規定投球回数はもう時代遅れ?12球団で到達者はたったの17人。

規定投球回数はもう時代遅れ?12球団で到達者はたったの17人。

 私は小学校で九九を習う前から「割り算」ができた。毎朝、新聞のプロ野球欄の「打撃10傑」を見て、打率の計算式を覚えていたからだ。

 このまま、さらに難しい数式も覚えていけば「東洋のガウス」と呼ばれるような人になったかもしれないが、高校に入るころには数学で赤点を取るようになった。当時のプロ野球には掛け算、割り算より難しい算数は必要なかったからだ。一説には私が数学ができなくなったのは、野球の責任だとも言われている(んなあほな)。

 小学校高学年の頃には「規定打席」、「規定投球回数」というものがあることも知った。

 打率や防御率などの「率」の数字は、一定の打席数や投球回数をクリアしないとランキングに載らない。これは当たり前だ。2〜3試合なら打率5割の選手はたくさんいるが、50試合、100試合となれば3割でさえも難しくなる。選手の力量は、一定以上の試合に出てこそ比較する対象になるのだ。

 しかしこの「規定なんたら」というのは、時代によって結構揺れ動いている。

規定投球回数が200以上だったことも。

 当初「規定打席」は「規定打数」として設定されていた。野球ファンならご存じだろうが、「打席=打数+四死球+犠打+犠飛+妨害出塁」なので、打数は打席数よりも少ない。1954年、レッドソックスの大打者テッド・ウィリアムスは.345をマークしたが、四球が136個もあったために規定打数に到達せず、首位打者になれなかった。

 選球眼のいい選手が、そのために打撃ランキングに載らないのはおかしいということになって、1957年から規定打席になった。今では規定打席は日米ともに「試合数×3.1」と定められている。

「規定投球回数」はもっと揺れ動いた。戦前の日本プロ野球では投球回数ではなく登板数や完投数で線引きしたこともあった。

 大投手が30勝、40勝と白星を荒稼ぎした昭和30年代には、規定投球回数が200回を超えていた年もある。その基準に今の投手を当てはめれば、規定投球回数に達する投手はほとんどいなくなってしまう。

 1966年から、規定投球回数は原則として「試合数×1」になった。これはわかりやすい(ただし日米ともにトップリーグだけに適用される。マイナーリーグの規定打席は「試合数×2.7」規定投球回数は「試合数×0.8」になっている)。

規定投球回に達する投手が減少。

 しかし、近年、この規定投球回数という数字が、揺れている。この投球回数に達する投手がどんどん減っているのだ。

<過去10年の両リーグの規定投球回数到達者>

2009年:セ17人、パ17人
2010年:セ12人、パ16人
2011年:セ16人、パ17人
2012年:セ20人、パ13人
2013年:セ17人、パ12人
2014年:セ15人、パ13人
2015年:セ14人、パ12人
2016年:セ12人、パ14人
2017年:セ12人、パ13人
2018年:セ8人、パ9人

(規定投球回数は2014年まで144回、2015年からは143回)

 規定投球回数というのは、本来は先発投手としての最低限の責任投球回数だったはずだ。

 しかし9年前、両リーグあわせて34人いた規定投球回数以上の投手は、4年前には28人になり、今年ついに17人にまで減ってしまった。

 今年の日本一であるソフトバンクは、千賀滉大の141回が最高。誰も規定投球回数に達しなかったほどだ。これまでも規定投球回数の到達者「0」というチームは散見されたが、多くは先発投手陣が崩壊した下位チームだ。リーグ2位とは言え、6割近い勝率を挙げた強いチームで、だれも防御率ランキングに名前が載らないのは異例のことではあった。

各球団エースのMLB移籍も大きい。

 なぜ、規定投球回数に達する投手が減少したのか?

 1つは、先発完投型の典型的なエースが、近年、次々にMLBに移籍したことが大きい。

 2012年のダルビッシュ有、2014年の田中将大、2016年の前田健太、2018年の大谷翔平と、良い先発投手はみんなMLBに行く。なお今オフも西武の菊池雄星がMLBに挑戦する。

 今、先発完投型の大エースと言えるのは巨人の菅野智之くらいしかいない。いわゆる人材流出が一因なのは間違いないところだろう。

完投数が'09年から半減。

 もう1つ言えば、ローテーションの間隔が広くなっていることがある。昔、トミー・ジョン手術明けの村田兆治が、毎日曜ごとに登板した時には「サンデー兆治」と呼ばれた。他の投手よりも広い登板間隔が珍しかったからだ。しかし今の先発投手は、ほぼ全員が週に1回しか投げない。全員が「サンデー○○」「チューズデー●●」「ウェンズデー××」なのだ。

 7日に1回しか投げないとなると、半年のペナントレースでの登板数は25〜6回になる。

 その上に、今は先発完投が重視されなくなった。2009年、リーグの完投数は172(セ66、パ106)だったが、今年は85(セ43、パ42)と半減した。

 これに代わる新たな指標として、QS(Quality Start)が注目されている。MLBから来たものだが「6回を投げて自責点3が先発投手の最低限の責任」というものだ。NPBでもこれにならって6〜7回まで投げれば合格点ということになりつつある。25試合に先発して6回を投げればシーズン投球回数は150回、143回の規定投球回数に辛うじて到達する。

 しかしそこまで投げられない試合もあるし、戦線離脱することもある。そうなると143回をクリアするのは難しくなるのだ。

提案したい「PR」という指標。

 この10年の間に先発投手の仕事量は減ったが、その分、仕事が増えたのが中継ぎ投手だ。最後を締めるクローザーに橋渡しをするセットアッパーは、少し前まで2人程度。クローザーと合わせて主力級の救援投手は3人が一般的だった。

 15年ほど前の阪神の勝利の方程式「JFK(ジェフ・ウィリアムス、藤川球児、久保田智之)」がその典型だが、今の野球では各球団ともに3人以上のセットアッパーを揃えるようになった。

 つまりここ10年、日本野球は大きく変質したのだ。「規定投球回数」というこれまでの物差しは、今のNPBの投手を測るにはふさわしくなくなったのだ。

 ならばどうすればよいか。規定投球回数を「試合数×0.8」にするか。それもありだろうが、私はPR(Pitching Runs)という指標を提案したい。これもセイバー系の数字だ。

 この指標は、「(リーグの平均防御率−その投手の防御率)×その投手の投球回数÷9」という計算式で導き出せる。

 要するに、優秀な防御率で多くのイニング数を投げた投手が上位に来る指標だ。

両リーグのトップ10は……。

 2018年のPR10傑は以下の通り。

<パ・リーグ:平均防御率3.90>

1岸孝之(楽)20.85(防御率2.72/159回)
2菊池雄星(西)14.91(防御率3.08/163.2回)
3上沢直之(日)13.59(防御率3.16/165.1回)
4青山浩二(楽)11.09(防御率1.85/48.2回)
5ボルシンガー(ロ)10.98(防御率3.06/117.2回)
6ミランダ(ソ)10.65(防御率1.89/47.2回)
7宮西尚生(日)10.50(防御率1.80/45回)
8アルバース(オ)10.39(防御率3.08/114回)
9公文克彦(日)10.38(防御率2.17/54回)
10増井浩俊(オ)10.18(防御率2.49/65回)

<セ・リーグ:平均防御率4.10>

1菅野智之(巨)43.99(防御率2.14/202回)
2大瀬良大地(広)29.93(防御率2.62/182回)
3東克樹(De)28.23(防御率2.45/154回)
4メルセデス(巨)20.96(防御率2.05/92回)
5ガルシア(中)20.80(防御率2.99/168.2回)
6フランスア(広)17.62(防御率1.66/65回)
7石山泰稚(ヤ)16.53(防御率2.08/73.2回)
8小川泰弘(ヤ)16.20(防御率2.75/108回)
9ジョンソン(広)15.91(防御率3.11/144.2回)
10原樹理(ヤ)12.42(防御率3.09/110.2回)

 PRの良いところは、規定投球回数にとらわれず同一リーグのすべての投手を比較できることだ。両リーグともに先発投手に交じって、救援投手の名前も上位に来る。トータルでの投手の貢献度を見ることができるのだ。

菅野の数値は岸の倍以上。

 また、投手の傑出度もはっきりわかる。今年の沢村賞投手である菅野智之のPR43.99は、パのPR1位・岸孝之の20.85の倍以上だ。今季の活躍がどれだけすごかったかがわかる。

 防御率をベースにして投手を比較するのなら、PRに切り替えるというのも1つの案だと思うがいかがか?

 近年、記録の専門家は、そもそも「防御率」は、投手の実力を測る指標としては最適ではない、と言いだしている。自責点には多分に「運」の要素が含まれていて、投手の真の実力からは程遠いのだという。だから最近のセイバー系の専門家は「防御率」を無視するようになっている。

 しかし「運・不運」も野球の魅力の内である。その要素も加味された防御率は、誠に人間臭くて良いと思う。「防御率」は「打率」とともに、「野球記録の始祖」と言われるヘンリー・チャドウィックが19世紀半ばに考案し、以後連綿と計算され続けてきた。その歴史を受け継ぐためにもPRを活用してはどうか、と思う次第だ。

文=広尾晃

photograph by Kyodo News


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