J2優勝でも反町監督はニヒルだった。シャーレ掲揚拒否と松本山雅の未来。

J2優勝でも反町監督はニヒルだった。シャーレ掲揚拒否と松本山雅の未来。

 11月17日の松本山雅FC対徳島ヴォルティス戦。満員に埋まったサンプロアルウィンでの一戦はスコアレスドローに終わり、松本は4年ぶりのJ1復帰を勝ってスカッと決めることはできなかった。しかし他カードの結果によって、初のJ2優勝をも成し遂げられた。

 そんな今季のエンディングとピーター・ウタカら強力アタッカー陣を揃える徳島を無失点に抑え込んだことを含め、反町康治監督は「今季の松本を象徴するような試合だった」と振り返った。

 徐々に噛み締める喜び。それは、来年、さらなる歓喜があるのではないかとジワジワと来る期待にもつながる。

「長らく監督をしてきましたが、拍手で迎えられた記者会見は初めてですね」と記者会見場に現れた反町監督は言って喜んだ。ただ、指揮官が笑顔を浮かべたのは、その冒頭だけだった。

 新潟、湘南、松本……率いたチームはすべてJ1に引き上げてきた。しかし新潟を除く2チームで降格も味わっている。クラブを昇格させる難しさとともに、もしくはそれ以上に、J1に残留させる難しさを誰よりも知る1人である。

反町監督らしい言葉の数々。

 松本の昇格が2度目とあり、昇格決定後の松本の選手やスタッフを見ていても、大いに歓喜する人もいれば、意外とクールに安堵している人もいて、ギャップがあった。

 もちろん反町監督は後者のほうで、誰よりもニヒルなペシミストだった。

「私たちには勢いがあり、それでJ2は行けた部分もあるが、トップリーグに上がればそれだけでは通じない。その部分をしっかりやらなければいけない」

「『優勝』という結果も、アディショナルタイムに(モンテディオ)山形のスーパーなミドルが決まったから、少しだけこうしてにこやかな顔をできているだけで、現実は厳しいです」

「優勝争いをした大分トリニータ、横浜FC、FC町田ゼルビア、この3チームに我々は1勝もしていません。そういう現状を考えると、J2の中で果たして、このシャーレとトロフィーに値するチームなのか、もろ手を挙げて喜べるとは思っていません」

「ただ――言い方を替えると、勝負強さの出た1年になったと思います。苦しいゲームを失点ゼロで抑えて、勝つ試合も多かったです。22試合。半分を超えている」

結局シャーレを掲げたが。

 指揮官らしいと言うべきか、そのように問題点も摘出しながら、少し前向きにも見据えていた。

 優勝は偶然も重なったが、2位以内でJ2昇格を果たしたことは、ある程度、納得している。それができる力はあったと、反町監督は自負していた。

 とはいえ、それがJ1で通じるかは分からない――むしろ現状では厳しいだろうということを、さっそく強調していた。

 指揮官は試合後のピッチ上でのJ2優勝セレモニーの際、選手たちに何度も集合写真の中心でシャーレを掲げるようにせがまれた。一度は思い切り拒否して端っこに逃げた。ただ、もう一度選手たちから懇願されると、盛り上がりに水を差すのもいけないと、指揮官は全員の中心に立ってシャーレを天上に掲げた。

「監督というのは後ろから支える職業であり、私がシャーレを掲げるのはどうなのかと思いました。先頭を走り、気付いたら誰も付いてきていない。それが監督業ではよく起こり得ること。だから支えていくべきだとずっと思っています。ただ、サポーターとの約束を守り、今日1日だけは喜びに浸り、応援してくれた想いに応えたいと思いました」

“主役”は本意ではない。

 ネガティブな指揮官を前へ押し出す松本のサポーターの熱量。そうやってバランスも取れているのだと感じる。

 翌日の地元の新聞は市民新聞、一般紙、スポーツ紙、いずれも松本山雅一色だった。こうした現象は他の地域ではなかなか見られず、山雅パワーを思い知らされた。

 ただ、確かに指揮官が懸念していた通りと言うべきか、結果的に、反町監督が前面に出ている紙面が多かった。反町監督の手柄であるような紙面が目立った。

 おそらく、指揮官はそれを危惧していたのだ。

 そのように自身が“主役”になることは(反町監督を10年以上前から取材してきた身としては)、本望ではなかったのだろうとも感じた。

松本最大の強みと陰の部分。

 そして2019年、松本がJ1で生き残るためのテーマも、そこにあると感じた。

 徳島から加入2年目でキャプテンを任されたDF橋内優也は、「反町監督と出会って、これまで個の力に任せてきたところを、ポジショニングなども考えるようになり、学ぶことばかりでした」と語っていた。

 実際、指揮官も松本の守備面の統一感について、「チームの統一を図るために、自分を犠牲にしなければならない面を、チームのスタイルとして共有してやってもらわないといけない。ウチは、それがしっかりできてきている」と語るなど、その高い守備意識と体現できるところが、松本の最大の強みだと捉えていた。

 一方、東京五輪世代にあたる21歳のFW前田大然は最前線からチームを牽引して昇格に貢献した。「これまで優勝のかかった大舞台で常に負けてきた。ホッとしている」と語ったように、彼自身も、東京五輪を目指すU-21日本代表にも選ばれるなど、この1年でまた一回り大きく成長できた。

 しかし昨季水戸で記録した13ゴールから7ゴールに減らしている。「前にも行けるが、同じように後ろに向かうパワーもある」と反町監督は評価していたが、前田の前にも後ろにも向かえるパワーがあったからこそのJ1昇格だった。ただ、エースストライカーとしては、物足りない数字に終わったのも事実だ。

「チームの顔」は現れるか。

 反町監督ではない「チームの顔」が、とりわけ前線の選手の中から出現しないと、J1残留は難しい。そういった存在がいなくても戦えることが松本の特徴とも言えるが、指揮官はやはりそこに課題を感じているようだった。

「メッシやクリスティアーノ・ロナウド……優勝するチームには、得点王争いをする選手がいます。(J2優勝を果たした)ウチにそういった選手がいなかったのは珍しいことと言えます。ただ、それがもしかしたら来季に向けての課題かもしれません」

 そこそこのレベルの選手を集めるよりも、チームの軸であり顔になり得る選手を獲得したい。前田(海外クラブからも関心を示されているというが)が一段と輝ければ理想的ではあるが……前線を輝かせられる選手もほしい。

昇格が早く決まったからこそ。

 獲得が難しいのは百も承知だが、彼のみならずトップ級(かつてそうだった選手を含めて)を引き抜くことが、松本の“初”のJ1残留への条件になるはずだ。数年前、とある司令塔を獲得に動いたというが、状況に応じては再アタックできないだろうか。

 ひとりのタレントが加わるだけで、総力を引き上げる。そんな存在。J1優勝を経験した名古屋グランパスのレギュラーだった松本市出身の田中隼磨を獲得できたことで、J2上位を常に戦える集団になっていけたように。

 反町監督はサラッと言っていたが、今回の優勝決定でのプラス材料を挙げている。

「昇格が早く決まったことを、メリットにしないといけない」

 11月17日に昇格が決定し、21日には反町監督の来季続投が決定した。2019シーズンへ、松本は“インターバル”を最大限に有効活用しているはずだ。反町監督の腕の見せ所の一つが、今なのかもしれない。

文=塚越始

photograph by J.LEAGUE


関連ニュースをもっと見る

関連記事

おすすめ情報

Number Webの他の記事もみる
主要なニュースをもっと見る
社会のニュースをもっと見る
経済のニュースをもっと見る
政治のニュースをもっと見る
国際・科学のニュースをもっと見る
エンタメのニュースをもっと見る
スポーツのニュースをもっと見る
トレンドのニュースをもっと見る
生活術のニュースをもっと見る
地域のニュースをもっと見る

スポーツ アクセスランキング

ランキングの続きを見る

スポーツ 新着ニュース

新着ニュース一覧へ

総合 アクセスランキング

ランキングの続きを見る

東京 新着ニュース

東京の新着ニュースをもっと見る

東京 コラム・街ネタ

東京のコラム・街ネタをもっと見る

特集

特集一覧を見る

記事検索