ラグビー早慶戦、理詰めとアドリブ。HCが学生たちにかけた最大の賛辞。

ラグビー早慶戦、理詰めとアドリブ。HCが学生たちにかけた最大の賛辞。

 会見場に現れた慶応の金沢篤ヘッドコーチと、古田京主将の短い総括が終わり、質問の時間に移った。しかし、報道陣からすぐには質問が出なかった。

 悲劇の当事者に対して、質問をすることさえ憚られる雰囲気があった。私自身も、なんと聞いたらいいのか、分からなかった。

 20−19。

 ラグビー大学選手権の準々決勝、早稲田対慶応。1点差、早稲田の勝利。

 残り30秒まで慶応は十中八九、95%、いや、間違いなく勝利を手中にしていた。しかもマイボールのスクラム。ボールをキープして蹴りだせば、1月2日の準決勝に駒を進められる。

 しかし、ここで痛恨のコラプシングの反則を取られ、運命は逆転した。

 ここから5分以上にわたり、ミスをすることなくアタックを続けた早稲田は我慢強かった。ミスの少ないプレーを選択しつつ、最後はバックスで仕留めた。

後半に突然増えた「ループ」。

 この試合、早稲田の勝因のひとつに「ループ」がある。

 ループとは、たとえば10番の選手が12番の選手にパスし、フォローに走り込んでリターンパスをもらうシンプルなプレーだ。

 このループで重要な役割を果たしたのが、スタンドオフの岸岡智樹(3年)だ。

 早稲田は突如、後半になってからループを繰り出すようになり、特に逆転された後の後半29分のアタックでは、10フェイズを超えてから岸岡からナンバー8の丸尾を経由して岸岡にループ、ここからトライ寸前までボールを運んだ(この時はゴール前で、慶応のスクラムハーフ江嵜の素晴らしいジャッカルでボールを奪取、慶応がピンチをしのいだ)。

 そして逆転トライは、最終フェイズで岸岡→12番中野→岸岡→14番長田→11番佐々木とボールが渡り、ループによってスペース的な優位を確立し、逆転へとつなげた。

完全に研究されていた早稲田の攻撃。

 実は11月23日の早慶戦、12月2日の早明戦では早稲田は一度もループを見せていない。準々決勝の後半になっていきなり多用するようになったのだ。この意図はどこにあったのか、アタックのタクトを振る岸岡に疑問をぶつけると、予想外の答えが返ってきた。

「前半で慶応のディフェンスが完璧に準備してきているのが分かりました。だとすると、『慶応にとって“初見”になるようなアタックを見せないとダメだ』と思ったんです」

 初見、という言葉を使うあたり、数学科で学ぶ岸岡らしい言葉のチョイスだ。行き詰まりを打開するために岸岡が思いついたのがループだった。実はシーズン序盤のサインプレーのひとつとして準備はしていたものの、あまりうまくいかなかったという。

「その結果、早慶戦、早明戦ではループを使う場面がなくて、結果的に“封印”することになっていました。準々決勝の前にことさら練習をしたわけではなく、違ったことをやる意味で何度かサインを出したんです。丸尾を挟んだアタックも良かったですし、最後もループが絡んでのトライだったので、結果的に良かったかなと思っています」

 岸岡の話を聞いて合点がいったことがある。

 最後のトライにつながるループは、決して流麗なものではなかった。岸岡が中野からリターンパスをもらってから、一瞬、立ち止まっている。その微妙な時間のタメが相手ディフェンスの足を止める結果となり、トライに結びついた。

 試合後半になり、半ば即興で繰り出した分、美しさはなかったものの、「たどたどしさ」がかえって準備力に秀でた慶応ディフェンスに穴を空けた。

 シーズン終盤に入り、岸岡はゲームコントロールで大きな成長を遂げており、準決勝の明治戦も彼のパフォーマンスが勝敗に直結するだろう。

 慶応戦ではキックモーションが大きいところを狙われ、チャージからのトライを許すなど弱点はあるが、久しぶりにスマートな早稲田の10番が見られるのはうれしい。

理詰めであることの強さと弱さ。

 対する慶応にはかけるべき言葉が見つからない。

 慶応の「早稲田対策」は満点に近かった。正確に分析がなされ、ゲームプランも思い通りのものだっただろう。スタッフは満点の仕事をしたはずで、だからこそ、岸岡にループを掘り起こさせたのだ。

 今季の慶応が好ましいチームだったのは、理詰めで、生真面目さが際立っていたからだ。しっかりと準備したうえで、必死のパフォーマンスを見せる。

 ただし理詰めである分、相手も準備しやすいという矛盾、強みを持つがゆえの裏返しの弱点がある。

慶応選手に対する最高の賛辞。

 早慶戦後の原稿で私はそのことを指摘したが、準々決勝でFBに入った丹治辰碩(4年)は、1カ月前の早慶戦から比べるとコンディションが上向いたことが一目瞭然で、たびたびチャンスを演出した。ただし、チーム全体としては早稲田を驚かせるまでには至らなかったかもしれない。

 分析力に秀でたチーム同士の対戦の場合、最後に勝負の分かれ目となるのは、「アドリブ」だったりする。

 この日、岸岡のアドリブが冴えた。

 慶応の学生諸君は、スクラムのコラプシング、そして最後のディフェンスと様々な後悔の念が渦巻いていると思う。

 会見の最後、金沢篤ヘッドコーチの言葉が忘れられない。

「今年の4年生は、花園に出場した選手も多く、慶応としては珍しく才能のある代でしたが、最初はまとまりがありませんでした。それでも、最後の2、3カ月は学生だけでミーティングをするなど、プレーヤーとしてだけでなく、人間として成長したのかな、と思います」

 選手に対する最高の賛辞ではないか。

 慶応は戦いの場から去った。

 残った学校は、帝京、天理、明治、そして早稲田の4校である。

文=生島淳

photograph by AFLO


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