高橋大輔、不変の魅力とスケート愛。全日本選手権2位の「先」へ向かって。

高橋大輔、不変の魅力とスケート愛。全日本選手権2位の「先」へ向かって。

 全日本フィギュアスケート選手権が終わり、プレスルームで世界選手権代表選手の名前が告げられた瞬間、明確な声にはならない、だがはっきりと耳に届くような、どよめきが聞こえた。

 高橋大輔の名前が、世界選手権代表の中にないことが分かった瞬間だった。

 全日本選手権は、近畿選手権、西日本選手権とステップを踏み、たどり着いた場所のはずだった。

 ショートプログラムではすべてのジャンプを成功させ、演技構成点でも1位の宇野昌磨に匹敵する高得点を得て2位。復帰時の目標に掲げていた「全日本選手権の最終グループ」を実現し、迎えたフリー。

 5番滑走の高橋の名前がコールされる。観客席に、ピンクと黄色のバナーが全面に掲げられる。声援が跳ぶ。

「まさか2位でフリーに挑むとは」

 曲が流れる。静止していた高橋が動き出す。

 冒頭、4回転トウループに挑む。

「6分間練習できれいに入ったので、やることに決めました」

 だが、あいまいなジャンプとなり、結果、トリプルトウループとなった。

 その後も2本のトリプルアクセルはきれいに決めたが、ジャンプで苦しむ。

「まさか(トリプル)フリップで手をついたり、(トリプル)ループでパンクしたり、フリップでコンビネーションつけられなかったり、あまりふだんしないようなミスをしたのが悔しいかな、と」

 できるはずのジャンプでの失敗の原因を、自身ではこう分析した。

「いろいろな要素があると思うけれど、全日本の緊張感や、(ショートでの)2位を予想せずに臨んでいて、まさか2位でフリーに挑むと思わなかったので、欲とか緊張感に打ち勝つ力がなかったと思います」

 それでも演技構成点での評価、ショートの貯金もいかし総合2位。2012年以来、6年ぶりに、全日本で表彰台に上がることになった。

 それは、世界選手権代表が現実のものとして見えたときでもあった。

世界選手権を自ら辞退。

 事実、日本スケート連盟からは、「『ミニマムスコア』をクリアすることを条件に代表選出」と打診されていた。

「ミニマムスコア」とは国際スケート連盟が世界選手権など各大会に出るためにそれぞれに設けている基準のスコアだ。

 今シーズン、国際大会に出ていない高橋はまだクリアしていない。どの国際大会でクリアするか、想定も進んでいた。

 だが、代表の中に高橋の名前はなかった。辞退したからだ。

若い選手の成長を願うからこそ……。

 代表発表会見後、1人、姿を現した高橋は胸中を語った。

「僕も迷ったところです。行きたい気持ちはやまやま。でも、世界と戦う覚悟を持ちきれなかったのが大きな理由です。

 今まで世界のトップと戦ってきて、戦う難しさや精神力は経験してきています。覚悟もないのに出るべきではないと思いました」

 もう1つ、辞退へと至った理由があった。

「海外の選手と一緒の空気を吸うことで成長できます。これからを引っ張っていく選手が経験を積むことで、日本が盛り上がっていくには舞台を経験する必要を感じます」

 自力で出場権を勝ち取れなかった若手に譲ることへの疑問の声も飛んだ。

 すると高橋は「うーん」とうなってしばし沈黙したあと、こう答えた。

「プレッシャーに打ち勝つほどの自信がないというのが大きいところもあるし、世界選手権でしか経験できないことがあります。

 僕はフィギュアスケートが好きで、これからもどんどん(他の日本人選手にも)成長していってほしいんです。

 自分が活躍したいという気持ちと同じくらい、後輩が成長して羽生(結弦)を、(宇野)昌磨を抜かしてレベルアップしてほしいという気持ちがあります」

「まだ引退しないとは決めています」

 一度引退したあと、外からフィギュアスケートを観て、取材する立場で選手たちと接する機会も持った。その時間で培われたフィギュアスケート、そして選手たちへの思いもそこには込められていただろう。

 思えば、7月の復帰会見時にも世界選手権に関する質問に、「自分が若い選手の出る機会をとっていいのか」と懸念を示していた。一貫する思いもあった。

 今シーズンは、今のところ試合に出る予定はないと言う。

 ただし。

「まだ引退しないとは決めています」

 きっぱりと語った。

「ふがいない演技だったな、と」

「今日の演技がすごく悔しかったですし、もうちょっとできるはずだという自分が出てきている。すっきり終わりたいですから」

 フリーは、練習ではできていたことができなかった。

「ふがいない演技だったな、と」感じた。

 だから、表彰台に上がったことも喜べなかった。

「こういう出来で、この場にいたくないというか、自分のすっきりした演技でいたいなと思いました」

 このままでは終われない、そんな思いが後押しとなる。

 いや、それは1要素に過ぎない。復帰表明後、「こんなこともできる、あれもできるんじゃないかと」、そんな喜びと明るさとともに進んできた。2度目の競技生活の中に、新たな発見があった。もっと行ける、もっと楽しみたい。

 そんな思いがある。

このフリーはきっと名プログラムになる。

「復帰も遅かったし、練習(の開始)もぎりぎりだったし」

 高橋はここまでの過程を振り返る。

 長いブランクのあと、短期間にあって、ときに怪我もありながら、でも周囲が目を見張るほど向上した足取りとそこにある努力には、ただ敬意しかない。

 そして復帰してからの3大会で見せたのは、変わることのない、他に類のないスケーターとしての特質と魅力だった。足りなかった準備に、今度は十分に取り組むこともできる。

 これからも続くであろう道で、どのような演技を見せるか。その歩みは、まだ止まることはない。

 そういえば、まだ本人も心から納得した演技ができていない、フリー『Pale Green Ghosts』の完成形もまだ披露していない。すでに片鱗は見せているが、きっと、名プログラムに数えられる作品にできるはずだ。

文=松原孝臣

photograph by Asami Enomoto


関連ニュースをもっと見る

関連記事

おすすめ情報

Number Webの他の記事もみる
主要なニュースをもっと見る
社会のニュースをもっと見る
経済のニュースをもっと見る
政治のニュースをもっと見る
国際・科学のニュースをもっと見る
エンタメのニュースをもっと見る
スポーツのニュースをもっと見る
トレンドのニュースをもっと見る
生活術のニュースをもっと見る
地域のニュースをもっと見る

スポーツ アクセスランキング

ランキングの続きを見る

スポーツ 新着ニュース

新着ニュース一覧へ

総合 アクセスランキング

ランキングの続きを見る

東京 新着ニュース

東京の新着ニュースをもっと見る

東京 コラム・街ネタ

東京のコラム・街ネタをもっと見る

特集

特集一覧を見る

記事検索