チェンジアップは魔球か劇薬か。中日・笠原祥太郎へ権藤博の警鐘。

チェンジアップは魔球か劇薬か。中日・笠原祥太郎へ権藤博の警鐘。

 今秋に開催された日米野球の侍ジャパンに、中日の笠原祥太郎が選出された。あらゆるカテゴリーを含め、日本代表入りしたのは今回が初めて。レギュラーシーズンでは6勝4敗、防御率4.14の成績を残したとはいえ、まだ全国区とは言いがたい存在だ。

 しかし、工藤公康、杉内俊哉、山口鉄也、さらにはチームの先輩である野口茂樹と同じ背番号47は、優れたサウスポーの代名詞でもある。2年後の東京五輪も見据え、新たな戦力の見極めも進めたい稲葉篤紀監督の思惑もあってか、笠原は地元・ナゴヤドームでの第6戦(11月15日)の先発マウンドを任された。

 5回2死。球数制限の80球に到達したところで降板したが、4安打、2四球の無失点で切り抜けた。今季21本塁打の1番打者、J・T・リアルミュート(マーリンズ)から2つ、さらに今季34本塁打の4番、エイウヘニオ・スアレス(レッズ)、同21本塁打のエンリケ・ヘルナンデス(ドジャース)から計4三振を奪って見せた。

投球の約20%がチェンジアップ。

「ピンチをつくっても粘れたのがよかった。でも真っ直ぐのスピード、質ともにまだ足りないことが、メジャーリーガーと対戦してわかった」

 見事に勝利投手(球数制限があるため、5回を投げきらなくても勝利投手になれる)となった笠原は、大きな自信をつかみ、来季への課題も明確に意識できた。

 プロ2年間で通算7勝。高校(新津高)は新潟県のごく普通の県立校で、大学(新潟医療福祉大)もリーグ戦を戦うためにバスに何時間も揺られて移動する環境だった。

 そんな笠原が屈強な大男たちをきりきり舞いさせたのはなぜか。ストレートの球速は140キロ台前半。トラックマンで分析しても、ホップ率に秀でてはいるものの、圧倒する球速はない。

 だから本人のコメントでも「まだ足りない」となるわけだが、笠原の投球を最も特徴付けているのは、全投球の20%前後を占めるチェンジアップである。対戦を重ねたセ・リーグの打者ですら「あれは魔球だ」と目を見張る。体勢は崩され、ファウルで逃げるのが精いっぱいだ。

権藤氏が指摘する「劇薬」。

 ところがそんな「魔球」を「劇薬」だと警鐘を鳴らす人物がいる。

 マシンガン打線と呼ばれた横浜を率い、1998年に日本一に輝いた権藤博氏だ。

「そう。チェンジアップは劇薬です。笠原のは効き過ぎているから。田口(麗斗、巨人)や濱口(遥大、DeNA)もそうでしょう? あれに頼りすぎるとね、真っ直ぐがいかなくなるんですよ」

 権藤氏が実例として出したのは、いずれもチェンジアップを得意球とする投手だ。田口は2年前の10勝から昨季は13勝と順調に勝ち星を増やしながら、今季は2勝に終わっている。昨季、新人で唯一の10勝をあげた濱口は4勝。中日でも高卒3年目に10勝した若松駿太がやはりチェンジアップを駆使したが、翌年から7勝、1勝と成績は急降下し、今季は登板ゼロのまま退団した(来季はBCリーグ栃木入り)。

 もちろんダルビッシュ有も投げるし、杉内や金子千尋も絶品のチェンジアップを投げていた。つまり、権藤氏の言う「劇薬説」は絶対ではないのだが、それでも気になってしまう。

ストレートの走りが悪くなる。

 昔から「シュートを多投すると肘を壊す」とはよく聞くし、最近では「スプリットの投げすぎは投手寿命を縮める」なんて声も耳にする。これらはいずれも肉体への負担を危惧したものだが、チェンジアップ劇薬説は少し違う。

 実例としてあげた投手は故障ではなく、ストレートの走りが以前より悪くなったために勝てなくなったからだ。その原因がチェンジアップへの頼りすぎにあるのではないか。だからこそ「劇薬」という表現になる。よく効くが、使いすぎるとあとが怖いというわけだ。

 そんな権藤氏も「権藤、権藤、雨、権藤……」と言われた現役時代に「チェンジアップ」を投げていたという。

「(大活躍した)最初は150kmくらいは出ていたでしょうね。でもすぐに145kmになり、2年目には140出るか出ないか。そんなときでも、クリーンアップの打者だけには130kmくらいの真っ直ぐを投げていたんですよ。よく打つ打者にはこれが効く。『ゴン、抜きやがったな!』なんて怒られたもんです。

 同じように指導者になってからも鈴木孝政や加藤哲郎、山崎慎太郎には教えました。全力から10kmほど遅いストレートを投げろ。ただし、困ったときに使うんだぞとね」

笠原もその考えを実感する。

 少しだけ遅いストレートが、チェンジアップの役目を果たした。この発想が出てくるのは、権藤氏がストレートも変化球も同じ握りで投げ分ける技術をもっていたからだ。

「私はカーブ、シンカー、チェンジアップにスライダーを投げていましたが、握りは全部同じです。ドン・ニューカムに教わったんですよ。『セイムグリップだ』と。そうじゃなきゃ、走者に握りを見られて指笛で打者に教えられるんだぞってね」

 メジャーリーグでMVPに輝き、サイ・ヤング賞の初代受賞者でもあるニューカムは、1962年に中日でプレーした(外野手として)。その大投手から直伝されたのが「セイムグリップ」である。

 握りは変えなくても、変化球は投げられる。そんな技術を半世紀以上も前に身につけていた伝説の投手が口にする劇薬説。こうした考えは笠原も聞いたことがあると言った。

「僕のチェンジアップは大学のころから投げてはいますが、それほど打ち取れる球ではありませんでした。でもプロ1年目のキャンプで投げる量を増やしたところ、いつしかキレが良くなったんです。

 来年はボールゾーンに落とすだけじゃなくストライクも取れるよう、精度を上げたい。僕の感覚ではストレート以上に腕を振っているつもり。他の投手は真っ直ぐをチェンジの振りに合わせていると聞いたことがあります。なので自分は大丈夫だと信じたいですね」

 ストレートよりも強く腕を振って投げている。それが、笠原が劇薬説を跳ね返せると話す根拠だ。この言葉通りに来季に飛躍できたその先に、「TOKYO 2020」での侍入りも見えてくるはずだ。

文=小西斗真

photograph by Kyodo News


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