“最後のデ杯”王者はクロアチア。変革必至のテニス界の行方は?

“最後のデ杯”王者はクロアチア。変革必至のテニス界の行方は?

 男子テニスの国別対抗戦、デビスカップが118年の歴史に幕を閉じた。実際はまったく姿を変えた国別対抗戦が来年からも『デビスカップ』として存続するが、それを『デビスカップ』とは認めない、認めたくないという選手や関係者が少なからずいる。

 先週の日曜日、歴史的な年のチャンピオンとして名を残したのはマリン・チリッチを擁するクロアチア。連覇を狙うフランスを破っての、13年ぶり2度目の栄冠だった。そして劇的な優勝シーンの一方で、デ杯の大改革に最後まで反対し続けたフランスのホームでの敗戦が、時代の変わり目を切なく侘しく印象づけていた。

「ホーム・アンド・アウェー方式という基盤を崩し、3セットマッチで戦うデ杯など、もはやデ杯ではない」とフランスのヤニック・ノア監督は厳しく言い放ち、エースとして戦ったルカ・プイユも「もうデビスカップに出ることはないと思う。これが最後」と語った。

 年間計4週の〈デビスカップ・ウィーク〉を設け、1年をかけてトーナメント方式で争われてきたデビスカップは、来年からはシーズンが終了した11月に決勝大会進出18チームが1カ所に集まり、1週間でラウンドロビンと決勝トーナメントを全て戦ってチャンピオンを決めることになる。

総会では3分の2以上が賛成。

 シングルス4試合とダブルス1試合をそれぞれ5セットマッチで戦っていた旧式に対し、新式ではシングルス2試合とダブルス1試合をそれぞれ3セットマッチで戦う。18チームの内訳は、今年のベスト4に残った4チームと、来年2月にホーム・アンド・アウェー方式で行われる予選の勝者12チームと、ワイルドカードの2チーム。この新方式の説明のたびに言われていたことが「サッカーのワールドカップのように」である。

 改革を主導し、新デビスカップに25年間で30億ドルという巨額の出資を申し出たのが、サッカーのスペイン代表DFジェラール・ピケが創設した大手投資会社の『コスモス』社と聞けば、その発想にも納得だった。

 デビスカップを主催するITF(国際テニス連盟)は、8月の総会でこの大改革案を承認。「デ杯の死」、「伝統への冒涜」といった激しい言葉での反対意見が少なくなかったにもかかわらず、3分の2以上の賛成票を取り込んだ背景には、従来のデビスカップがそもそも瀕死だったという現実がある。

現在のトップ10でデ杯経験者は5人。

 現在のトップ10プレーヤーのうち今年のデビスカップに一度でも出場したのは半分の5人。これでも意外に多いと感じるほどだが、ロジャー・フェデラーは丸3年プレーしておらず、錦織圭とファンマルティン・デルポトロも丸2年、昨年の全米オープンと今年のウィンブルドンで準優勝したケビン・アンダーソンは2011年を最後に出場していない。

 過密なツアースケジュールの中で年間4週は多すぎる、5セットマッチは負担が大きいといった声は膨らんでいた。開催国の負担も膨大で、ホーム開催を嫌がる国も増えていたという。

 代表に選ばれれば名誉なことと手放しで喜んだ時代は、もう終わった。全米オープン前の記者会見で錦織は、「これまでのフォーマットでは選手の負担が大きすぎるという意見が多かったので、(2月の予選と11月の決勝大会に)絞られたのはいいかなと思います。

 でもツアーファイナルを戦ったあとに力が残っているかといわれると難しい。ファイナルに出なかった人は(本来ならオフに入っているところを)待たないといけないので、それも難しいと思う」と話していた。

ズベレフ「11月のファイナルズには出ない」

 開催時期については、同じ意見が他のトッププレーヤーからも聞かれる。21歳の若さで今年のツアーファイナルズを制したアレクサンダー・ズベレフは「2月の予選には出ると思うけど、11月のデ杯ファイナルズには出ない」と断言。こんな意見が出る限り、サッカーのワールドカップなどという理想はあまりにも現実とかけ離れていると言うしかない。

 そんな中、デ杯に対抗するかのように、ツアーを運営するATPもまた国別対抗戦の『ATPカップ』を再来年から開催することを正式に発表した。

 時期は1月の10日間。シーズン開幕に合わせて、全豪オープンが開催されるオーストラリアの3カ所を舞台に行う。2単1複をそれぞれ3セットマッチで戦う点はデ杯と同じだが、出場国は24。

 また、最大の相違点はATPポイントが付与されることだ。最大で750ポイントを得られるというのは、マスターズの優勝が1000ポイントであることを考えればかなり魅力的。シーズン終了後と違って1月の全豪オープン前は、エキジビション大会などで肩ならしする選手も多く、従来のデビスカップほどの重圧のない10日間のチーム戦はもってこいといえる。

新たなファンと新鮮な話題の獲得に必死。

 フェデラーもノバク・ジョコビッチもこのATPカップには大いに乗り気だ。デビスカップからATPカップまでの間は6週間しかないため、今後、この2つのチーム戦がトッププレーヤーを奪い合うことになるのは必至。

 ちなみにラファエル・ナダルは、来年マドリードで開催されるデ杯に出場の意向を示している。「陣取り合戦ではない」とATPは強調するが、ITFに喧嘩を売っているように見えなくもないし、ただでさえ過密なツアーの中になぜわざわざ大会を作るのかと訝る声もある。

 しかし、ATPも新たなファン層の獲得と新鮮な話題の提供に必死なのだ。それは、昨年から始まった『ネクスト・ジェン・ファイナルズ』の試みからもうかがえる。

 フェデラーとナダルの2大スーパースターを中心とし、この15年ほどの間テニスは世界中でその人気を謳歌してきたが、永遠には続かない。すでに飽和状態にも見える。

 フェデラーは37歳、ナダルは32歳で、今年見事に復活したジョコビッチも31歳。アンディ・マリーはいまだ完全復帰にいたらず、若手も台頭してきてはいるが、ビッグ4全盛期に比べればツアー全体のパフォーマンスレベルも人気も幾分低下しているのではないだろうか。

 エンターテインメント性を高めたチーム戦には、テニスの新たな可能性がある。伝統のデ杯は終焉を迎えたが、新デビスカップにATPカップ、そして昨年からフェデラーが中心となって始めた欧州チームvs.世界チームの『レーバーカップ』もある。新しい時代のチーム戦にはいずれも、「国を背負って」とか「国旗のもとに」といった重苦しいイメージはない。

 それぞれが今後どう育っていくのか、日本の選手たちはどこにどう参加していくのか、興味は募る。

文=山口奈緒美

photograph by Getty Images


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