長谷部誠は常に変化しつつ生き残る。AFC最優秀選手と、新体制での信頼。

長谷部誠は常に変化しつつ生き残る。AFC最優秀選手と、新体制での信頼。

 11月29日ヨーロッパリーググループリーグ第5節。ホームにマルセイユを迎えたフランクフルトは、4−0で快勝した。

 この日も長谷部誠は3バックの中央に立ち、何度もシュートをブロックし、その声でチームメイトを動かしていた。今季のヨーロッパリーグで5戦5勝。すでにこの試合を前に決勝トーナメント進出を決めていたフランクフルトは、この日の結果で1位突破が決まった。

「(グループリーグ)突破が決まっているチームと、敗退が決まっているチームの対戦ということでしたが、試合前からファンもいい雰囲気を作ってくれたので、勝たなきゃいけない、勝ちに行くんだというのはハッキリしていた。そういうなかで1試合を残して、1位突破を決められたのは大きいと思います。

 このグループが決まったとき、突破するのはマルセイユ(昨季準優勝)とラツィオだと言われていて、フランクフルトは敗退濃厚だというのを覆せたのは嬉しいですね。(消化試合となる)次のアウェイでのラツィオ戦もけが人が多いので休めるかはわからないですけど(笑)」

 試合後の長谷部の表情は当然柔らかく、充実したオーラが放たれていた。公式戦14試合連続スタメンフル出場。リーグ戦だけでなく、ヨーロッパリーグも戦うという日程は、代表の活動がないとはいえ過密である。それでも自身にとって久しぶりの欧州での大会に、昂る気持ちも当然あるに違いない。

チームを導いた監督が去り。

「ヨーロッパリーグに関しては、初戦のアウェイでのマルセイユ戦が一番厳しかった」と振り返る。開始3分で失点し、52分に同点においついたものの、59分には退場者を出している。逆転弾が決まったのは、89分だった。

 2017-2018シーズンのボカール(国内カップ戦)でバイエルン・ミュンヘンを破って30年ぶりのタイトルを獲得したフランクフルトだったが、チームを率いて上昇気流に乗せたニコ・コバチ監督はバイエルンへ移った。

 新たにオーストリア人のアディ・ヒュッター監督が就任したものの、リーグ戦開幕前のボカール1回戦で、地域リーグ所属のチームに敗れてしまう。

「勝ちを重ねることで自信に」

 この試合で長谷部は3バックのリベロを務めていた。リーグ開幕戦は、勝利したものの長谷部はベンチ外。チームはリーグ戦で2連敗し、長谷部の試合復帰がELのマルセイユ戦だった。

 しかしこの試合でのポジションはMF。チームのシステムも4バックで戦っている。続くリーグ第4節では3バックのリベロを務めたもののライプツィヒに引き分け、第5節ボルシアMG戦では4バックとなりボランチに。そしてこの試合は1−3と敗れた。

 第6節のハノーファー戦を4−1と快勝すると、フランクフルトは3バックに固定され、長谷部のリベロも不動となった。この9月30日以降、フランクフルトは公式戦11試合を戦い10勝1分と好調の波に乗る。順位もバイエルンを上回る3位につけていた。

「シーズン最初はなかなか試合に出られなかったけれど、マルセイユ戦でチャンスをもらって、そこで結果を残せた。そこからはずっと試合に出られている。ヨーロッパリーグがあったというのは、個人的には非常に大きいと感じている。

 マルセイユ戦での勝利はチームにとっても間違いなく大きいけれど、まだあの頃は自分たちに対して自信を持ててはいなかった。そこから勝ちを重ねることで、今はかなり自信を持っている。今日の試合のように選手をローテーションしてもしっかりと代わりの選手が結果を残せるというのは、いいチームになってきていると感じます」

AFC最優秀選手、という栄冠。

 11月28日には、2018年度のAFC最優秀国際選手にも選ばれた。

「日本にいたころに個人の賞もいくつかいただきましたけど、そういうのとは無縁の選手だと思っていたので、今回は本当に光栄ですね。ただ、これは僕個人の力じゃなくて、周りの選手や監督とか、そういう人達の力がなかったら、こういう賞は頂けなかったと思うので、素直に嬉しいですし、周りに感謝しています。

 ソン・フンミンが2度受賞しているというのもあったと思うんですけど、僕のような後ろの(ポジションの)、あまり目立たない選手がこういう賞をもらえるというのは、もちろんありがたいですけど、アジアの選手が今年はそんなに活躍しなかったのかなと思ったんですけど(笑)。田嶋(幸三)会長から連絡をいただいたんですが、寝耳に水というか本当に驚きました」

アジア以外を含めても稀有な存在。

 ベスト16に進出したW杯やポカール優勝などがその理由だと考えられるが、欧州へ渡り12シーズン目を迎え、34歳という年齢にもかかわらず、先発としてチームを牽引しているというのは、アジアの選手のみならず、ほかの国の選手でも限られた存在といってもいい。そういう長谷部の長年の実績を称える意味合いもあるような気がする。

 今季フランクフルトを率いることになったヒュッター監督にしても、シーズン当初は長谷部の起用に迷いがあったに違いない。ポカール敗戦後に3バックから4バックへシステムを変更し、前監督が厚い信頼を寄せた長谷部を外していることからもそれがうかがえる。

 34歳という年齢がその理由だったとしてもおかしくはない。しかし、2連敗を経て長谷部の復帰とともにチームは連勝を続ける。36得点と攻撃陣の爆発がその大きな要因だが、8失点という守備の安定感も目を引く。そこに君臨しているのが、リベロ長谷部誠なのだ。

 地元メディアも、ヒュッター監督の長谷部への信頼感を報じている。

「誠は大きなメリットをチームにもたらしてくれる。非常に豊富な経験を持っているし、ゲームの先を読む力も高い。ボールを持ったプレーも見事で、我々のビルドアップに欠かせない存在だ。そのうえ、守備をとても安定させてもくれる」

 コバチだけでなく、新監督からも信頼を得ていることに、長谷部のポテンシャルの高さを改めて感じた。

来シーズンのCLを狙える立場。

 34歳の長谷部には新しい目標がある。

「ヨーロッパリーグの上にはチャンピオンズリーグがあって、長友(佑都)や(香川)真司はその舞台でやっている。今、このチームはリーグ戦でも好調で3位につけているので、まだ気は早いですけど、来シーズンのチャンピオンズリーグを狙える位置にいる。だから、その舞台にこの年齢で立てたら、それは幸せだと思うし、今は明確な目標として持てるところまで来ているので、やっぱりやっていても充実しています。

 この年齢でヨーロッパの舞台でプレーできるというのは、選手として幸せなこと。いろんな監督とか、選手とかのめぐりあわせとかね、さまざまなことがあったからだと思います。でも、自分がこういう年齢でもこういう舞台でやっているというのを示すことで、またこれからの日本人選手のひとつの指針というか……できるんだというふうに感じてもらえるんじゃないかと思っています」

次々と変化しながら生き残ってきた。

 ドイツに渡ってきた当初、立ちはだかるさまざまな壁を前にした長谷部は、「すぐに日本へ戻るかもしれない」と感じたという。しかし同時に「そうやすやすと帰れるわけもない」という闘争心も湧いたという。そのうえで必要なのは、自身を変えることだと悟った。

「もちろん葛藤はあった。パーソナリティーとか、いろんなものを変えることに抵抗もあったけど、そこをやらないとこっちではやっていけないと思った。自分の良さをわかってもらえないと思うよりも、だったらわからせるために、自分が変われるかどうか。それができるというのは、適応できるということだから。僕はそれができたんだと思う」

 今年の1月にインタビューした際、長谷部はそんなふうに自身の欧州でのキャリアを振り返ってくれた。

 そして、マルセイユ戦後、「今の長谷部選手は、日本人選手だけでなく、アジアの選手にとっての指針にもなるのではないか?」と訊いたとき、こんなことを語った。

「自分はポジションもそうですけど、本当にいろいろと変化しながら、プレースタイルも変わっていって、この年齢までやれている。選手それぞれだと思うんですけど、そういう部分を見て、なにか感じてもらえたら、もちろんそれはありがたい。僕自身もまだまだやっぱり上を見られる状況なので、選手としてもより上を目指したいと思っています」

「彼は常にプレーしたいと思っている」

 ブンデスリーガで優勝はしたものの、ヴォルフスブルク時代はボランチでの起用機会はわずかだった。プレミアへの移籍が実現間近にまでいったが成立せず、その後はトップチームの練習に参加させてもらえず干されたこともある。

 ボランチで挑戦するために移籍したものの負傷で長期離脱、チームを降格させてしまった。新たに移籍したフランクフルトでも、サイドバックでの起用が続いた時期もあった。そしてコバチが登場し、ボランチ、リベロと念願だった「真ん中」でプレーを続けている。それでも、入れ替え戦で敗れていれば今の長谷部はいなかっただろう。

「先を見てもしょうがない。大事なのは今に力を尽くすこと。逆算してもそのようにいかない。そういうキャリアだからね」と1月の取材で笑っていた。

 12月2日ブンデスリーガ第13節。ヴォルフスブルク戦で長谷部は公式戦15試合連続出場を飾っている。「長谷部が休みたいと言えば、休みを与えるけれど、彼は常にプレーしたいと思っている選手なんだよ」と話すヒュッター監督にとって、長谷部は替えのきかない存在なのだろう。しかし、9位のヴォルフスブルクに1−2で敗れた。今季4敗目とはいえ、中位のクラブに負けたことが、どう響くのか。

 思えば、フランクフルトは毎シーズン前半期には強い印象がある。ここからが今季最初の正念場なのかもしれない。35歳でのチャンピオンズリーグ出場までの道のりは長いが、常に新しい目標へ向かえるというのもまた幸せなキャリアだ。

文=寺野典子

photograph by AFLO


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