成長する場がもう1つ減ることを意味します」

 それから、「あくまで個人的な意見ですが」と念を押してこう付け加えた。

「このルール(アジア枠)をオリンピックの前に採用するのは賢いやり方だとは思いません。なぜなら、オリンピックの前は、日本代表につなげるためにも日本人選手が多くコートでプレーすべきだからです。オリンピックの後に導入したほうがいいのではないかと感じます」

「ポジションに制約を作るのも」

 パナソニックの監督である川村慎二も、「例えばサイドに日本人選手が1人しか入れないというような状況を考えると、日本人の育成という観点ではちょっとデメリットがあるのかなと感じる」と語った。

 また女子のチームのある監督はこんな見解を語っていた。

「ASEANには大きくて期待できる選手がいるけれど、その選手を起用することが日本の強化になるのか、ジレンマがある。ASEANの選手に日本がお金を払って、ASEANの強化をしていることにもなる。それなら、中国や韓国もアジア枠に入れて、トップレベルの選手に対する戦い方をリーグの中で勉強した方が、日本の選手のためになるんじゃないか。あるいは、(外国籍選手を起用できる)ポジションに制約を作るというのも1つの手段だと思います。

 ただ、やはり代表を強くするためには日本人選手を積極的に使わなければ。今年の世界選手権で、海外チームの10代や20代前半の選手があれだけ活躍しているのを見たら、危機感を抱きます」

移籍を望む選手が増えるか。

 ヨーロッパなどのリーグでは、自国以外の選手が複数コートに立つことは珍しくなく、外国人の枠に制限がないリーグもある。その中で、出番に恵まれない選手は、出場機会を求めて移籍する。トップリーグのチームが無理なら下部リーグからスタートし、試合に出られる環境で腕を磨きながら、より高いレベルへステップアップしていく。

 劉が所属していた中国のリーグは、外国人枠が2枠で、劉のいた北京自動車は外国人選手2人がアウトサイドでレギュラーとして起用され、劉は出場できなかった。中国リーグは当時、国内の移籍が許されていなかったため、劉は昨シーズン、フランスリーグに移籍し、今年Vリーグにやってきた。

 日本も今後、出場機会を求めて移籍を望む選手が増えるかもしれない。今季からV.LEAGUEはチーム数が増えた分、例えば上位チームで出場機会を得られない選手が、より出場チャンスのある下位チームに移籍し、それが戦力の均衡化につながればメリットはある。

 ただ、日本はプロではなく社員としてチームに所属している選手が、特に男子は多い。Vリーグ機構のルールが緩和され、国内で移籍しやすい環境にはなったが、ハードルは低くはない。

「出場機会を減らしたくない」

 リーグのレベルを上げることと、日本人選手の育成強化。これをどう両立させるかは、新リーグの課題の1つだ。

 今季アジア枠を使わなかったチームの理由としては、資金面の事情もあるが、やはり「日本人選手の出場機会を減らしたくない」という思いがある。堺ブレイザーズの真保綱一郎監督はこう話す。

「甘いかもしれませんが、日本人選手がプレーする場をなくさないように、という理由で導入していません。もちろん勝たなきゃいけないんですが、日本人選手を育てることもしなければいけないので」

 こうした考え方や方針の違いが、各チームのカラーになっていくなら、それもいいのかもしれない。

文=米虫紀子

photograph by JT


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