あの一瞬が無ければ湘南が16位に!?岡本拓也、超ファインプレーの真実。

あの一瞬が無ければ湘南が16位に!?岡本拓也、超ファインプレーの真実。

「意図した習慣化」

 これは日頃からある行動を意識的に取り組むことで、身体と意識にその工程を染み込ませ、無意識のうちにそのアクションを起こせるようになることを指す。それは瞬間的なことから日常的なことまで当てはまる。

 サッカーにおいて、「意図した習慣化」は個人の技術の向上、チーム戦術の向上における重要な要素の1つとなっている。これらは毎日のトレーニングで積み上げられるものであり、そのトレーニングは、身体を動かすだけでなく、常に意識と洞察力、理解力という頭脳的な要素も伴っていないといけないとされる。

 J1最終節・名古屋グランパスvs.湘南ベルマーレの一戦を取材していた時のことだ。

 湘南のMF岡本拓也のあるプレーを観て、湘南というチーム、選手個々の中にこの「意図した習慣化」が、しっかりと植え付けられていることを改めて確認できた。

 そして、試合後にその時のプレーの身体的・心理的な状態を岡本に質問してみたところ、彼の口から重要なキーワードが次々と出てきた。

 岡本の口から出たその言葉こそが、今年ルヴァンカップを初制覇し、J1残留を手にすることができた湘南の、大きな強さの秘密になっていたことを感じた。

 話の核心に入る前に、まず「絶対に負けられない一戦」となった名古屋戦を振り返ってみたい。

前半は完全に試合を支配したが。

 湘南にとって引き分け以上でJ1残留が確定し、負ければプレーオフ圏内転落の可能性が大きかったこの試合、岡本は右のウィングバックとしてスタメン出場していた。

 前半は、FW山崎凌吾と梅崎司&菊地俊介の2シャドーの3枚を軸に、高い位置でボールを動かしていた。岡本と杉岡大暉の両ウィングバックが積極的に仕掛けることでサイドに起点を作っていくサッカーがハマっていたのだ。

 19分に左サイドでボールを受けた梅崎が縦のスペースにボールを送り込むと、フリーで抜け出したMF金子大毅の折り返しを、菊地俊介が鮮やかなダイレクトボレーで押し込んで先制に成功。

 さらに36分には梅崎のスルーパスに抜け出したDF山根視来が名古屋のGKランゲラックに倒され、PKを獲得。これを梅崎が冷静に決めて、リードを2点に広げた。

後半、湘南にとって嫌な状況に……。

 だが、後半は名古屋の圧倒的な攻撃力の前に押し込まれる時間が続き、名古屋は66分にFWジョーがペナルティーエリア内で倒されてPKを獲得。これをジョー自らが決めて1点差に詰め寄ると、74分にはDF和泉竜司の右からのクロスを、ペナルティーエリア内で湘南DF坂圭祐が痛恨のハンドリング。再びジョーがPKを決め、2−2の同点とされた。

 湘南にとってはこのまま引き分けで終われば残留が決まるが、勝ち越されると鹿島アントラーズvs.サガン鳥栖の一戦が同点に終わった時点で、一気にプレーオフ圏内確定となる緊迫した状況に追い込まれた。

 この状況下における84分に、冒頭で述べた岡本の「意図した習慣化」の象徴的なシーンが生まれた。

敗北寸前の一瞬に飛んできた岡本。

 名古屋のMF前田直輝が右サイドからカットインしてきて、寄せる杉岡を交わしながら、ペナルティーエリア角から左足インフロントでゴール前にクロスを送り込む。

 このボールにゴール中央で待っていたジョーが飛び込むと、坂と山根、GK秋元陽太が3人掛かりで競り合い、秋元が体勢を崩しながらもギリギリのところでパンチング。3人ともその場に倒れ込んだ。

 気迫のクリアだったが、秋元が弾いたボールは上空にふわりと舞い上がり、放物線を描きながら5mほど後方にいた、完全フリーのFWシャビエルのもとへ緩やかに飛んでいった……。

 一気にプレーオフ圏内に引き落とされる逆転ゴールを浴びる決定的なピンチだ。

 まさに崖っぷちの状況だった。

 しかし、ゆっくりと落下して来るボールをしっかりと捉えて、左足シュートを打とうとするシャビエルに、矢の様に全力で向かって行ったのが岡本だったのだ。

岡本の捨て身の超ファインプレー!

 岡本がシャビエルに向かって一直線にダッシュ。

 シャビエルが強烈なインパクトで左足ハーフボレーを放った瞬間、左正面からトップスピードのまま滑り込む形で左足を差し出して、完璧なシュートブロック!

 ボールは勢いをそのままに高く上空へと舞い上がり、ペナルティーエリアの外に飛んでいった。当のブロックした岡本と言えば、凄まじいスピードのままに勢い余ってその場で後転していた……それほどまでの全力ダッシュで、まさに「捨て身」の起死回生の超ファインブロックだったのだ。

 クロスが上がったシーン。岡本はジョーではなく、ジョーの裏のスペースを狙ってファーサイドに流れていたMF秋山陽介のマークに付いていた。だが、味方の3人がジョーと競り合って、秋元が弾いたのを確認すると、彼の目は瞬時にそのボールの先にいるシャビエルを捉えていたという。

「あそこは『身体を投げ出さないといけない場面』でしたので。もう、身体が勝手に動いていましたね」(岡本)

 これは岡本の身体に染み付いた「当たり前の行動」だったのだ――。

「ウチのチームでは『スタンダード』」

 あの瞬間にじっくりと考えている時間は一切無かった。少しでも考えていたら対応が遅れ、シャビエルのダイレクトシュートは間違いなくゴールに入っていただろう。

 試合を2−2で終えた直後、岡本にこのシーンについて質問してみると、岡本は自信にあふれた表情でこうコメントした。

「ウチのチームではあれが『スタンダード』で、あれをやらないと試合に出られないんです。

 何と言うんですかね……もうウチにとってああいう場面での身体を張ったプレーは『習慣』ですからね」

 この答えから、筆者とのやりとりが始まった。

身体を張らない選手は湘南にはいない。

筆者「どうしたらこれを習慣化させられるのですか? 『身体を張って守る』という言葉はよく使われるし、言葉で言うは簡単ですが、それを『当たり前』にすることは相当難しいことだと思います」

岡本「もう日常なんです。普段の練習からちょっとしたゴール前でのバトルだったり、紅白戦でも、あの場面で身体で滑ってブロックに行かない選手はウチには居ないですよ(笑)。

 曹貴裁監督も良く言うのですが、『最後のところで滑ってやられるなら仕方がない』と。逆にそこで滑らなかったときの方が、曹監督にめちゃくちゃ怒られますし、今ではもう周りのチームメイトが許してくれないくらいに当たり前のプレーですよ(笑)」

筆者「よく『ディフェンスの基本』は、むやみに滑ったら切り返しでかわされてしまうため、『一発で行くな!』とか、『遅らせろ!』と言われることもありますよね。

 そんな固定観念がある中でもあえて『滑る勇気』を出すというのは、より周りの状況を冷静に見ることができていないと成し得ないことだと思います。下手したらハンドになってPKを与えることになるし、切り返しでかわされたら、『なぜ飛び込んだんだ!(怒)』と言われかねないと思います」

岡本「その通りですね。でも、あの場面だったら……『(シャビエルが)絶対に(シュートを)打つ』という確信がありましたから。それにたとえ切り返されても、山根か(坂)圭祐がもう1回反応して滑ってくれると思っていましたし、あの瞬間は僕しかいなかったので。

 そういうところを観てもらえると、選手としても凄く嬉しいですよね(笑)。ありがとうございます」

PKが3回も出た試合で、別格の勇気。

筆者「今日の試合、ハンドやファールでPKが両チーム合わせて3回も生まれてしまった状況の中でそれができるのは凄いことだと思います」

岡本「でも湘南でなら、あれは誰がそこにいても、ああいうプレーをすると思いますよ(笑)」

筆者「曹監督だけではなく、チームメイトから指摘されますよね。チーム共通認識になっているからこそ、そこは絶対に看過されない、と」

岡本「そうなんです。歳上、歳下関係なくめちゃくちゃ言われますし、僕も言っちゃいます(笑)。こうみんなで要求し合えているのが良いと思います」

「曹監督にめちゃくちゃ怒られ……」

筆者「岡本選手も2016年に湘南に来た当初は、すぐに習慣化できなかったと思います。身体を張るべきところで、滑らなかった時に見過ごされなかった経験がかなりあるのではないでしょうか?」

岡本「(移籍1年目の)一昨年は結構戸惑いましたが、昨年は『自分はしっかりと身体を張れる選手だ』と自信を持ってプレーしていました。でも……昨年、1回だけ逃げた場面があって、試合後に曹監督にめちゃくちゃ怒られました。

 ホームのモンテディオ山形戦(J2第16節)で、0−0の後半アディショナルタイム(90+2分)にミドルシュートを決められた(山形のFW中山仁斗が決勝ゴール)試合だったので。このシーンで僕がシュートブロックに行くべきだったのに、距離感も悪くて、ちょっとよけてしまったんです……。

 決まった瞬間、自分でも正直信じられない気持ちになりましたし、やっぱりそこは後でめちゃくちゃ指摘されたので。ベルマーレの一員として試合に出る以上、ああいうところでは責任を持って身体を張れないといけないし、自分もまだまだだな、って思ったんです」

多くの選手が身体を張ったプレーを。

 曹監督、そして湘南というチームの厳しさと、そのエンブレムを背負ってピッチで戦う選手としての自覚が、そんなプレーぶりを加速させていった。

 勝たなければいけなかった前節の浦和レッズ戦。

 そして絶対に負けてはいけなかった名古屋戦。

 岡本に限らず、多くの選手が最後の最後で身体を張り続けて結果を掴み獲った。

 言葉では分かっていても、言葉で表現できても、実際にピッチでそれを出せるかどうかは別問題。しかも、岡本のプレーが出たのは、緊迫した状況で訪れた絶体絶命のピンチ。

 そこで当たり前のものとして、あのプレーが自動的に出てくることこそが、湘南というクラブが積み上げてきたものであり、岡本自身が積み上げてきたものだと確信できた。

「アウォーズのときに恥ずかしい(笑)」

 試合後のフラッシュインタビューで曹監督が「勝ち点1を拾った要因とはどこにありますか?」と質問をされると、「いや、拾ったわけではない。勝ち点1を獲ったんだと思っています」と語気を強めたのも当然のことだったのだ。

「今は曹監督から何か言われるからやるというより、自分からやらないとみんなからの信頼も無くなる、と思うようになれました。みんながやっているのに、自分だけできないというのは、ウチのチームではあり得ない」

 こう力強く語った岡本だったが……最後の最後、筆者だけにこんな本音も漏らしてくれた。

「ルヴァンカップ王者がJ2降格だと(年末のJリーグ)アウォーズのときに恥ずかし過ぎるんでね! J1残留できて良かったですよ、ホントに(笑)」

文=安藤隆人

photograph by Takahito Ando


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