自由を謳歌しているベンゲルが、もし今のアーセナルを語ったら。

自由を謳歌しているベンゲルが、もし今のアーセナルを語ったら。

 22年にも及ぶプレッシャーから解放され、いまアーセン・ベンゲルは自由を謳歌している。レアル・マドリーやパリSG、バイエルンの新監督候補と取り沙汰されたものの、読書をしたり、旅行を楽しんだり、かなりリラックスしているようだ。しかし、アーセナルが気にならないはずがない。

 ウナイ・エメリ新体制の古巣をどのように捉えているのか。“ベンゲルの目線”で考えてみた。

 チームは様変わりしつつあるが、ベースは昨シーズンまでの戦力で築かれている。

 サイドバックは右がエクトル・ベジェリン、左はこのところセアド・コラシナツだが、ハムストリングの痛みが治まればナチョ・モンレアルがポジションを取り戻す。また、エインズリー・メイトランド・ナイルズが、モンレアルの座を脅かすまでに成長したことも喜ばしい。

ドイツ人GKレノの高い安定感。

 中央にはアキレス腱を痛めていたローラン・コシェルニーがまもなく復帰し、彼の相棒はシュコドゥラン・ムスタフィなのか、あるいは新戦力のソクラティス・パパスタソプーロスなのか。コンスタンティノス・マブロパノスは、そけい部の回復が遅れているようだ。いずれにせよ、コシェルニーが戻ってくればDFラインは安定する。

 GKはベルント・レノ。とても安定している。やはり、ドイツ人のGKはレベルが高い。

 2000年代初期にはイェンス・レーマンという優れたタレントがいた。しかし、ペトル・チェフを忘れてはならない。そけい部の負傷によりレノにポジションを明け渡したが、数多くの修羅場を潜り抜けてきたチェフの経験は貴重な財産だ。

 チームファーストを貫くメンタルもすばらしく、二番手に甘んじている現在も、ロッカールームをまとめているに違いない。

ジャカは相変わらずリスキー。

 中盤にも新顔がいる。ルーカス・トレイラだ。いまや欠かせない存在といって差し支えない。パトリック・ビエラほど大きくはないが、非常に俊敏だ。また、ワンタッチ、ツータッチで繰り出すパスはテンポがよく、アーセナルが攻撃のリズムを刻むうえで重要な役割を担っている。世界でもトップランクの中盤センターになりうる逸材だ。

 さて、グラニト・ジャカ──。相変わらずリスキーな男だ。目を見張るロングフィードを通したかと思えば、目を覆いたくなるようなミスで失点したり、ピンチを招いたり、さながら『ジキルとハイド』のようだ。

 しかしエメリ監督は、ジャカにゲームキャプテンを託している。この人選は信頼の証だろう。アーセナルに加入して3シーズン目。決して古株ではないジャカはアームバンドを委ねられたのだから、その責任をまっとうしなければならない。

ラムジーの去る日が近づく?

 本来であれば、ゲームキャプテンはアーロン・ラムジーが適任だ。マンチェスター・ユナイテッドの勧誘を蹴り、カーディフからやって来て11年目。アーセナルをよく知る彼こそがリーダーになるべきだった。

 ただし、来年の夏にはフリートランスファーとなる。早ければ1月に出ていくかもしれない。そのような選手にゲームキャプテンは託せない。第13節終了現在、今シーズンの先発はわずか6試合。エメリ監督は正しい決断を下した。

 洋の東西を問わず、いつの時代も契約で揉めるケースはある。エージェントに踊らされているのか、本人の意思なのか、あるいは家族が影響しているのか。交渉中に思わぬトラブルに出くわすケースは頻繁にある。今回も些細な意見の食い違いが、大きな綻びに姿を変えたのだろうか。ラムジーが翻意することはない、と伝えられている。

 チェルシー、リバプール、バイエルンなどが虎視眈々との情報も耳に入っているが、できるものなら残ってほしかった。それにしても、ジャック・ウィルシャー(現ウェストハム)に続いてラムジーも去るとは……。寂しいものだ。

懸念がもうひとつ、エジル。

 もうひとつの懸念材料はメスト・エジルだ。第13節のボーンマス戦だけではなく、先発メンバーから外れるケースが増えてきた。ロシア・ワールドカップの疲労が残っているのか、彼らしいプレーを見せてくれたのは第9節のレスター戦だけだ。

 監督が代わればゲームプランも変更を余儀なくされる。生き残るためには、エジルもさらなる鍛錬が必要だ。しかし、レスター戦のパフォーマンスには惚れ惚れする。

 本人も「アーセナルでキャリアを終えられたら……」とコメントしているのだから、この心意気に応えるのも監督、スタッフの仕事だろう。

 そう、スタッフはガラリと変わってしまった。長年にわたって尽力しているのはアシスタントコーチのスティーブ・ボールドただひとりで、そのほかは大半がエメリのチームだ。当然なのだろう。同じ絵を描ける者同士が切磋琢磨すればいいのであって、何かがうまくいかないときは、チームをよく知るボールドのアドバイスを仰げばいい。

エメリ改革は確実に浸透中。

 強化担当も昨シーズン終盤に責任者となったスベン・ミズリンタート、バルセロナで凄腕を発揮したラウル・サンジェイが中心だ。監督がすべてを仕切る時代ではなくなった。当然、冬の市場も彼らフロントの交渉術がアーセナルを左右する。

 移籍金が発生するうちにラムジーを手放すのか、足首に重傷を負って今シーズン中の復帰が難しくなったダニー・ウェルベックの代役を探すのか。いずれにせよ、現状を冷静に見極め、無駄な出費だけは避けたいところだ。

 昨シーズンまでのアーセナルは、自由闊達な攻撃がセールスポイントだった。しかし、今シーズンは新加入のトレイラが目立つように、前線からのプレス、守備面の整備が図られている。カウンターにも凄みが増したようだ。やはり、高い次元で攻守のバランスを維持することが上位進出の絶対条件だ。エメリ監督の改革は着実に浸透している。

勢力図が大きく変わるからこそ。

 かつてはビッグ3、ビッグ4といわれたプレミアリーグも、莫大な放映権料ですっかり変わった。

 ほんの10年前までは、マンチェスター・シティが優勝争い……いやいや、我がアーセナル以来となる無敗優勝を期待されるなんて考えられなかった。エバートンやボーンマス、ウォルバーハンプトンも油断できない実力をつけた。

 アーセナルもビッグクラブであり続けるためには、日々の努力を惜しんではならない。

 ユナイテッドの不振は反面教師だ。明日は我が身、である。

文=粕谷秀樹

photograph by Uniphoto Press


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