時には聞き入れない勇気と、欲。松本慶彦37歳は今もVリーグで一流。

時には聞き入れない勇気と、欲。松本慶彦37歳は今もVリーグで一流。

 バレーボール男子V.LEAGUE、ディビジョン1(1部)リーグは第1レグを終え、中盤戦へと突入している。そんな中、ディビジョン1ではリーグ日本人最年長となる37歳、堺ブレイザーズの松本慶彦が存在感を見せている。堺は現在、6勝6敗18ポイントで全10チーム中の第6位。松本は全13セットの出場ながら、55%以上の高いスパイク決定率を残している。

 セッターでは過去、40代までプレーした選手がいたが、松本のようにミドルブロッカーで、37歳という年齢まで現役で、しかも主力として活躍する選手は稀だ。2008年には全日本の一員として北京オリンピックにも出場した松本だが、これだけ長く第一線で活躍できる要因は何なのか。

「個人的な課題を言えば、もっとブロックを引きつけられるような動きを目指してやっていますね。もちろんレセプション(サーブレシーブ)がしっかりとセッターに返らないこともあるんですけど、それでも、ある程度の精度のレセプションであれば、クイックが打てるように助走に入ることを心がけています。

 トランジション(自チームにサーブ権がある状況)のときは特に、クイックを使いやすいトスでなくても、なんとかセンター線を使えればいいなと思って攻撃の準備に入っています」

 特別な理由はないと、目の前にある課題について飄々と答える。

セッターの位置が少し変わった。

 堺は今シーズン、セッターのポジショニングをこれまでよりややコート中央寄りに変更した。サーブでの失点を防ごうと、レセプションをコートの中央付近に上げる意識を植え付けるためだ。当然、クイックの始動や打つ位置も昨シーズンまでと変わってきた。

「これまでも実際には、ネットぎりぎりに上がるようなレセプションは少なかったので、ネットを離れた位置から攻撃をスタートしようとはしていたんです。ただ、今シーズンはチームの約束事として、ネット際に上がるようなレセプションはなくしていこうという方針でやっています。

 セッターの位置をネットから離したので当然、僕らアタッカーが打つ際も、しっかりとネットから離れないと助走距離が足りなくなる。ただし、僕はもともと助走が短いほうなので、これまでに比べて一歩くらい後ろに下がる感覚でしょうか。その上で、多少レセプションが崩れてもクイックが打てるような練習は僕だけではなくチーム全体で重ねてきました」

16年目も新しい戦術に挑戦。

 Vリーガー16年目を迎えてもなお、新しいチームコンセプトや戦術への挑戦は続く。

 松本は学生時代には各世代代表に入り、その後も最初に入団したNECブルーロケッツ、移籍した堺や全日本代表も経験している。実に多くの監督や指導者のもとで、様々な戦略と対峙し、それを取り入れてプレーしている。

「チームのトップは監督なので、まずは監督のやりたい、理想としているバレーに近づこうと思って練習します。バレーボールの技術って、人によってレシーブの取り方も、スパイクの打ち方も違う。ただ、どの指摘も『その選手をより良くしよう』と思ってのことだから、正解も不正解もない。

 大事なのは自分に合うかどうか、そのプレーが自分にマッチするかしないか。そこをしっかり見極めることが大事だと思いながらやってきました」

聞き入れない勇気の必要性。

 一度はアドバイスを聞いても、自分に合わないと思えば「聞き入れない勇気」も必要だと松本は言う。

 今シーズン当初は、若手の起用も予測されていたが、同じポジションの選手の故障などもあって、相変わらず松本の出番は多い。そんな松本だが、折に触れて後輩の成長には期待をかけていた。

「うちには出耒田(敬)や竹元(裕太郎)など2m近くあって、手が長く、横幅もある選手がいます。いわゆる海外チームに多い、ミドルブロッカーらしいミドルブロッカーです。そういう風に2m近くて、しっかりと動ける選手は日本では貴重。

 だから若い竹元には早く僕を脅かしてほしいんですよ。試合に出て経験を積んでほしいと思う。後輩を育てたいし、育たないと困る」

 とはいえ、実際にプレーを見れば、松本の安定感はやはり群を抜いているのだ。

「もちろん、自分だって選手なので試合に出たいんですけど、一方で若手には『松本が出ているようじゃダメだ』と思って練習してほしいんです。そうやって若いミドルブロッカーが出てきてくれないと、ブレイザーズや日本のバレーボール界のためにはダメだと思います」

ミドルブロッカーの人材不足。

 各チームも同様だが、特に全日本はミドルブロッカーの人材不足にここ数年は悩まされている。入れ替わり立ち替わり様々な選手を試すものの、なかなか定着しない。

 もちろん今年の世界選手権のように主力のケガも定着しない原因のひとつではあるが、そもそもミドルブロッカーの人材が少ないのも問題だ。

 松本もその件には警鐘を鳴らす。

「近年、特にサイドにも大きい選手を置こうという風潮があって、そちらに取られるというのも理由のひとつだと思います。そして高校生くらいまでは、長身選手に多くのスパイクを打たせるために、打数の少ない真ん中(ミドルブロッカー)に置くより、サイドでやらせようというチームが多い。そこで、ミドルブロッカーがなかなか育たない印象も受けます」

 松本自身、高校生まではサイドアタッカーで、大学でミドルブロッカーに転向した過去を持つ。

「でも、ミドルブロッカーは魅力のあるポジションです。僕はサイドアウト(相手にサーブ権がある状況)でとにかく得点を取ろうと思って、ずっとやってきた。クイックでも、サイドと同じくらい点数が取れるというケースもありますから」

出場試合数は歴代7位。

 現状のV.LEAGUEではオポジットと呼ばれるセッター対角のアタッカーが最も多くの得点を担うチームが多いが、固定観念を捨てれば松本が言うように、ミドルブロッカーの得点力はさらに上がる可能性もある。

「僕自身は、相手ブロックのマークが僕につけばこっちの勝ちだと思っています。今シーズンはチームの方針で、センター線の打数も増えると思うので、ぜひ注目してほしいですね」

 通算373試合に出場し、出場試合記録も歴代7位と現役選手でただ1人、トップ10に顔を見せている。

「まさかここまで長く現役を続けられるとは思っていませんでした。ミドルブロッカーはブロックやクイックにキレがなくなったら目立つので、衰えたことが如実に見えてしまう、ごまかせないポジションです。ここまでやれると思わなかったけれど、同時に、もっと頑張っていかないといけないとは思っていますね」

クールだけど欲はある。

 クールで、あまりガツガツとした感情を見せない松本だが、最後にこんなことを話してくれた。

「欲は、実はありますよ。モチベーションは『これでお金をもらっているし、それに見合わなかったら申し訳ない』と思う気持ちですね。活躍できないなら試合に出る資格はないと、性格上、思ってしまうので……。価値がないのにコートに立つのだけは嫌だと思って毎日、練習しています」

 コートに立つ価値が、おまえにあるのか。

 そんな自問を繰り返しながら松本はこれからもコートに向かう。

文=市川忍

photograph by Blazers sports club


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