1年じゅうスキーができる国を作る。皆川賢太郎が考える屋内施設の価値。

1年じゅうスキーができる国を作る。皆川賢太郎が考える屋内施設の価値。

 スキー産業復活のカギの1つとなるのが通年化です。

 しかし、冬の競技は他競技と比べて通年化が難しく、実現できるかどうかは将来的な課題でもあります。日本では冬以外、雪が降ることはありません。ということは、競技者たちは、必然的にそれ以外の季節にはトレーニングの場を海外へ求めることになっています。

 既存のインドア施設の規模を考えると、競技者にとって画期的な強化になるとは言えませんが、その役割は決して小さいとは言い難いものです。

 私がなぜインドアスキー場が重要だと考えているのか。

 現在日本にはインドアでスキー、スノーボードを楽しめる施設はいくつか存在しますが、いずれも規模の小さいものです。

 インドア施設といえば、1993年から2002年まで千葉県船橋市で営業していたザウスを思い出される方も多いと思います。長さ500m、幅100mのゲレンデでしたが、仮に3000人が同じ時間帯に入館すると、人が密集しすぎてほとんど滑ることができませんでした。

8万人が夏も滑りたいと思ったら。

 今、800万人弱のスキー、スノーボード人口が存在しますが、このなかの10%……80万人、なかでもコアと呼ばれる8万人の方々が「夏も滑りたい」と希望したと仮定しましょう。

 すると、インドア施設1つではオーバーフローしてしまいまい、ユーザーの方々の需要には完全に応えることができません。

 一方、スキーやスノーボードは道具を揃えなければなりません。板、靴など、金額にして10万程度。決して安くない金額です。大半の愛好者が年間スキー場を訪れるのは平均で1〜3回程度。たった3回のために10万のものを購入するのはハードルが高いと言えます。

 しかも、道具を発注するのは6月、手に入るのは12月。そもそも10万という大金を支払うのにすぐに使えないとか、忘れた頃に届くとか……どんなにお金を払ったから元を取らなきゃという心理が働いたとしても、やはり単価は決して安いとは言い難いものです。

365日滑れる環境が大切。

 3月には雪上で次のシーズンのモデルを試す試乗会なるものを行っていますが、そこに参加できなければ、いわゆる“ジャケット買い”になってしまう。私は実際に道具を使って購入できることにメリットがあると考えていて、事前に試してみることで人の道具への満足度がすごく高くなると考えています。

 そこで考えてもらいたいのは、道具を販売しているメーカーにとってなぜ選手たちに価値があるのか、ということです。選手たちが使用している道具や広告価値は、一般市場の動向が少なからず関係しています。

 メーカーの体力がなくなれば、必然的に選手のサポートの体制の体力もなくなります。メーカーとユーザーがしっかりとコミットし、メーカー側は(道具の)機能を十分にユーザーに感じてもらい、それが購入につながらなければ、スキー産業は復活しません。そういった意味でも、私は365日滑ることができる環境を用意しなければ、スキー産業は停滞すると考えているのです。

スノードームの総工費は100億円以上。

 では実際、今後日本にスノードームが建設されることはあるのかといえば……私は可能だと考えています。何名かのボードメンバーが必要でデベロップしなければなりませんが、そこで我々のような雪に携わるような人間が確固たる理論武装して、計画を立てることが重要です。

 実際に通年化を視野に入れてスノードームを現実のものにするため、試行錯誤を繰り返しているところです。設計を試みたり、コストを算出したこともあります。現実的な問題としては、資材のコストの高さを考慮すると総工費100億を切るのは非常に厳しい点ですね。ただ、ここでポジティブな材料になるのが海外で成功したモデルケースです。

 現在世界には37つのスノードームが存在し、まもなく38つ目が完成します。最も成功しているのは、オランダのスノーワールド・グループがつくった施設ですね。この施設は、山の斜面を建物でおおって建築コストを抑え、エネルギーはソーラーシステムによる自家発電システムで電力を蓄えて使用しています。

ヨーロッパや中国には成功例が多い。

 さらに、レストランやホテルも隣接してコンパクトに作られていて、夜はその中でイベントを行うなど、様々な取り組みにより黒字化に成功しています。我々が目指すべき収益モデルがすでに世界に存在しているのです。

 この他に、ヨーロッパにはドイツやフランス、ラトビア、ロシアなどにもスノードームが点在し、さらに近年、中国が急成長を遂げています。春には上海、その後は大連など全部で5箇所に建設されると聞いています。

 こうした海外の成功事例を2、3ほど挙げながら、土地を決め、批判や検討などを加え、よりよい成案を得るための原案をつくることが今、最も大切だと考えています。私がこの機運であれば実現可能と見ている1つに、現在、日本へのインバウンドが盛んだということが理由に挙げられます。

 スキー、スノーボードもその恩恵を受けていて、中国をはじめとする海外の投資家たちから、「(日本の)スキー場を買いたい」という話もたくさんいただくようになりました。

中国が目指すスキー人口は3億人。

 日本は他国に比べ、冬になれば必ず雪が降る安定感があり、豊富な雪資源を確保できます。中国を筆頭に海外の投資家らには、そういった場所にスキー場を持っておけば(投資した分は)回収できるし、売れるだろうという考え方があるのです。

 そういう機運がなければ、私が「(日本に)スキードームを作りたいんです」と言ったところで、机上の空論であり、なかなか先に進まないでしょう。

 まだ大儲けをできるといステージには至っていませんが、それでもしっかりと収支が取れる案件で、黒字化事業だということを提示できるようになりつつあるので、スノードーム構想も夢では終わらないと思いますし、今後、実現に向けて加速化していくのではないかと考えています。

 インバウンドはもちろんそうですが、なぜインドア施設が中国国内で増えていると思いますか?

 現在中国のスキー人口は1600万人と言われています。この6年くらいで倍になり、余裕で1000万人を超えてきました。しかし、中国が国策として目指すところはさらに高いところにあって、なんと3億人。その数字を達成するためには付随するスキー場が必要というわけです。インドア施設の増加はまさに必然的だったのです。

「爆買い」の次はスキー?

 ここで注目したいのは、中国のスキー人口の増加が日本とどのように関わってくるのかということです。第1段階としては、そもそも雪が降らない中国にスノードームを作ることで、多くの中国の方々がスキーやスノーボードを滑ることができるようになり、余暇の過ごし方の1つに加わるようになりました。その方々がセカンドステージとして求めるものは、「天然」の環境なのです。

 来日する中国人観光客が数年前に日本で行うことといえば「爆買い」がメインでした。しかし、今は中国国内の施設で滑り飽き、雪質を求めてスキーをするために来日される方も多い。さらに、インターネットが発達したことで様々な情報が増え、余暇も過ごし方も多様化しました。

 その中で中国はもちろん、ASEANの国々から日本のスキー・スノーボード施設で過ごすことを目的とした観光客は今後さらに増加していくでしょう。

 そういった意味で日本のスキー産業の復活には海外との関係性も欠かせないものになっています。そして東京五輪はさらに追い風になると確信しています。

 日本は2020年東京五輪を控え、観光立国への取り組みが一気に加速しました。それにより、それまで気づかなかった日本の良さが可視化され、たとえば酒造メーカーの工場に行って製造工程を見たあとに試飲するといったように、楽しみ方も細分化され、そこに「価値」が生まれる。我々の分野におきかえれば、たった4カ月しかない「雪」という資源を最大限活用することこそが、今後、日本国内に限らず海外の方々にとっても余暇の最上級になっていくことを期待したいですね。

(構成・石井宏美/Number編集部)

文=皆川賢太郎

photograph by 2018 HEIDI Co., Ltd.


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