ミシャはなぜ札幌で愛されるか。北海道にはロマン主義がよく似合う。

ミシャはなぜ札幌で愛されるか。北海道にはロマン主義がよく似合う。

 やっぱりミシャって、ロマンチストすぎるから「あと一歩」なんだろうか――。

 札幌ドームに2018シーズン最後のタイムアップの笛が鳴り響いた瞬間の本心である。

 ミシャことミハイロ・ペトロヴィッチ監督が率いる北海道コンサドーレ札幌。最終節の相手はサンフレッチェ広島だった。第33節時点で2位につける広島は勝ち点56、それを追う4位・札幌は勝ち点2差の54。勝てば自力でクラブ史上初となるACL出場権を手中にする決戦となった。

 この日、キックオフから25分間の札幌は極上のエンターテイメントだった。

 可変システムの特性を生かしたサイドチェンジを起点に、複数人が連動して奪ったチャナティップの先制点。そして後方でボールを動かしてから背後へのロングボール1本で広島守備陣を混乱させ、ジェイが35mもの距離からループシュートを決めた追加点。どちらもファインゴールだったし、ゲーム全体で見ても圧倒的に広島を押し込んでいた。

攻め続けるスタイルの魅惑と脆さ。

 だが、その高揚感は長く続かなかった。

 広島の城福浩監督がこの日のために採用した3-4-2-1システムは、時間を経るにつれて落ち着きを取り戻す。それとは対照的に、札幌の攻撃はパワーダウンした。

 気づけば後半7分の時点で2点リードは消えていた。焦り始めた札幌は後方からのビルドアップにミスが生まれ、相手カウンター時には中盤のフィルターが利かないどころか最終ラインのど真ん中がガラ空きになってシュートを浴びる。ク・ソンユンのビッグセーブがなければ、広島の一方的な展開になっていてもおかしくなかった。

 終盤、ジェイに加えて切り札の都倉賢、そしてDFのキム・ミンテも前線に上げるパワープレーは状況を打開する可能性を感じさせた。ただそれ以上に、城福監督が投入した広島のパトリックが、ほぼ“1バック”状態の宮澤裕樹をこじ開ける可能性の方が高く見えた。

 実際には、試合は2−2のままタイムアップ。受けるのではなく、攻め続けるのみ――そんなスタイルの魅惑と脆さが、90分間でくっきり浮かび上がった。

札幌ドームは称えるムードだった。

「『2−1でリードしているけど、自分たちが受けに回らず点を獲りにいこう。相手に脅威を与えよう』。ハーフタイムにはそんな話をしました。しかし後半の比較的早い段階で失点してしまいました」

 試合後のミシャ監督の弁である。

 押されているなら押し返せという果敢な姿勢。やはり一歩間違えば完全に瓦解する危うさと隣り合わせの言葉で、選手を送り出していた。

 しかし3万4000人以上の大観衆が詰めかけた札幌ドームに落胆ムードはなく、むしろ拍手で健闘を称えるムードに包まれていた。

 当然だろう。チームはすでに第33節終了の時点で、J1で史上最高となる4位以上を確定させていた。そして天皇杯の結果次第では、ACLへの挑戦権も残っているのだから。

なぜこんなに受け入れられているのか。

 ただその結果以上に、ミシャという人間性が札幌、北海道という地域に想像以上に馴染んでいる印象を受けた。

 例えば当日の地元スポーツ新聞は、1面で「歴史刻む ミシャ札幌」と大きく扱っていた。都倉やジェイ、東京五輪世代の三好康児らといった看板選手ではなく、決戦に向けて嬉しそうな表情を浮かべるミシャがでかでかと載っていた。

 サポーターやファンもクラブもミシャスタイルに共鳴している。試合には「攻めて攻めて攻めて攻めて……」という文字を何回も繰り返し、最後に「攻めまくれ!!」と締めた横断幕が掲げられた。そして“無理攻め”に見えるパワープレーの場面でも、札幌ドーム全体が手拍子を送っていた。

 この信頼感はどこから生み出されているのか、と思った。

 ミシャは2006年に来日して以降、足掛け13シーズンも日本での指導を続けている。もしこれが来日1年目で札幌を躍進させたなら「斬新な可変式サッカー」ともてはやされ、大きな支持を受けるだろう。

 ただ広島、浦和と率いたことで目新しさは徐々に薄れてきてるし、今回の広島戦のように、相手の対応にハマってしまうと挽回は苦しいという認識も広まっている。それでも、ミシャを温かく受け入れているのが興味深く映った。

北海道はロマンチシズムの土地?

 その答えが出ず一夜明け、札幌市内をウロウロしていたところ、北海道大学の博物館で1つのヒントに出会った。そこには「北大の学風」として、真っ先に掲げられていた一節があった。

「大自然に育まれた大らかなロマンチシズム」

 これなのかもしれない。

 よく言われることだが、サッカー監督にはロマンチスト型とリアリスト型がいる。ピッチ内での美しさを追求するのが前者で、勝利を最優先するのが後者。もちろん両方のバランスが取れていて、ハイレベルであればパーフェクトだが、人間はAIではないのだから、どこかしらで偏りが出る。

 ミシャはどちらのタイプかと問えば、サッカーファンの99%がロマンチストと言うだろう。

“弱者の兵法”ではない方法論。

 ロマンという言葉の意味をいま一度調べると、「夢や理想にあこがれを持つこと」と書いてある。間違いなく、ミシャはこれまでもずっと理想を追求し、独特のスタイルを開拓してきた。それだけに独創的な攻撃がハマった時の爽快感は強い。そして機能不全に陥った時の無力感も。

 これまでの札幌は、堅守速攻という名の“弱者の兵法”で強豪に立ち向かうほかなかった。それがミシャによる能動的なサッカーに感情を揺さぶられ、サッカーへの好奇心を呼び起こされたのは間違いない。

 そんな楽しさとともに、コンサドーレにはJ1とJ2を行ったり来たりで苦しんできたクラブ史、もっと言えば開拓精神にあふれた北海道の歴史がある。だからこそ大らかさをもって認められているのではないか。

理想と現実が一致するとしたら……。

 しかしその大らかさを一番警戒しているのは、実はミシャ本人なのかもしれない。

 いつも通り、試合内容を大いに語った後にこう締めた。

「ともに1年間メディアの方々といい仕事ができた。時として我々が負けたにもかかわらず、いいことを書きすぎだと思いますが……(笑)。皆さんの想いを感じています」

 そんなミシャは「来季へ間違いなく向かっていくべき方向性を示せた。札幌は進むべき方向に進んでいく」とも話していた。これまでの傾向を踏まえると、間違いなく今季の土台をさらに熟成させるために突き進んでいくはず。

 スタイルが成熟することで上位に安定するものの、主要タイトルにあと一歩続きだった広島、浦和時代。札幌1年目のエンディングもそれに近いものとなった。

 ただミシャが今まで得られなかった大きな収穫を得る舞台があるとしたら――。それはロマンと大らかさが両立する北海道こそがふさわしい。そんな風に感じた。

文=茂野聡士

photograph by J.LEAGUE


関連ニュースをもっと見る

関連記事

おすすめ情報

Number Webの他の記事もみる
主要なニュースをもっと見る
社会のニュースをもっと見る
経済のニュースをもっと見る
政治のニュースをもっと見る
国際・科学のニュースをもっと見る
エンタメのニュースをもっと見る
スポーツのニュースをもっと見る
トレンドのニュースをもっと見る
生活術のニュースをもっと見る
地域のニュースをもっと見る

スポーツ アクセスランキング

ランキングの続きを見る

スポーツ 新着ニュース

新着ニュース一覧へ

総合 アクセスランキング

ランキングの続きを見る

東京 新着ニュース

東京の新着ニュースをもっと見る

東京 コラム・街ネタ

東京のコラム・街ネタをもっと見る

特集

特集一覧を見る

記事検索