浦和・槙野&宇賀神の走り方改革。常に踵を上げて、手はグーからパー。

浦和・槙野&宇賀神の走り方改革。常に踵を上げて、手はグーからパー。

 陸上競技の専門家から見れば、日本のプロサッカー選手には伸びしろがまだまだあるという。言い換えれば、改善の余地があるのだ。

 400mハードルなどで活躍した元陸上選手の秋本真吾氏(36歳)は、プロのスプリントコーチとして、男女合わせて180人にのぼるサッカー選手の走り方を指導してきたが、いつも最初は同じような印象を持つ。

「ほとんどの選手は上半身を前に倒し、地面を後ろへ蹴るように走っています。速く走るには、思いっきり力いっぱい走るという感覚の選手たちが多い印象です。それではスピードの低下だけでなく、ケガを招く恐れもあります。ただ、それなのに十分速く走れてしまうから驚きます。みんな、ポテンシャルが高いんですよね。正しい走り方を習得すれば、もっと足が速くなると思います」

無駄な体力を消耗しない走り。

 陸上界では動作分析が進んでおり、スピードを出すための理論が確立されている。

「スピード=足の回転×歩幅」

 いかにして足の回転を上げ、歩幅を広げるかどうかが重要になってくる。そのためには、地面を蹴るのではなく、跳ねるように走ることが重要だ。

 足が地面に着地した際にかかとを浮かせることでアキレス腱の反射、いわゆるバネを使うのだ。太ももはただ上げるのではなく、接地したらすぐに前に移動するように動かす。最も大事なのは、正しい姿勢で走ること。

 秋本氏は「足を速くしたい」と依頼を受けて、サッカー選手の指導を続けていると、選手たちから思わぬ感想を耳にした。効果が出たのは最高速度の向上だけではなかった。

「90分間、体力が持つようになりました」

 力を効率よく使って走ることで、無駄な体力を消耗しなくなっていたのだ。

宇賀神「力感なく走れている」

 5年前から秋本氏の指導を受けている浦和レッズの宇賀神友弥は、その効果を体感している1人。

「最高速度も上がっていますが、前までは100%の力で100%のスピードを出していたけれど、あるときから80%、90%の力で100%を出せるようになった。一歩の“ビュン”と出る感じが違うなって。そのおかげで、スプリント回数が増えたし、疲れる連戦でも走れるようになってきた。いまは力感なく走れている感覚がある」

 選手層の厚い浦和で、スタミナとスピードが求められるアウトサイドのポジションを長年守り続けている男の言葉には説得力がある。フォームの改善だけではなく、ささいな助言もプラスになった。

 走るときの手を「グー」から「パー」にしただけで、自然と力が抜けた。どちらが正しいということはないが、宇賀神の場合はそれが力感につながっていたからだ。過去の走りを思い返し、「肩に力が入り過ぎていた」と苦笑する。いまでも試合の映像などをチェックしてもらい、走りのトレーニングを続けている。

「スピードを出すために必要なのは、力ではなく技術。僕はまだまだ伸びしろがたっぷりある」と口元を緩める。

ワールドクラスのお手本は……。

 指導する選手によって走り方が異なり、修正するポイントも変わってくる。浦和の槙野智章の場合は、姿勢を崩して走り出す癖があった。1対1の守備のときにボールを見すぎて背中が丸まる傾向があり、ダッシュの第一歩が遅れていたのだ。

 秋本氏はタブレット端末を取り出し、昨季、ACLで上海上港(中国)のフッキと対峙したシーンを見せてくれた。

「姿勢が崩れて走り出してますよね? 反転したとき、瞬時に正しい(まっすぐな)姿勢をつくらないとスピードは出ません。接地もかかとからになっています。かかとは浮かせないとダメです。いま槙野選手とは反転してスピードをうまく出す練習をしています」

 秋本氏がタブレット端末に保存しているレアル・マドリーのセンターバック、セルヒオ・ラモスの反転シーンを見ると、まっすぐな姿勢を保ち、かかとを浮かせていた。

 ほかに手本となる選手はボール奪取のスペシャリスト、チェルシーのエンゴロ・カンテ。

「常にかかとが浮いているんです。跳ねるように走り出して、守備をしています」

セルヒオ・ラモスの映像確認。

 スプリントコーチの目線で海外サッカーもチェックしており、サンプル探しに余念がない。陸上男子100mの世界記録保持者であるウサイン・ボルトの映像を見せるよりも、手本は同じサッカー選手のほうが説得力は増す。

 実際にセルヒオ・ラモスの映像を槙野に見てもらうと、納得の度合いが違ったという。反転の練習だけではなく、槙野本人は5年前から続ける走りのトレーニングに手応えを感じている。

「1年間くらいして、効果を実感するようになった。変わったことが3つある。高く飛べて、速く走れて、無駄な力を使わなくなった」

 幼い頃から体に染み付いた走り方でも修正はできる。競技の垣根は、互いに理解があれば越えられる。野球、ラグビー、アメリカンフットボールの選手も指導する秋本氏は「プロアスリートは自分を変化させる力を持っているからプロになっている」と力を込める。

 理にかなったトレーニングを積めば、足は速くなるのだ。

文=杉園昌之

photograph by URAWA REDS


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