4連覇&世界記録はあくまでステップ。東京に向け、瀬戸大也の挑戦は続く。

4連覇&世界記録はあくまでステップ。東京に向け、瀬戸大也の挑戦は続く。

 2年に一度、短水路(25mプール)で行われる世界水泳選手権(25m)。今年は12月11日から、中国・杭州で第14回大会が開催された。

 第11回〜第13回までの3大会、400m個人メドレーで世界短水路3連覇を果たしていた瀬戸大也(ANA)は、まず初日の200mバタフライで「出るとは思っていませんでした」と自身も驚く1分48秒24の短水路世界新記録を樹立。

 勢いに乗った瀬戸は、男子400m個人メドレーでも3分56秒43で優勝。日本人初となる4連覇を達成した。この日、日本から駆けつけていた家族に目標としていた400m個人メドレーでの世界記録樹立の瞬間は見せられなかったものの、「4連覇もなかなか見せられないことだと思うので、胸を張って金メダルを見せたいと思います」と笑顔を見せた。

「俺は何をやっているんだろう」

 始まりは6年前。2012年12月に行われたトルコ・イスタンブールでの第11回大会だった。

 ロンドン五輪の代表選考会を兼ねた同年4月の日本選手権前、当時高校生だった瀬戸はインフルエンザを発症。調子を取り戻すことができず、400m個人メドレーで3位となって代表入りを逃す。

 同時に、同級生のライバルである萩野公介(ブリヂストン)が同種目を制し、初の五輪代表、そしてロンドン五輪本番でマイケル・フェルプス(アメリカ)の追撃をかわして銅メダルを獲得する。

「俺は何をやっているんだろう」

 目標としていた五輪代表権を逃し、どこか練習に身が入らない日々を送っていた瀬戸は、萩野の活躍を見て一念発起。メダリストとなった萩野との直接対決となった9月の岐阜国体で優勝したことを皮切りに、いつもの元気を取り戻していく。

 そして同年12月にイスタンブールで行われた、第11回大会の400m個人メドレーで、世界の並みいる強敵を倒して世界大会初優勝。短水路での大会とはいえ、ライバルよりも先に、瀬戸は世界一に輝いたのである。

思わず弱音を吐く場面も。

 その2年後にカタール・ドーハで行われた第12回大会では、3分56秒33の短水路日本新記録とともに400m個人メドレーを連覇。さらに200mバタフライでも短水路日本新記録で銀メダル、200m個人メドレーでは銅メダルと3つのメダルを獲得。

 パンパシフィック水泳選手権、アジア競技大会と2014年の夏シーズンは思うような結果を残せなかった瀬戸にとって、その鬱憤を晴らす結果で締めくくることができた。

 さらに2年後の2016年。リオデジャネイロ五輪で夢の五輪出場を果たした瀬戸だったが、得意な400m個人メドレーでライバルの萩野が世界一に輝き、アメリカのチェイス・カリシュにも敗れての3位。

 初の五輪で自己ベストを更新し、さらにメダルまで獲得したことは、外から見れば大健闘の結果だ。しかし、金メダルを目指していた瀬戸にとってみれば、悔しさしか残らない結果であった。

 どこかその悔しさが尾を引いていたのだろうか。3連覇がかかった、2016年のカナダ・ウインザーでの第13回大会では、初日から思うようなレースができず、思わず「調子、悪いですね」と弱音を吐く場面も見られた。

「負けた選手のほうが得られるものは大きい」

 だが、400m個人メドレーが行われる前日、日本代表チームは出場した6つの決勝種目で、7つのメダルを獲得するメダルラッシュ。瀬戸自身も100m個人メドレーと4×200mリレーでそのうち2つのメダルを獲得する。

 その勢いに後押しされるように、翌日の400m個人メドレーを制し3連覇を達成。そこで瀬戸は、興味深い言葉を残している。

「今年、五輪も含めてたくさんの経験をしてきたなかで感じたのは、負けた選手のほうが、勝った選手よりも得られるものは大きいんじゃないか、ということです」

 もちろん優勝がアスリートにとって最重要課題であり、それを達成することが何ものにも代え難い喜びであることは間違いない。だが、敗北を知ることもまた、アスリートを更なる高みへと導いてくれる大切な経験なのである。

北島康介もシドニーでは4位だった。

 かつての名選手も、負けを多く経験している。鈴木大地(現スポーツ庁長官)もロサンゼルス五輪で苦しみ、北島康介もシドニー五輪では100m平泳ぎで4位という結果だった。その敗北を糧に大きな成長を遂げ、次のオリンピックでは世界一に輝いた。

 瀬戸は、先の言葉にこう続けている。

「もちろん優勝したいですし、したほうがうれしい。でも、次こそ勝ってやるんだ、という強い気持ちを持って練習を頑張ろうと思えたり、さらに大きく成長できたりするのは、やっぱり負けた選手だと思うんです。僕も負けた選手。だから次の五輪では僕が勝つんだ、という気持ちで、ここからもう一度練習し直します」

挫折と勝利を繰り返して。

 世界水泳選手権(25m)で勝つ前に、瀬戸はこれまで必ず挫折を経験してきた。大小関係なく悔しさや挫折を経験したからこそ、自分はもっと強くなるんだという断固たる決意と鉄の意志を持つことができる。

 瀬戸は今年、結果だけを見ればパンパシフィック水泳選手権では200mバタフライで金メダル、アジア競技大会では200mバタフライと400m個人メドレーで金メダルを獲得しており、それほど大きな挫折はなかったように見える。

 だが、昨年夏の世界水泳選手権では3連覇を目指した400m個人メドレーで、チェイス・カリシュに惨敗し、今年のパンパシフィック水泳選手権でも、そのカリシュに力の差を見せつけられるような負け方をしてしまった。

 この敗北が、瀬戸を奮起させたのは間違いない。『カリシュに勝つには、前半から攻めるしかない』。その課題を最後まで貫き通し、この第14回大会の400m個人メドレーでも、300mまでは世界記録を1秒以上、上回るラップタイムで攻めるレースを展開した。

「常に課題を残すのが彼らしい」

 結果的に目標としていた世界記録での優勝は果たせなかったが、日本人初の4連覇を成し遂げるに至ったのである。

「前半から攻める、という今年の課題をぶらさずにできましたし、最後まで自分の思い通りのレースを貫くことができました。もちろん4連覇はうれしいです。ずっと狙っていた世界記録を出せなかったことは残念ですが、それは次の頑張る糧にして、今大会で見えた持久力の強化という課題を克服できるように、これから冬場の練習をしっかり頑張ります」

 瀬戸を指導する梅原孝之コーチも、「常に課題を残すのが、彼らしい」と話す。

 高校3年生で初制覇を成し遂げて以来、この世界水泳選手権(25m)をステップにしながら成長し続けてきた瀬戸。見るものをワクワクさせてくれる彼の魅力は、挫折などものともせず、常に上を、次を見続けているその姿にある。

 今回も、この4連覇をステップにして瀬戸はさらに大きくなって帰ってくることだろう。瀬戸の終わりなき挑戦は、最終章である東京五輪に向かって加速する――。

文=田坂友暁

photograph by AFLO


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