『グラゼニ』凡田夏之介vs.池田純、再びメジャーを目指す選択肢も?

『グラゼニ』凡田夏之介vs.池田純、再びメジャーを目指す選択肢も?

 2018年秋、仙台ゴールデンカップスの左腕・凡田夏之介は、横浜DeNAベイスターズの前球団社長・池田純氏との公開対談に臨んでいた。

 球団経営のみならずスポーツビジネス全般に明るい池田氏と話せる貴重な機会。だが、夏之介の心は千々に乱れていた。プロ15年目の32歳、もはや若手とは言っていられない状況の中で、一言で言えば、将来への不安を感じていた。

夏之介「池田さん、僕はこの先どうすればいいんでしょう? プロ入りしてからもう15年も経ちます。それなのに、これから、生まれたばかりの双子を含む子供3人と妻を養っていかなければならないんです。でも、現役生活はいつか終わりのときを迎えるわけで……」

64%の選手が引退後に不安。

 池田氏は、夏之介が思い余って吐露した悩みを、正面から受け止めた。

池田「夏之介選手の悩みは、プロ野球選手なら誰もが感じることです。去年、NPBがフェニックス・リーグで18歳から33歳までの選手を対象に、セカンドキャリアに関するアンケートをとっていますが、引退後に不安を感じている選手は全体の64%。うち8割以上の選手が、進路や収入面での不安を抱いていました。32歳の夏之介選手も、いつかは現役引退する。いつになるか、また、どんな形になるかはわかりませんが、確かにそのことだけは決まっています」

夏之介「考えたくないことだけど……」

池田「球団が保有できる選手数には限りがある一方で、毎年必ず有望な新人がドラフト会議を経て入ってきます。つまり、プロ野球の世界では、毎年必ず、プロ野球選手としてのキャリアを終える選手が一定数います。僕はこれまでも、数多くの選手のセカンドキャリアについて、いろいろ相談を受けてきました。これまでは野球一色の人生でしょうから、誰もが不安に感じることではあるのですが、一つ一つ順序立てて、また、ビジョンをもって考えていけば、道は拓けるはずです」

コーチや監督の難しさ。

夏之介「そうなんですか?」

池田「もちろん! では、一緒に夏之介選手のセカンドキャリアを考えていきましょうか。

 まずは……。引退後も野球界で生きていきたいのか、それとも野球から離れて、新しいキャリアを築いていきたいのか。夏之介選手は、どっちでしょう?」

夏之介「うーん……。やっぱり僕は、野球界で生きていきたいと思っています。だったら、コーチとか監督とかを目指したほうがいいですかね?」

池田「それも確かに選択肢の一つではあります。最近では指導資格を回復させた上で、高校野球の指導者になるケースも増えてきていますしね。でも……たとえばプロ野球球団のコーチという職業は、球団にいつでもクビを切られる立場です」

夏之介「そうですよね……。これまでチームメイトだった親しい先輩がコーチや監督になれば、その球団に引っ張ってもらえる可能性もあるけれど」

池田「逆の面もある。監督が替われば、新監督の好みで人事が決まってしまうポジションでもありますし、そもそも球団内の誰についていくかで、出世の速度も変わってきます」

夏之介「派閥みたいなものですか?」

池田「まあそうですね。しかも各球団で誰についていくのが正しいか、なんてことはなかなかわかりませんし、効率よく振る舞い、球団内で出世を遂げ、叩き上げで監督やGMになることは本当に大変なことだと思いますよ」

夏之介が思い浮かべた球団。

 夏之介は、これまでお世話になった球団を頭の中に思い浮かべた。プロ入りから10年間所属した神宮スパイダース、文京モップスでの4年間、そして移籍して1年目の仙台。入団時の縁を考えれば、引退後、スパイダースから声がかかる可能性は十分にあるだろう。

 また、モップスは生え抜きほど厚遇されることはないにせよ、一度あの伝統のユニフォームを身にまとった選手であればスタッフ入りする可能性もあり、組織の大きさを考えても職を得られる確率はそれなりにある。

 仙台には、同じ山梨出身の先輩である徳永投手コーチとの深い絆があり、それがコーチとしてのキャリアにダイレクトにつながる可能性もある。でも……すべては可能性にすぎない。確実なこと、約束されていることは、なにひとつない。そう考えると、将来への不安がまた頭をもたげてくる。

いっそ、メジャーはどう?

夏之介「うーん……」

池田「もう一度聞きますけど、野球から離れて、新しい仕事をしている自分のことを、イメージできますか?」

夏之介「今は、まったくそういうイメージが描けないんです。やっぱり僕は、野球の世界で生きていきたい……」

 池田氏は、すこし思案顔を見せると、夏之介の想像を上回る選択肢を提示してきた。

池田「だったら……いっそのこと、メジャーに行くのが、一番いいかもしれませんね」

夏之介「へ? 今なんて?」

顔と評判を売ることが大事。

 夏之介は、メジャー昇格は果たせなかったが、メジャーリーグのボストン・ブルーソックスに所属していたことがある。苦労の末、アメリカの野球への対応力を身に付けたかに思えたが、さまざまなボタンの掛け違いでメジャー契約を勝ち取れず、帰国してモップスと契約した。

 確かに、メジャーのマウンドまであと少し、というところまで来ていたのだから、あの夢をもう一度叶えに行く、というのはありかもしれない。でも、この歳でもう一度、家族とともにチャレンジする、というのは、なかなか難易度が高いのでは……?

池田「メジャー、いいかもしれません。一見リスキーですけれど、日本の球団にとどまるよりも、実は安全かもしれません。もちろん、ただ行くだけではありませんよ。セカンドキャリアを見据えたとき、大事なのは、メジャーで顔と評判を売ることなのです!」

 ん? 野球よりもなによりも、夏之介のこの地味な顔を、メジャーリーグで売っていくことが大切?

池田「メジャーリーグと日本のプロ野球の収益は、1995年の時点ではほぼ同程度だったんです。でも、近年では5倍以上の差がついてしまっています。放送権料の高騰が主たる要因ではありますが、とにかく市場規模が段違い。まずはお金が集まるメジャーリーグに行き、そこでプレゼンスを示しておくことで、いろいろな可能性が広がるはずです」

豊かなセカンドキャリアを。

 池田氏は、ベイスターズの球団社長時代、何度となくアメリカを訪れ、スタジアム研究を続ける傍ら、アメリカのスポーツビジネスのキーマンと幾度も会合を重ね、知見を深めてきた。

 プロ野球選手のセカンドキャリアも、メジャーリーグを絡めることで、もっともっと豊かでダイナミックなものになるのではないか。そう池田氏は考えている。

 未来は、まだ何も決まっていない。だからこそ、可能性は無限大。

 夏之介は、池田氏の話を聞きながら、ボストンに所属していた頃、フロリダでのスプリング・トレーニングで眺めたあの密度の濃い青空を、思い浮かべていた。

(第3回につづく)

『グラゼニ 〜パ・リーグ編〜』1話目はコチラから
http://morning.moae.jp/lineup/970

文=池田純

photograph by Number/Morning


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