平尾誠二との約束、日本一で結実。神戸製鋼を変えたカーターと総監督。

平尾誠二との約束、日本一で結実。神戸製鋼を変えたカーターと総監督。

 真紅のジャージーが、自由自在、縦横無尽に芝の上を駆け回り、次々とインゴールに走り込んだ。

 2018年12月15日、快晴の秩父宮ラグビー場で行われたラグビートップリーグ総合順位決定トーナメント兼日本選手権決勝は、神戸製鋼が55−5というビッグスコアで、3連覇を目指したサントリーを破り、優勝を勝ち取った。

 トップリーグの優勝は、総当たり戦のみで実施されたリーグ発足元年の2003年度以来15季ぶり。日本選手権優勝は、サントリーとの引き分けで飾った2000年度以来、18季ぶりで、単独での優勝となるとその前年、1999年度以来19季ぶり。21世紀になってからは初めてとなる。

 かくも長きにわたり、頂点から遠ざかっていた赤い軍団は、いかにして蘇ったのか。

カーターは恐ろしく謙虚だった。

 誰もが「これしかないでしょ」と挙げるファクターは、世界一の司令塔と謳われるダン・カーターの加入だ。

 オールブラックスのSOとして112キャップを持ち、ワールドカップには2003年から4大会連続で出場し、2015年には初のワールドカップ連覇を達成した。テストマッチ通算得点1598は世界最多記録。世界ラグビーの統括団体ワールドラグビーの世界最優秀選手賞も3度にわたって受賞している。

 たとえるなら、サッカーならメッシ、バスケットならジョーダンのような存在か。

 しかし、このスーパースターは、恐ろしいほどに謙虚なのだった。

「新しい国の新しいクラブに行ったときは、そこの新しい仲間に認めてもらうためにハードワークしなければならないんだ」

「7月に日本に来てチームに合流したとき、チームのみんなが、春からハードワークをたくさん重ねてきたことがすぐに分かった。そのチームに対して自分がいかにフィットできるか、貢献できるかということを考えた」

「特別なことは何もしない」

 決勝を控えた週には、決勝を初めて戦う選手からカーターに「決勝で勝つための特別な方法は何かあるの?」という質問があったという。カーターの答えはシンプルだった。

「そんなものはない。今までやってきたハードワークをそのまま出すだけだよ」

 魔法などない。当たり前のことを当たり前にやりぬくだけ。

 その言葉は、カーターのプレーにも通じる。

「特別なことは何もしないね」

 世界一の選手が来日したと聞いてラグビー観戦に繰り出した人から今季、何度もそんな言葉を聞いた。

 カーターは大向こうを唸らせるようなトリッキーなプレーや、相手を吹っ飛ばすような豪快なプレーや、うわ! と叫ぶようなステップを見せるわけではない。基本通りのプレーを忠実に遂行する。

 ただしその精度が恐ろしく高いのだ。それが、チームに安心と安定と勇気を与える。

個人技に頼りすぎから一変。

「個々のポテンシャルはすごいけど、まとまりがね……」

 ここ数年、神戸製鋼に寄せられていた評価だ。

 個々には能力の高い選手が揃っていながら、自分で何とかしようとするあまりなのだろう、強引なプレーに走り、ボールを失う。どこのチームもマネできないような高いスキル、個人技のスーパートライを奪いながら、何でもないプレーであっけなくトライを失う場面も散見された。

 それがカーターの加入で一変した。

 絶対に間違いを犯さない司令塔がチームの真ん中にいる。だから、周りの選手は自分で全部を何とかしようと考える必要がない。自分の仕事に専念すればいい。

休日も子供を教える総監督。

 神戸を変えた人物はもうひとりいる。総監督のウェイン・スミスだ。

 オールブラックスの監督、アシスタントコーチを歴任し、2011年と2015年のワールドカップ優勝では陰の監督とも称された。スーパーラグビーのクルセーダーズ、チーフスを監督、アシスタントコーチとして黄金時代に導いた。そんな名将が今季、神戸製鋼の総監督に就任。そのウェインがチームに最も求めたのは「LOVE RUGBY」だった。

「私はラグビーというスポーツが本当に好きなんです」とウェインは言う。

「選手としてプレーするのが年齢的に難しいかなと思い始めた頃ですね、もっとラグビーに関わり続けていたい、ラグビーというゲームのそばにもっといたい、そう思ってコーチの道に入ったんです」

 他者と競い合うこと。仲間と力を合わせて大きな相手に挑むこと。そこで勝利するために工夫を重ね、努力を重ねること……ラグビーという競技を構成するすべての要素をウェインは愛する。神戸製鋼のスタッフは、苦笑しながら証言した。

「オフの日も、近所でこどものラグビースクールやグラスルーツのラグビーがあると聞いたら、頼まれてもいないのに見に行くんですよ。こんな外国人コーチは初めてです」

大事なのは歴史を知ること。

 そのウェインが、神戸製鋼のメンバーに求めたのは「歴史を知ること」だった。

「チームの歴史、それを支えてきた会社の歴史を知ることは、グラウンドで良いパフォーマンスをするために大事なことなんです」とウェインは言う。

 今季、神戸製鋼の選手たちは、7連覇の偉業を築いたOBの話を聞き、阪神大震災後に復興の象徴となった第3高炉の跡地をチーム全員で訪ね、震災当時にラグビー部が、会社が、どんな役割を果たしたかを聴き、学んだという。

 自分たちはどんな存在なのか。社会の中で、歴史の中で、どんな役割を果たしてきたチームなのか。それを知ることはチームの力になる。それこそが、自分たちがラグビーをする意味であり、素晴らしさなのだ……ウェインは、チームにそれを教えた。

 今季、開幕前の灘浜グラウンドを訪ねて行なったインタビューで、ウェインは言った。

「私たちが目指すのはその試合に勝利することですが、私が重視するのは勝ち負けだけではない。私たちがどんな姿勢で戦っているのか、どんな気持ちで戦っているのか。一番大切なのは、ファンの方々にそれを感じてもらえることなんです」

平尾さんの遺影を手に。

 その言葉の真意は、真冬のファイナルで明らかになった。

 赤いジャージーを着た神戸製鋼の選手たちは、ひたすら基本プレーを反復し、タックルしてはすぐ起き上がってポジショニングすることを繰り返し、運動量、フィットネスを看板にするサントリーを完全に制圧した。

 かくして、神戸製鋼の復活は成就した。

 試合が終わる。表彰式のステージに上がる橋本大輝主将は、2年前に53歳の若さで他界した平尾誠二さんの遺影を手にしていた。

「亡くなる前、ずっと『優勝しよう』と約束していたんです。それが叶って、本当に、これ以上ないくらい嬉しかった」

 元号が平成にかわった直後の大会で初優勝を飾った真紅のジャージーは、平成最後の大会で、見事な復活優勝を成し遂げてみせた。

 歴史を知り、背負うことで、開ける未来もある。それを知ることのできた、師走の午後だった。

文=大友信彦

photograph by Kiichi Matsumoto


関連ニュースをもっと見る

関連記事

おすすめ情報

Number Webの他の記事もみる
主要なニュースをもっと見る
社会のニュースをもっと見る
経済のニュースをもっと見る
政治のニュースをもっと見る
国際・科学のニュースをもっと見る
エンタメのニュースをもっと見る
スポーツのニュースをもっと見る
トレンドのニュースをもっと見る
生活術のニュースをもっと見る
地域のニュースをもっと見る

スポーツ アクセスランキング

ランキングの続きを見る

スポーツ 新着ニュース

新着ニュース一覧へ

総合 アクセスランキング

ランキングの続きを見る

東京 新着ニュース

東京の新着ニュースをもっと見る

東京 コラム・街ネタ

東京のコラム・街ネタをもっと見る

特集

特集一覧を見る

記事検索