熊野で再会した創志学園・西純矢。投球術と変わらぬ野球小僧っぷり。

熊野で再会した創志学園・西純矢。投球術と変わらぬ野球小僧っぷり。

 今年も秋の“熊野”に行ってきた。

 毎年11月最終の土曜、日曜、三重県の熊野市を中心としたいくつかの球場、高校グラウンドを会場にして、各地から集まった高校チームが練習試合を行って、夏の新チーム結成から磨いてきた腕を競うのだ。

 この秋、遠路熊野にやって来たチームは、北から、羽黒高(山形)、健大高崎(群馬)、昌平(埼玉)、関東一(東京)、長野日大(長野)、大府高(愛知)、市立岐阜商(岐阜)、敦賀気比(福井)、三田松聖(兵庫)、近大新宮(和歌山)、創志学園(岡山)。

 甲子園常連校もいくつも参加して、これに、地元・三重のいなべ総合高、近大高専、紀南高、木本高が加わって、総勢15校が秋の熊野の澄んだ大気と抜けるような青空のもと、2日間熱戦を繰り広げた。

高校野球の本質すら垣間見えた。

 私が、1年の野球の現場の締めくくりとして熊野に伺うようになってから今年で10年。この催しが始まってからは15年になるという。

 もともと交通が不便でこれといった産業もなく、年々地元に“元気”がなくなっていくのを「なんとかしよーよ!」と立ち上がったのが、地元・熊野で生まれ育った地元企業の2代目、3代目さんたち。

 その多くが、やはり地元の木本(きのもと)高校野球部のOBたちだったから、まず「野球」で地元を元気にできないか……と編み出したアイディアがこの催しだった。

 怖いもの知らずの「実行委員会」の面々が、名古屋、大阪の有名校をはじめ、遠く関東にまで足をのばし、横浜高、東海大相模と参加協力の依頼活動を行ったが、大方は、「門前払い」だったという。

 わかる、わかる……。私が続けてきた「流しのブルペンキャッチャー」も雑誌『野球小僧』の連載ではじめた頃は、十中八九「お断り」だった。

 初めてのことは、いつも“奇妙”に見えるものだ。

 そこから頑張ったのがすごい。今では、参加希望校が列を作っているほどの盛況である。

 すばらしい催しだと思う。参加しているチームの指導者の方たちの明るい表情、そして何より、選手たちの目の輝きが、それを証明している。

 同行の保護者会のみなさんにしても、公式戦の時のようなひきつったみたいなテンパりモードもなく、メガホン振り回して声を合わせた応援もない。ゆっくりとじっくりと観戦できて、すごくリラックスした感じ。

“応援”とは、見守ることと見つけたり。

 なにか、高校野球の本質のようなものすら垣間見えるようだ。

甲子園を沸かせた剛腕が登場。

 今年の「熊野」の最大の注目は、事前の予想通り、創志学園の剛腕・西純矢投手(2年・184cm85kg・右投右打)の投げっぷりだった。

 この夏の甲子園、2試合18イニング25三振を奪った本格派右腕として、すでに来秋ドラフトの1位候補にも挙げられている高校球界有数の投手だ。

 そんなすごいヤツが、ほんとにこんな遠くまで来るのか? ほんとに来ているから、この「熊野」というのはすごい催しなのだ。

 各チームは、土日で2試合ずつ、合計4試合を行う。

 創志学園・西純矢は、まず土曜日の健大高崎戦で完投。翌日、いなべ総合戦でも先発で7回を投げ、羽黒戦では4番を打ち、5回までレフトを守った。

夏から5kg増えたと嬉しそうだったが……。

 土曜日の健大高崎戦で、西純矢投手を見て驚いた。

 試合前、外野で遠投をする彼のユニフォーム姿が「西純矢」に見えない。先発・西と教わっていたが、外野で投げているのは別の投手だろう……と近くまで見に行ったら、「背番号1」ではないか。

 やっぱり西だわ……。

 ユニフォーム姿のシルエットが、夏とはぜんぜん変わっているじゃないか。 遠くで見ると、ユニフォーム姿が四角く見える。あとで訊いてみたら、「夏から5キロ増えました!」と嬉しそうにしていた。

 ただ私には、“ギリギリ”の体に見える。これ以上つけたら回転しにくくなる、そのギリギリぐらいではないのか。

 投げるフォームも、夏よりちょっとゴツゴツして見える。 もともと西投手は、激しいボディアクションで投げたいタイプの熱投派である。だから、体の回転がしにくくなると、ムリをしてでも回転させようとし、フォーム全体のバランスを崩したりする。

 この試合、腕を振った瞬間に、西投手の帽子が飛んだことが何度かあった。

 首を振って投げてるのかな……。

 エイ、ヤー! の力任せに見える投球も何度かあって、特に試合後半、打者を追い込んでから「速球勝負」に出たときの“渾身”の全力投球で、そんな傾向が見える。

力感と球速のバランスが重要。

 ちょっと苦しそうに投げてるかなと思っていたら、試合中盤になって、健大高崎打線が西投手の投球にタイミングを合わせ始めてきた。

 今年の健大は例年のチームより小柄な選手が多いのに、西投手のいかにも重そうな目測140キロ前半を苦もなく外野の深いところに会心のライナーで運んでいく。結局、7回に4点を奪われて敗れたが、西投手の投球から、彼の課題とすばらしさ、その両面がはっきり見てとれた。

 145キロ前後の力感で投じられる140キロ前半の速球。 これなら、打者のタイミングは合ってしまう。

 逆に、140キロ前半の力感で145キロの速球ならどうなるか? 打者は間違いなく差し込まれる。

 そんなに楽そうな腕の振りで、どうしてこんなに速いボールが……!

 そんな“意外性”が、打者のスイングを圧倒する。その事実を実感してほしい。そのメカニズムを身につけてくれたら……さらに、難攻不落の快腕にレベルアップできる。

 それには、体の外側に“ヨロイ”をまとうことよりも、内側のインナーマッスルを強化することだ。

必殺のスライダーをこの日は投げず。

 この試合、創志学園・西純矢投手は、実は必殺兵器のタテのスライダーを投げていない。

「大きく育てたいからね。大きく育てないと、あれだけの大器なんだから」(長澤宏行監督)

 変化球は、カーブとツーシーム、または横に動かすスライダーの3種類。

 ツーシームに見えた右打者の胸元、膝元に沈む速い系のボールは、本人に訊けば「チェンジアップ」なのかもしれないが、コントロールさえ磨けば、タテのスライダー同様、この先でもう1つの“必殺”になれるボールになるはずだ。

 夏の甲子園で、あれだけ全国のスラッガー、強打者たちのバットに空をきらせたタテのスライダーをおそらく1球も使わず、苦しみながらも試合中盤まではなんとか試合を作った西投手のピッチングセンスは、やはり見上げたものだ。

2日目の投球はまったく違った。

 試合会場になった「紀南高校」のグラウンドのネット裏には、両チームの選手の家族、関係者、近郷近在の野球ファンでびっしり。

 みんな、西純矢を見に来ました、みたいな空気が漂う中、見せてやろうじゃないの! ぐらいの心意気はあったはず。

 そんな気負いもはっきり見えて、しかし実際はなかなか思うに任せないピッチング。悶々とした思いもあったのだろう。4番を託されながら、内野ゴロで全力で走らず、ダグアウトに戻ってきて、ヘルメットもボトンと落っことしたままで……。

 大丈夫かな、と思っていた翌日、日曜日の羽黒戦で、ガラッと違う「西純矢」を見せてくれた。

 抑制された力感。

 そんな表現が近いだろうか。全身にあふれんばかりの気合いをにじませながら、それでいて、強く投げようとし過ぎない。速い球を投げようとし過ぎない。

 だから、しっかり指にかかった速球が打者のスイングを圧倒する。きのうとは真逆のメカニズム。気分よさそうに腕を振って、連投の疲れどころか、今日のほうがぜんぜんフレッシュなピッチングだ。

最大の伸びしろは野球小僧なこと。

 7回を0点に抑えた第1試合のピッチングもすばらしかったが、それ以上にこの剛腕の“伸びしろ”を目の当たりにしたのは、4番・レフトで出場した第2試合だ。

 連係プレーの送球が逸れて、ショートの後方にボールが転がった。

 三塁手が追う手もあった。その時だ。

「オレだー!」とばかりに突進してきたのが、レフトを守っていた西純矢だった。

 深く守っていた。「サード、サード!」と遠くから指示して済ませてもいい位置だったかもしれない。

 それがなんのためらいもなく、ボールが逸れた瞬間に、一目散にレフトから突っ走ってきたから驚いた。

 迷いのない、猛烈な走りっぷりがすばらしかった。

 なんだ、野球小僧じゃないか……。

 うれしかった。野球選手の最大の伸びしろとは、まず「野球小僧」であること。

 きのうはちょっと心配したが、これだったら、もうだいじょうぶ!

 創志学園・西純矢、当たり前だが、まだまだいける!

文=安倍昌彦

photograph by Kyodo News


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