「晩秋の甲子園」に集った才能たち。いなべ総合の捕手、創志の第2投手。

「晩秋の甲子園」に集った才能たち。いなべ総合の捕手、創志の第2投手。

 夏の甲子園予選のあとに結成された「新チーム」には、それまで実戦の舞台に登場しなかった1年生が多くデビューするのも大きな楽しみの1つになる。

「秋の熊野」にも、そんな新戦力が何人も現れた。

 いなべ総合(三重)の2番を打った村木陽亮(1年・177cm80kg・右投左打)のバッティングに、まず目を奪われた。

 パワフルで、しかも打ち損じの極めて少ないバッティング。2番でこのバッティングか……と驚いていたら、

「うちは、最強のバッターを2番に置いてるからね」

 キャリア30年以上、ベテラン・尾崎英也監督がニヤッと笑う。

 低いライナーがあっという間に一、二塁間を抜いた最初の打席はファーストストライクを、同じような痛烈打球がライトに達した第2打席は初球を、どっちもひと振り勝負の打ち損じなし。

 先頭打者で打席に入った3打席目が、もっと見事だった。

 ボール先行の2球目をおっつけて振り抜くと、ライナーになった打球が切れずに真っすぐレフト線に伸びる。

 最初は横に追った左翼手が、途中からは打球のお尻を追いかける格好になって、100mのレフトポールまで球勢衰えることなく達したから驚いた。

 3本の長短打は、いずれもサウスポーから。右半身がまったく開かずに踏み込んでいくので、ボールを真っ正面から存分にひっぱたけるというものだ。

“しくじり”は早いうちにやろう。

 1年生はいい。無心で、夢中で、目の前にやって来たボールを振り抜ける。熊野の突き抜けた青空によく似合う。

 でもランナーを置いた時の打球処理、とりわけスローイングには気をつけよう。

 満塁で三遊間に緩く転がってきたゴロをグラブを伸ばして捕って、そこまではよかったが、そこからステップをきっちり踏み換えずに、腕の操作だけで一塁に投げようとしたから、送球が短くなった。一塁手がはじいたボールが転々とする間に、走者2人がホームを駆け抜ける。

 やってしまったプレーだが、身のこなしは悪くなかった。しなやかに反応した全身の連動は、フィールディングにはもちろんのこと、バッティングにとっても大きな財産だ。

 “しくじり”は誰にでもある。どうせやるなら、今のうちにやってしまえ。

腰を下ろしたまま二塁に投げる捕手。

 攻守交代で投球練習が済んで、受けた捕手が腰を下ろしたまんまの体勢からセカンドに投げた。

 久しぶりに見たなと思って、そういえば甲子園でも……と記憶をたどってみたらなんのことはない、同じ「いなべ総合」のレギュラーマスクだった。

 渡邉雄太捕手(175cm75kg・右投右打、当時)。

 2年前のセンバツだった。ミットを構えたまあるい姿が、それ自体“ミット”に見えた。法政大に進み、来季は神宮のホームベースでミットになろうとしている。

「そうなんです。僕は渡辺のイメージで見てるんです。まあるく座れるんで、こいつも」

 この試合で、いなべ総合のホームを守った田所宗大捕手(175cm81kg・右投右打)も1年生だ。

 腰を下ろしたままの二塁送球は、上体の力だけでできるものじゃない。膝を突きながら下半身でリズムをとって、腕のしなりを効かせて投げる。それができたのが、「渡邊雄太」だった。

 彼には矢のような送球ではなくても、二塁ベースの上にポンと置ける技術があった。田所捕手には、“そこ”を勉強してほしい。

「キャッチャーは構えた姿」

「中学では外野手だったんです。同期にキャッチャーがいなかったんで、入ってすぐ試しにみんなにキャッチャーさせてみたら、おおっ、渡辺みたいに丸く構えられるヤツ、いるじゃないか! って」

 いなべ総合高・長嶋斎直コーチは、愛知・杜若高から社会人野球の一光でずっとマスクをかぶり、チームの頭脳としてプレーしてきた。

「キャッチャーは構えた姿がピンと来るかどうか……だと思います。今は2年生の利川(太樹・177cm80kg・右打右打)が一歩リードしていると思いますが、競い合って伸びていってくれたら」

創志・西の陰に隠れた好投手。

「秋の熊野」にも、あっ! と目をむく“隠し玉”がいた。

 誰もが西純矢ばかりに目が向いている創志学園。その投手陣の中にいたから驚いた。

 草加勝(2年・182cm72kg・右投右打)。

 スラリとした、見るからにピッチャー体型。誰が見たって“ピッチャー”である。

 時計の文字盤でいうと“11時”ほどの角度から、完全なタテ軌道で腕を振り下ろせる肩甲骨の可動域の広さ。純粋のオーバーハンドだ。

 そのタテ軌道から、やはり純粋にタテ軌道を描ける本物の「カーブ」が投げられる。このボールはかけがえのない財産だ。

 横ブレがまったくない純粋のタテ軌道。こういうカーブは、スタンドから見ている者にはドロンとした鈍重な変化にしか見えないが、打者目線もしくは捕手目線には、ある意味、速球以上のスピード感を訴えかけてくる。

 岸孝之(楽天)、武田翔太(ソフトバンク)、スライダーを覚える前の前田健太(当時・広島)……プロのレベルでも空振り三振を奪えるカーブは“必殺兵器”になる。

他の学校ならバリバリのエース。

 指にかかった時の低めの速球の質。これもいい。

 ホームベースの上まで回転がほどけないボールの強さ。さらに、タテ軌道の腕の振りが生む球筋の角度。

 この速球とカーブ。お互いを高め合う相乗効果を期待してよい。

 ヨソだったら、バリバリのエースなのにねぇ……。

 そんな煽りにも、「いやぁ」と優しそうな笑顔で応える。

「はい、ウチは西と自分の2枚看板ですから!」

 ほんとは、それぐらい凄んでほしかったのだが。

 持ってるものは問題なし。フィニッシュで全身がパーン! と跳ねる瞬発力。足も速いんだろうなと思ったら、

「チームでいちばん速いですよ、草加。余裕で50m5秒台ですから」

 ブルペンで相手をしていたキャッチャー高見琉生(るい)くんが推してくれる。

勝負度胸は西をお手本に。

 あとは「実戦力」だ。

 ブルペンで見せつけてくれるあふれるばかりの才能を、実戦のマウンドでどれだけ形にできるのか。

 勝負の舞台で、どれだけ自分の力量を信じられるのか。マウンドに上がったら、ある意味“盲信”でよい。

「オレに勝てる者が、どこにいるのか!」

 それぐらいの厚かましさで腕を振ろう、いや、腕を叩こう。

 そこのところは、すぐそばに絶好のお手本があるじゃないか。戦友・西純矢の“心意気”を見習おう。

 この秋、中国大会の準決勝で広陵高に敗れた創志学園。センバツは微妙といわれる状況らしいが、個人的には、ぜひもう一度、あの舞台で見たい。

 今度ぜひ見たいのは、西純矢、草加勝……ひと冬鍛えた2人の快腕の「投げ合い」である。

文=安倍昌彦

photograph by Hideki Sugiyama


関連ニュースをもっと見る

関連記事

おすすめ情報

Number Webの他の記事もみる
主要なニュースをもっと見る
社会のニュースをもっと見る
経済のニュースをもっと見る
政治のニュースをもっと見る
国際・科学のニュースをもっと見る
エンタメのニュースをもっと見る
スポーツのニュースをもっと見る
トレンドのニュースをもっと見る
生活術のニュースをもっと見る
地域のニュースをもっと見る

スポーツ アクセスランキング

ランキングの続きを見る

スポーツ 新着ニュース

新着ニュース一覧へ

総合 アクセスランキング

ランキングの続きを見る

東京 新着ニュース

東京の新着ニュースをもっと見る

東京 コラム・街ネタ

東京のコラム・街ネタをもっと見る

特集

特集一覧を見る

記事検索