八村、渡邊不在もW杯予選6連勝。比江島慎が豪州で得た逞しさとは。

八村、渡邊不在もW杯予選6連勝。比江島慎が豪州で得た逞しさとは。

 不安を吹き飛ばす活躍に、胸を熱くさせた人は多かったのではないだろうか。

 11月30日と12月3日に富山市総合体育館で行われたFIBAワールドカップアジア地区2次予選Window5。男子日本代表アカツキファイブは、カタールを85−47、カザフスタンを86−70で破って1次予選からの連勝を6に伸ばし、とうとうワールドカップ出場圏内の3位に浮上した。

 そして、米国でプレーしている八村塁と渡邊雄太の主力2人を欠く中で存在感をたっぷりと示したのが、オーストラリアNBLから招集された比江島慎(ブリスベン・ブレッツ)だった。

 カタール戦こそ試合勘不足で序盤にファウルがかさんでプレータイムは20分にとどまったが、それでも12得点。一気に調子を取り戻すと、カタール戦に続いてスターティング5に名を連ねたカザフスタン戦では、25分間の出場。攻撃面ではチーム最多41得点のニック・ファジーカスに次ぐ14得点をマークした。

 さすが比江島だと言ってしまえばそれまでだが、今季10試合を終えているブリスベンでわずか2分しかコートに立っていない彼が、ハイレベルなパフォーマンスをしっかりと見せることができた背景には何があったのだろうか。

ラマスHCから電話で激励。

 Window5を前に比江島は、試合勘に対する不安の声を吹き飛ばすように、このように話していた。

「向こうでは試合に出ていないけど、練習はしてきました。久々に日本代表に参加して良い手応えがあるので、問題はないと思います」

 オーストラリアから帰国する前に日本代表フリオ・ラマスHCと直接電話で話し、八村と渡辺が参加しないことを聞かされて「今まで以上に攻撃に参加して欲しい。もっともっとアグレッシブに行って欲しい」という指示を受けていたのも大きかった。

「心の準備はできています。日本は崖っぷちにいますが、今まで通りに力を出せれば勝てる相手だと思っています」

 おっとりした口調に変化はなかったが、強い気持ちが前面に出ていた。その姿には、オーストラリアでの苦労と成果のすべてを日本代表に還元したいという闘志が、静かではあるが確かに見えていた。

オーストラリアでの“違い”。

 Window5を前にしての取材対応では、ブリスベンで受けている“カルチャーショック”など、現地の様子についてもいろいろと語っていた。

 比江島がまず挙げたのは、全体練習が少ないことだ。基本的には週に3日。しかも国内で時差があるほど広いオーストラリアでは移動時間が長いため、アウェイへの遠征では移動だけで終わってしまい、練習をしないことが少なくないという。

「体を動かすのは散歩くらい。試合前日に練習しないことがあるというのは、日本では考えられなかったことでした」

 チームメートからの呼び名は「モー」。「まこと」の発音が難しいからだと思われるが、由来は不明で「最初は自分が呼ばれていると気づきませんでした」とのこと。

 そんな中で「メンタルは鍛えられて強くなっていると思いますね。けっこう辛いこともあるんですけど、乗り越えていっています」と言う。

英語の先生は結局つかない。

 最も辛いのは言葉が通じないこと。もちろん、ミニバス時代からエリート街道まっしぐらだった比江島だけに、試合に出られないというかつてない経験も、言葉が通じない辛さを膨らませているのだろう。

 さらに、語学に関しては誤算もあった。チームからは英語の先生をつけてくれると言われていたというが、現時点でまだついていないそうだ。英語をしゃべれなければ、オンザコートでのコミュニケーションに影響が出るのは否めない。

 英語を話せないことでとんだ“罰金”を払う羽目になったこともある。

「恥ずかしいんですが」と言って明かしたのが、10月11日のNBL開幕戦のこと。ニュージーランド・ブレイカーズとの試合のためにブリスベンから国際線に乗って移動した比江島は、出発時にチームスタッフから配られたバナナをカバンの中に入れっぱなしで飛行機を降りた。

 すると、ニュージーランドの空港内で突然、検疫探知犬に吠えられてしまった。農業国であるニュージーランドやオーストラリアでは食べ物の持ち込みが厳しく制限されているのだ。

戦略は徐々に理解中。

「バナナは機内で食べろと言われていたと思うのですが、英語が分からなくてそのまま持ち込んでいたんです。犬につかまってしまって、罰金400NZドルを自腹で払うことになりました。チームスタッフには『なんで食べなかったんだ』と言われて……。自分が悪いんですけどね」

 ただ、それも今では笑い話。

「監督の戦略はやっと理解できるようになってきました。オーストラリアではフォーメーションを試合当日に増やしたりするので覚えるのに必死。かなり戸惑ってはいるのですが、最初の頃に比べると大分マシになってきました」

 練習が日本と比べて少ないのは悩みだが、空いた時間にみっちり体を動かしてベスト体重を維持しているのは立派だ。

「正直、もっと試合に出られるという自信を持ってオーストラリアに行ったので戸惑っているところはあるのですが、出られないなら出られないなりに、色々見て勉強したり、トレーニングしたり、走ったりしています」

 淡々と言うが、Window5でのプレーは自主的に組んでいるメニューの的確さを十分に示すものだった。

カザフ戦で生きた3ポイント。

 一方、スキル面での収穫は小さくない。

「ドライブは元々得意としていたので、強いプレッシャーの中でもやれているのですが、一番磨きがかかったのはやっぱりシュート力。3ポイントもです」

 練習では午後にシューティングだけの時間が設けられ、コーチと組んでさまざまなパターンからの3ポイントシュート練習を続けている。「なかなか日本にはないドリルをやっている」とも言う。

 今回、その成果が出たのはカザフスタン戦だ。競り合っていた第4Q終盤にショットクロックを使い切ったうえで3ポイントを決めてリードを広げたシーンは、あらためてここぞの勝負強さを見せつけるものだった。

「オーストラリア(での練習)では、日本では味わえない高さや、マッチアップの相手を抜いた時のヘルプディフェンスに厳しさを感じています。すごいプレッシャーの中でやっているので、どういうときでも落ち着いてやれると思う」

 その言葉通りの、第4Qのプレーだった。

「行って後悔はしていない」

 ホームのブリスベンでの試合には日本から来てくれたファンに対し、比江島は「わざわざ来てもらって試合に出られないのが申し訳ない。だから全力でサインをしています」と礼節を忘れない。

 今回のカタール戦、カザフスタン戦は「どんどんシュートを打って点を取って、もう一度自信をつけてオーストラリアに帰りたい」と話していた彼にとって、十分に手応えをつかめた試合になったはずだ。

 今後はワールドカップ予選Window6として、来年2月21日にイラン、同24日にカタールとのアウェイ連戦が待っている。オーストラリアでのプレータイムを増やすことがWindow6でのカギとなる。

「行って後悔はしていないですし、行ってみないとわからないこともあります。全然マイナスにはとらえていません」

 比江島の目の輝きは増している。

文=矢内由美子

photograph by Itaru Chiba


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