柏J2降格も中山雄太の才は必見だ。CBもできて、点を取れるボランチ。

柏J2降格も中山雄太の才は必見だ。CBもできて、点を取れるボランチ。

 言いたいことや撮ったものをだれもが自由に発信できるようになったいま、ライターやカメラマンの間でしばしば議論になるテーマがある。

「じゃあ、プロってなによ?」ということだ。

 この議論は大抵、「お金をもらって記事や写真を発表できればプロでしょ」という結論に落ちつくのだが、今度は「じゃあ、お金がもらえる作品ともらえない作品の差って、どこにあるのよ?」と議論が続くこともある。

 そうなると「それはいいものか、そうじゃないものかということでしょ」という、ぼんやりした答えしか出ないまま収束していく。

 40代を過ぎて、私も一応「いいものとはなにか」ということに自分なりの答えを出せるようになった。それは「いいものとは人に無条件で言いたくなるもの」ということだ。

 それは記事や写真に限ったことではない。映画でも歌でも舞台でも本でも、いいものに出会うと、人はだれかに言いたくなるものだ。もちろんいい意味で。

中山、いいから見に行きなよ。

「あの映画、絶対におもしろいから見に行きなよ」

 こういうことは、なかなか言えない。自分には一銭の得にもならず、下手をすれば友人関係も損なうことになるからだ。逆説的に考えれば、ほんとうにいいものだと思わなければ、リスクを負ってまで勧めることはできないだろう。

「あの選手、いいから見に行きなよ」

 Jリーグの試合でも、ときどきそう言いたくなる選手に出会う。

 今シーズンの終盤なら、柏レイソルの中山雄太だ。

 9年ぶりのJ2降格を余儀なくされた柏だが、最後の2試合は素晴らしく、セレッソ大阪に3−0、9連勝中のガンバ大阪に4−2と快勝した。その中で「ああ、いい選手だなあ」と唸らされたのが中山である。

プレッシャーを利用する21歳。

 21歳の中山は、昨季のベストヤングプレーヤー賞に輝いた通り、もういい選手だということは知られている。

 左利きのスタイリッシュなCB。鋭い読みでピンチの芽を摘み取り、左足からの精度の高いキックで攻撃を組み立てる。

 だがなによりも私がいいと思うのは、プレッシャーを怖がっていないところだ。

 敵がボールを奪いに寄せてきても、難しい浮き球を慌てて蹴飛ばしたりせず、それどころか巧みにボールを操って敵をかわし、悠々と中盤に持ち上がる。そういう場面を何度も見た。

 プレッシャーを怖がらず、むしろ逆に利用する。こういうプレーができる選手は、なかなかいない。

 今季の中山はケガのため、8月半ばから9月末まで戦線を離脱。それはチームの大きな痛手となった。だが終盤戦はポジションをひとつあげたボランチとして起用され、改めて能力の高さを印象づけた。

落ち着いて決めた2戦連発。

 最後の2試合で、彼はゴールを決めた。

 セレッソ戦ではエリア外から豪快な左足ミドルを叩き込み、ガンバ戦ではCKから。流れたボールをファーサイドで拾い、1対1で敵を股抜きで抜き去り、そのまま角度のないところから左足シュートを流し込んだ。

 セレッソ戦でのミドルは左足の精度の高さ、ガンバ戦のゴールはひらめきとテクニックを印象づけたが、それらは落ち着きがあってこそ。

 勤勉な日本人がプレーするJリーグは、アップテンポな試合が多く、ともすれば落ち着きのない時間が続くことが少なくない。それはプレッシャーをかけたほうが得をするからだ。

 プレッシャーをかけられた選手が慌てる場面が多いため、それならということで、互いにプレッシャーをかけ合うことになる。

「ぼくは元々、中盤の選手」

 こういう試合の中で、中山は異彩を放っている。しっかりと周りの状況を見定めてプレッシャーをかわして左右へ展開、もしくは目の前の敵を外して、前線に攻め上がる。せわしない試合の中で落ち着いているから、とてもスタイリッシュに見えるのだ。

 彼のようにプレッシャーを逆手に取る選手が増えれば、Jリーグももっと面白くなるだろう。

 最終節の試合後、中山はこんなふうに話していた。

「ぼくは元々、中盤の選手だという自覚があって、練習でCBをやっているときも、自分が中盤にいたらと意識して取り組んでいました。それがいま、上手く整理されてきた手応えがある。

 ゴールシーンは、敵を抜き去ってからはシュートだけを考えましたが、相手はぼくが直接狙ってくるとは考えなかったかもしれない。ボールの持ち方を工夫して、クロスを意識させたのがよかったかも。ぼくは点を取れるボランチを意識していますが、いつもたくさんの選択肢を持ち、その中からベストの選択をすることを心がけています」

 柏に留まれば、来季はJ2でプレーすることになる。

 だが、「点を取れるボランチ」を目指す中山を見られるなら、日立台に通う価値もありそうだ。

文=熊崎敬

photograph by Getty Images


関連ニュースをもっと見る

関連記事

おすすめ情報

Number Webの他の記事もみる
主要なニュースをもっと見る
社会のニュースをもっと見る
経済のニュースをもっと見る
政治のニュースをもっと見る
国際・科学のニュースをもっと見る
エンタメのニュースをもっと見る
スポーツのニュースをもっと見る
トレンドのニュースをもっと見る
生活術のニュースをもっと見る
地域のニュースをもっと見る

スポーツ アクセスランキング

ランキングの続きを見る

スポーツ 新着ニュース

新着ニュース一覧へ

総合 アクセスランキング

ランキングの続きを見る

東京 新着ニュース

東京の新着ニュースをもっと見る

東京 コラム・街ネタ

東京のコラム・街ネタをもっと見る

特集

特集一覧を見る

記事検索