丸佳浩とカープ、必然の別れ。FAは忠誠心の踏み絵ではない。

丸佳浩とカープ、必然の別れ。FAは忠誠心の踏み絵ではない。

 広島の街で久しぶりに巻き起こったFA狂騒曲は、丸佳浩が巨人移籍を表明して静けさを取り戻した。それまでが騒がしかっただけに、寂しさに打ちひしがれているように、広島の街は静まり返っていた。

 地方の市民球団であるカープには「おらが町のチーム」の色を強く感じる。地域性が濃いだけにファンの熱気は熱く、温かい。

 ただ、一方でふがいない姿には叱咤激励が飛ぶ。それだけに成長の足跡を見てきた選手の移籍には喪失感を感じてしまうのだろう。

 ただ、移籍を決断した丸にも、11年過ごした広島への愛着はある。

「僕だって、残りたい……」

 FA権を行使した後も、そうつぶやいた。それは偽りない本音だったように思う。

丸が広島に求めていたもの。

 試合に向けたルーティンは貪欲なまでに貫く。「決して面白いものでもない」といいながら、すべて野球のために注いできた。そんなタイプの丸にとっては環境の変化は、また新たに対応しなければいけないことが増えることになる。慣れた環境でプレーできるメリットは大きい。

 ただ、選手としてよりいい条件を求めるのは当然。プロ野球選手の価値は金額で示される側面もある。特に2年連続MVPを受賞するほどの高みを見た丸ならば「他球団の評価を聞いてみたかった」のは自然な流れといえるだろう。すでに多くのものを得たベテランではなく、これから多くを得る中堅選手ならなおさら。

 FA権を行使し、獲得に手を挙げたロッテも、巨人も出した条件は、広島が提示した条件を大きく上回っていた。特に巨人は広島の条件との開きは明らか。それでもあれだけの期間、悩み、苦しんだ。最後まで残留の可能性を残していた。

 丸が広島に求めていたものと球団の姿勢には、報じられているような金額ほどの開きはなかった。今回のFAで丸が重要視した点は金額だけではない。わずかな差。ただ、それが埋められない溝になっていた。

 その点も含めて、巨人が上回り、広島は歩み寄ることができなかった。

'19年以降も主力がFA権取得。

 親会社を持たない広島は健全経営を貫く必要がある。今オフは丸だけでなく、松山竜平もFA権を取得していた(宣言せず残留)。翌年以降も順調にいけば、来年には會澤翼、野村祐輔、菊池涼介、今村猛。2年後には田中広輔がFA権を取得する。

 条件の上積みをしなかったのは、主力選手が相次いで取得する流れに備えた狙いもあっただろう。目先の慰留に全力を注いで、近い将来に球団経営が回らなくなっては元も子もない。

 また今オフのオリックス金子千尋のように長期契約を結び、減額制限を超える減俸提示で球団を去るような形は両者にとって好ましくない。

 広島は過去にもFAで主力を流出させた苦い経験がある。低迷の要因にはなったものの、そこからフロントと現場が一体となって努力と工夫を重ねて、セ・リーグ2球団目の3連覇という偉業を成し遂げるまでになった。

 隆盛を長く続けることは難しい。人材だけでなく、資金も必要となる。マネーゲームには参加できない。それはある意味で「おらが町のカープ」にとっては避けられないものかもしれない。

 丸と広島にとって、この結末はある意味で必然だったのかもしれない。

FAは忠誠心の踏み絵ではない。

 ただ、「おらが町のカープ」を支えるファンは、そのはざまでジレンマにうちひしがれているようだ。移籍した丸への声は厳しく、ネットでは心ない誹謗中傷までも上がっている。高卒での入団から11年、成長していくサクセスストーリーを見てきたからこその愛が、憎しみとなってしまったのかもしれない。

 それでも、1日にして「おらが町のヒーロー」が「裏切り者」となったような扱いは理解に苦しむ。この11年間で、丸が広島に残したものは大きい。セ・リーグ2球団目の3連覇に大きく貢献し、2年連続で最優秀選手賞を受賞した功績はいつまで経っても色あせない。

 FAは入団した球団への忠誠心を問われる“踏み絵”ではない。あくまでも選手の権利である。

 悩んでいた姿はチームメートも見ていた。「結構悩んでいた。あの人が出した結論なら仕方ない」と鈴木誠也が言えば、大瀬良も「あれだけ悩まれているのなら、どういう結論を出しても、丸さんが正しかったと思える道に進んでくれたらいいなと思う」と話していた。

「おらが町の英雄」という重さ。

「おらが町のヒーロー」となったことで、失ったものもある。

 あまり多くを語りたがらないが、家族への思いが強い、心やさしきパパでもある。

 いつしか幼い子どもと公園で遊ぶこともできなくなったという。公園に行くと、人だかりができ、家族だけでなく、周りにも迷惑がかかる。そうなると、遊べない。息子の「なんで帰るの?」という悲しい表情は父親となった者なら胸が苦しくなるに違いない。

 ある日、息子と公園で遊ぼうと出かけたものの、ひと気のない公園がなく、気づけば夕方になり家路に就いたこともあったという。

 家族との日常は、プロでの成功よりもときには重い。

 所属選手だけでなく、レジェンドと言われた選手たちが引退後も過ごせる町が理想郷と言える。球団はより強く、ファンが喜ぶチームづくりを。選手は個々のレベルアップだけでなく、勝利に献身的かつ効果的な働きができるよう精進する。

 そして、ファンも熱い声援を送り、球団をサポートする。この三位一体がそれぞれレベルアップし、絶妙なバランスを保つことで、地域を大いに盛り上げる「おらが町のプロ野球チーム」へとなっていくのだろう。

文=前原淳

photograph by Kyodo News


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