旧態依然とした野球指導法に革命を!筒香嘉智、打棒開眼に至る秘話。

旧態依然とした野球指導法に革命を!筒香嘉智、打棒開眼に至る秘話。

「それは答えを聞くことになるので、聞きません」

 11月30日に発売されたDeNA・筒香嘉智外野手の著書『空に向かってかっ飛ばせ! 未来のアスリートたちへ』(文藝春秋)の取材をしていて、こんな言葉を聞いたのが印象的だった。

 この言葉が飛び出したのは、バッティングの話をしていたときだった。

 この本では詳しく話しているが、筒香が打撃で大事にしているのは打席での構えで、全ては構えから始まるという考えだ。そして、その構えの狂いに気づく力の大切さを説く。

 バッティングが崩れているときは、構えたときに重心が崩れていることが多いが、その崩れにいかに気づくか――その変化に気づくことの大切さという話になった。

「まだまだ自分でも気づきができないことが一杯あるので」

 こう語る筒香には中学生時代から身体の面倒を見てもらい、いまでも様々な指導を受ける矢田接骨院の院長・矢田修一先生という師がいる。その先生の指導の中でも答えの分からないことはいくつもあるのだという。

「でもそれを聞いたらダメなんです」

 そうしてポロっと言ったのが冒頭のこの言葉だった。

「それは答えを聞くことになるので、聞きません。自分で分かるようにならないと意味がない」

筒香の「教えない、教わらない指導」。

 実は筒香の野球人生を振り返ったとき、そういう教えない、教わらない指導によって成長してきた部分が多かった。

 筒香は小学校2年生のときに、和歌山ニューメッツというボーイズリーグ(現在はヤングリーグ所属)のチームで野球を始めた。その後、小学校5年生くらいからは、チームの野球と並行して自宅で実兄の裕史さんの指導を受けて、そこから本格的にプロの道を目指すことになる。

 自宅には父・和年さんが後に「筒香ドーム」と呼ばれるようになるビニールハウスにネットを張って作った室内練習場を建て、そこに打撃マシンを置いて打ち込みも行った。

 兄が球入れをして、弟が打つ。

 そんな二人三脚の練習を毎日繰り返してきたという。

 ただ、そこで兄の裕史さんは様々な練習をやらせたり、もちろん野球の技術を教えるわけだが、決してすぐに「こうやって打て」と答えは教えてくれなかったという。

 本書の中でもスイングについて裕史さんがバットを立てて打つ打ち方と寝かせて打つ打ち方など、いくつかの打ち方を実際に見せて、「どれがいいと思う?」と聞いてきたという話がある。

いつも自分自身で考える指導を。

「兄は何を教えるにしても、まず僕自身に考えさせる質問がすごく多かったと思います」

 しかも裕史さんは、その場で答えは求めずに筒香に実際に試させて考えさせる時間を与えた。そうして結果的に「立てて打った方がいい」と筒香が自分で答えを出すと、満足そうに「そやろ」と答えた、というエピソードが紹介されている。

 答えを簡単に教えない。

 考えるという過程があるから、それが一度、身につくと深いところで自分のものとなっていく。

 例えばスイングひとつにしても「ああしろ」「こうしろ」と形を示して、それを覚えこませるだけでは、一度、その形が崩れたときに、また形を示してくれる人がいなければ元には戻せない。しかし、自分で「なぜ、そういう打ち方がいいのか。バットを寝かせて打つ打ち方と立てて打つ打ち方はどう違うのか」と考えて、試して覚えることで、自分の中でスイングが消化されて入ってくる。そうすると狂いが生じたときにも、ある程度は自分で修正ができるようになる。

 そうして考える手助けをすることが、実はコーチングの重要なメソッドなのである。

 これはプロの世界に入ってからも、全く同じだと筒香は語る。

逆方向に強い打球を打ちたい!

 プロ入り直後から「逆方向に強い打球を打てる打者になりたい」という目標を持っていたが、周囲からは「ホームランバッターになるために引っ張れ」と言われた。実際の打撃練習でもそういうバッティングをすることを半ば、強制的に求められた。

 そうしてコーチとぶつかり、様々な軋轢を巻きこした末に2013年オフに出会ったのが、当時、DeNAの二軍打撃コーチだった大村巌(現ロッテ一軍打撃コーチ)だった。

「自分の経験もありましたし、日本ハムでコーチをしているときに指導者研修を受けて『まず指導する選手の言うことを聞くこと』ということを教えてもらったというのもありますね」

 こう語る大村コーチもまた、簡単には教えないコーチだったのである。

 そこで筒香を教えるに当たって最初にやったのが、どうやってきて、何を求め、どうなりたいのか、ということを聞くことだった。

 その上で一発か、三振かという打者ではなく「全打席でチームに貢献できるバッターになろう」と大村コーチが提案。そのためには技術的には逆方向にきちっと打てるようになって、確率も上げて打点も稼げる上で本塁打を打てる打者を目指す。今のスタイルへの挑戦が始まったわけだ。

「コーチは教える人でなく導く人」

 大村コーチの指導も「こう打て」「ああ打て」という強制はない。その目標に向かって、どういうスイングが求められて、そのスイングを自分のものにするためには、どうしたらいいのか。そのアイデアを大村コーチが出して、筒香が練習する。その繰り返しだったという。

 そうして翌2014年には一軍で打率3割、22本塁打、77打点をマークして、その後の「日本の4番」への一歩を踏み出すことになる。

「コーチとは教える人ではなく、導く人という意味なんです」

 筒香は言う。

 先のユニセフのイベントに送ったメッセージでも「大切なことは目の前の結果や大人側の自己満足ではなく、子供達の未来が主体であることだと感じています」と語ったが、今の少年野球で心配していることの1つが、大人の、指導者の教え過ぎということなのである。

 飛びすぎる金属バットを有効に利用するために、ポイントを前にしてあおるような打ち方を教える指導者。

 簡単に相手打者を抑えるために、安易に変化球、特にスライダーを覚えさせようとするコーチ。

 そうした教え過ぎの文化は、結局は子供達の未来につながらないのではないか、ということだ。

「3年前にドミニカ共和国のウインターリーグに参加したときに見た向こうのコーチは、子供に絶対に強制しない。適度な距離を保ちながら、困ったときに手助けをする。そういうシステムが確立されています」(筒香)

 そういう環境で育ったことが、将来的にメジャーリーグで活躍する選手を多く輩出することにつながっているのではないか。そう考えると納得させられることが多数あるということだ。

子供自身が試行錯誤して練習すること。

 筒香がスーパーバイザーを務める「堺ビッグボーイズ」の小学部「チーム・アグレシーボ」もそうだが、中学生のチームも日曜日の午後の練習は自主練習で子供が自分でメニューを考えるように指導している。

「最初は何をやっていいのか分からずに、右往左往する子供もいましたが、だんだん子供たちが自分で色々なことを考えて、今は自主練習というスタイルが定着して、選手もそれを有効に使えるようになってきています」(瀬野竜之介代表)

 自分で考え、工夫して上手くなっていく。

 筒香が語るように、最初に答えを出さないコーチングこそ、子供たちの未来を主体にした、本当の将来につながるはずである。

文=鷲田康

photograph by Kyodo News


関連ニュースをもっと見る

関連記事

おすすめ情報

Number Webの他の記事もみる
主要なニュースをもっと見る
社会のニュースをもっと見る
経済のニュースをもっと見る
政治のニュースをもっと見る
国際・科学のニュースをもっと見る
エンタメのニュースをもっと見る
スポーツのニュースをもっと見る
トレンドのニュースをもっと見る
生活術のニュースをもっと見る
地域のニュースをもっと見る

スポーツ アクセスランキング

ランキングの続きを見る

スポーツ 新着ニュース

新着ニュース一覧へ

総合 アクセスランキング

ランキングの続きを見る

東京 新着ニュース

東京の新着ニュースをもっと見る

東京 コラム・街ネタ

東京のコラム・街ネタをもっと見る

特集

特集一覧を見る

記事検索