DeNA球団社長時代の池田純が、自腹で自宅にブルペンを作った理由。

DeNA球団社長時代の池田純が、自腹で自宅にブルペンを作った理由。

 私が横浜DeNAベイスターズの球団社長になってから、一生懸命取り組んだことのひとつに、「キャッチボール」があります。

 不思議に思われるかもしれませんが、プロ野球、ひいてはスポーツビジネスに関わる仕事をはじめた私にとって、それは経営やビジネスと同じくらいとても大切なことだと考えていました。

 体力と運動神経には、もともと自信がありました。中学時代は競泳で全国大会上位に残るレベルまで没頭していました。しかし突然の怪我で競技人生を断念することになり、その後はそれなりのレベルでマリンスポーツをはじめとした幾つかのスポーツを趣味にしています。

 経営者としての自分の強みは、そのスポーツを実際にやることで体感的に「知ることができる」ことだと考えています。だからこそ、野球の基本であるキャッチボールだけはまず、絶対にきちんとできるようにならなくてはならない、と思っていました。

 当然ながら、プロ野球選手のキャッチボールはレベルが違います。選手からは「プロ野球の会社の社長なんだから、かっこよくキャッチボールくらいできないとダメですよ」と冗談半分で煽られたりもしましたが、それはある意味本質的なことを言われているように感じました。立場や役割は違うけども、野球の世界での共通言語は野球なんだ、と。

プロ野球の職員は一人二役。

 球団社長になってすぐの春キャンプのときに、高田繁GM(当時)から、「プロ野球球団で仕事する職員は、全員がそれぞれの仕事をしながら、野球の練習も手伝うものだ。一人二役ができなくてはならない」と教えていただきました。そしてその場でキャッチボールの基本を教えられました。

 その後も、選手の邪魔にならないよう、練習後の誰もいないグラウンドで、元選手だったマネージャーはじめ裏方さんと練習を密かに続けたのです。

 何年後かには、中畑清監督(当時)の宮崎でのフェニックス・リーグ視察に同行した際、監督のキャッチボールのお相手をさせていただいたことがありました。「社長もきちんと投げられるようになった」とものすごくうれしいご評価をいただいたとともに、お相手できたことで、「一人二役」の必要性を実感したものです。

桑田さんの自宅にはブルペンがある。

 だんだんと投げ方のコツもつかめてくると、マウンドからしっかりとしたボールをキャッチャーミットに投げ込めるようになりました。次に思ったのは、三浦大輔選手(当時)たちがよく査定の際に言葉にしている「ボール1個分の出し入れ」の大変さを自分の体で知ってみたい──。

 そんな思いでいたときに、あるテレビ番組で、桑田真澄さんの自宅が紹介されていました。そこにはなんと本物のマウンドと、そこから18.44m離れたところにホームプレートが設置してありました。いわば、桑田さん専用ブルペンです。

 これだ! と思いました。

 ちょうどその頃、子どもの教育と環境のために、私の育った地元に居を構えていました。都心から離れ、最寄り駅からもかなり遠いのですが、山あいにあって、若干ですが敷地に余裕のある場所です。庭の一部をうまいこと活用すれば、ブルペンが作れるんじゃないか……。

ブルペンは10万円、天然芝も。

 そこで、ベイスターズの二軍施設をメンテナンスしている業者さんにお願いして、ブルペンを1つ、作っていただいたのです。費用は約10万円。もちろん自腹です。

 二軍施設からボロボロになって使い物にならないプレートとホームべースを1セット分けていただき、細くて狭いですが、自宅にブルペンが完成しました。18.44mという距離の遠さ、またこの距離で、ストライクゾーンのボール1個分の出し入れをする投手の技術のすさまじさを実感することができました。

 ちなみに、自分専用ブルペンのあたりには、天然芝を貼ってみました。当然これも自腹。横浜スタジアムに天然芝を導入できるのか検討していた時期だったので、芝を管理することがどれほど大変か、体験してみようと思ったのです。

 実際やっていて気づいたことは、芝の育成には日照時間がとても大切だということでした。同時に、雑草などの手入れの大変さも思い知りました。

 芝を植えるスペースにはまんべんなく、一定時間陽が当たっていることが必要です。その点、横浜スタジアムはスタンドがかなりせり上がっているためグラウンドに日陰ができやすく、芝が十分育つには日照が不足している構造であることがわかり、私は天然芝導入を断念するに至りました。

ビジネスで関わるスポーツをしてみること。

 キャッチボールも、ブルペンも、芝も、すべては「自分がビジネスとして関わる野球というスポーツを、しっかり知るために必要なこと」だった、と考えています。

 プロ野球の世界から離れた後に関わってきたスポーツについても、とにかくそのスポーツに触れてみるようにしてきました。サッカー、バスケット、ラグビー、ゴルフ、自転車……今、家にはスポーツショップが開けるくらいのたくさんのボールや道具が転がっています。

 各スポーツ団体のトップであったり、チームのオーナーさんや経営責任者は、みなさんそれぞれに、自分の関わるスポーツを体験して、それなりのレベルで共通言語を持っておくべきだ、というのが私の考えです。

 努力して経営者でもそれなりのボールが投げられるようになる姿勢、背中をみせることの大切さ。そうすることで、スポーツそのものが抱える問題点や、ビジネスチャンスが改めて見えてくるかもしれません。

デュアルスポーツの有効性も自分で実験。

 ビジネスとは関わりなく、最近息子と習い始めたのが、テニスです。

 はじめたきっかけは、最近スポーツ教育に良いと言われている「デュアルスポーツ」が本当に良いことなのかな、と疑問に思ったからでした。これは“ゴールデンエイジ”と呼ばれる、運動神経が発達する小学生のうちに、いろんなスポーツに触れさせることで子どもの運動神経を伸ばそうという考え方です。

 このところ交流がある柔道男子日本代表監督の井上康生さんや、ラグビーの五郎丸歩選手からも、子供たちに複数のスポーツを早めに体験してもらうことは大切なことだ、という意見を何度となく聞いていました。

 実際私自身もそうでしたが、昔はいろんなスポーツをしていると、どれかに専念させようと周囲がいろいろと言ってきます。1つのスポーツに集中して、そこに特化して伸ばそう、という考え方ですね。確かにその方が成果は上がるかもしれない。でも、子供の可能性をそこで潰してはいないか……。

 一体どっちが正しいのか気になったので、自ら試してみることにしました。

新しいことを始めるのはやはり楽しい。

 40歳を過ぎた今、改めて新しいスポーツに手を出してみると、若い頃と比べて飲み込みがすごく遅くなっているのがわかります。頭でわかっていても、身体がついていかない。身体に染み込ませるためには何回も反復練習をしなければならない。家で何回も素振りをしてようやくさまになってきたくらいです。

 一方、息子はやはり飲み込みが早い。息子は水泳や野球もサッカーもやっていますが、テニスも同じように楽しんでいます。どうせたくさんのスポーツを楽しむならば、自分の適性が何なのか、その選択肢を増やす意味でも、若いうちにいろいろなことを早めに習得してもらい、なにが自分に合っているのかどうかを見極めるのは必要な過程なんだな、と思うようになりました。

 一方で、テニスは生涯スポーツと言われ、やっていると長生きするという研究結果が出たりしています。この歳になって新しく始めてみると、たくさんの発見があってとても面白い。

 腕力だけでなく、腰、体幹を中心に体全体を使ってボールを打つことで、楽に強く、制御されたボールを打つことができる。考えてみれば、ゴルフもそうだし、キャッチボールだってそう。この体全体の動きこそ、すべてのスポーツに通じる大切なことだな、と感じられるようになりました。

 これからも息子と、テニスを楽しみながら、いろいろ感じていこう、と思っています。

文=池田純

photograph by Sports Graphic Number


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