川口能活×楢崎正剛「好敵手として」レジェンド守護神対談完全版・前編

川口能活×楢崎正剛「好敵手として」レジェンド守護神対談完全版・前編

 2018年12月2日、現役引退セレモニーを終え、ギオンスタジアムを1周する川口能活の姿を見つめる楢崎正剛に声をかけた。あらためて、約4年前の取材のお礼を伝えると、少し照れたような、柔らかい笑顔でこう返された。

「最初で最後でしたもんね」

 2015年2月、雑誌では史上初めて、川口と楢崎による対談が実現した。その模様は、Number874号の誌面に掲載したが、ページ数の都合上、掲載しきれなかった会話もたくさん残っていた。

 だから、当時からずっと思っていた。

 日本を代表する守護神と守護神の対話を、自分のパソコンの中だけに閉じ込めておくのは、あまりにももったいない――。

 そこで、おふたりの許可を得て、当時の未公開部分を含む「川口能活・楢崎正剛対談」の完全版を公開することにしました。川口がスパイクを脱ぎ、グローブを外した今、多くのみなさんに、2人の「GKとしての矜持」が伝われば幸いです。

俺たちの関係って、普通だよね。

――雑誌では、初めての対談です。その司会者として正直、緊張しています(笑)。

川口 なんで? 俺たちの関係って、普通だよね。

楢崎 全然普通。むしろ、「なんでこういう対談のオファーが来ないんやろうな」って思ってたぐらいだから。

川口 そうそう。それが不思議だった。

楢崎 メディアのみなさんの方が、気を使っているんでしょ。

――初めて同じチームでプレーしたのは、東京・よみうりランドでのアトランタ五輪予選に向けた強化合宿だったと思います。お互いの第一印象はどうでしたか。

川口 正剛はまだ高校生で、選手権が終わった後の合宿だったよね。

楢崎 そうそう。卒業する前あたり。高校の制服姿で合宿場に行ったんだけど、今でもトレーナーだった並木(磨去光)さんに「制服姿だったあの頃は、可愛かったのに」ってイジられる(笑)。

川口 あの年、正剛は1人で奈良育英を選手権ベスト4に導いて。じつは俺、1回戦で奈良育英と清商(清水商)が戦った試合を観に行ったんだよね。そうしたら、正剛が止めまくって。「これは、清商のシュートは入らないな」と思っていたら、やっぱり奈良育英に1点取られて、0−1で負けて。まさに“神”崎正剛だった(笑)。

楢崎 いやいやいや。その前の年に清商を選手権優勝に導いた“神”口能活さんが、どんだけ偉大だったか(笑)。

ヨッちゃんは「お手本」。

――最初から「ライバル」として意識していましたか。

川口 選手権の時から正剛が素晴らしいGKであることはわかっていましたから。年齢も近いし、「これから競い合っていくだろうな」って。この年に僕がマリノスでデビューして、その後すぐに正剛がフリューゲルスでデビューした。高卒のGKがすぐに試合に出るのは大変ですから。「もしも代表に選ばれたら、これは俺と正剛で争っていくんだろうな」って思っていましたよ。

楢崎 僕にとってヨッちゃん(川口)は、常に先を行く先輩だったので、ライバルというよりお手本だった。だから最初の頃は、そこについていくイメージでしたね。だって、中学でも高校でも活躍していたし、ユース代表でも五輪代表でもプレーしている姿を見ていたから。それもあって、合宿で顔を合わせた時には、「あっ! 川口さんだ」みたいな感じだった(笑)。

――そこから、代表の正GKを争う関係となります。メディアでも常に比較され続けました。代表の練習場で、2人が話していると報道陣がざわついたり。

川口 それがわからないんだよな(笑)。

楢崎 昔はそうやって比較されて、こっちが気を使う部分もあったかもしれない。でも、俺は別に普通でしたよ。比較されることが嫌でもなかった。だって、俺にとっては光栄な話でしかないでしょ。

川口 普段は、普通に仲がいいからね。でも、世間の人にはなかなかわかってもらえなかったかもしれない。練習場や試合では切磋琢磨しているし、メディアにはそういうところしか映らないから。プライベートや練習以外の部分が、なかなか映らない分、ライバル関係のところばかりが注目されたのかな。でも、世の中の人たちがGKに関心を持ってくれて、「正剛の方がいい」「いや、川口がいい」って議論になったことには、すごくやりがいを感じましたよ。

楢崎 取材を受けた時に、あえて強気なことを言ったりもしたけど、別に強がりではなくて、比較された時に、あえて「負けてないよ」と言うのも大事かなって気もしていたから。だからといって、リスペクトしていないわけじゃない。なんていうか……当時はあんまり深く考えて答えてないっす(笑)。自分が思ってもいないようなことを聞かれたりもしたから。

川口 けっこう意地悪な質問もされたしね。

楢崎 繰り返し同じことを聞いてきたりね。

存在感の能活、確実性の正剛。

――GKの中にも、いろんなタイプの選手がいます。お互いのプレースタイルの違いは、どう感じていましたか。

楢崎 ヨッちゃんはコーチングも積極的にやっていたし、やっぱり存在感があった。僕にないものをいっぱい持っていましたからね。積極的に前に飛び出す守備範囲の広さだったり。あとは大舞台に強いところ。それは「すごいな」って思っていた。

川口 僕はどちらかと言うと、存在感を出して守るスタイルです。でも正剛には、若い頃から確実性があった。ゴールマウスを守った上で、守備範囲も広い。若いGKとは思えないような安定感があったから、僕も見習っていたし、「学ぶべきところだな」と思っていましたね。

 だから、代表で一緒に練習する時も、Jリーグで対戦する時も、常に正剛を注視していた。良いところは学んで、盗んでいきたいなと。2人とも若い頃からずっと代表に選ばれて、でも、レギュラーのポジションは1つしかない。僕が出たり、正剛が出たり、常に切磋琢磨してきたから、レベルアップできたっていうのは、すごく感じていました。

――代表合宿中、GK陣は常にユニットで動きます。その際、技術的な話もするのですか?

楢崎 そんなにしないね。Jリーグのクラブでも、GKは一緒にいる時間が長いからか、普段はしょうもない話をしている(笑)。

川口 そうそう。「今日の練習、何やるんだろう」とか。

楢崎 きついフィジカル練習を「どうやって凌ごう」とかね(笑)。

――代表の練習では、数え切れないほどのシュートを受けてきたと思います。その中で、止めるのが難しかった選手は誰ですか。

川口 僕はヒデ(中田英寿)です。試合前のウォーミングアップ中に打つシュート。

 インステップでの強烈な一発で、“タイガーショット”みたいな(笑)。

楢崎 パンチ力がすごかったよね。

川口 あのパンチ力は、日本人の中では一番だったかな。練習の中でのシュートもすごかったけど、ウォーミングアップ中の、アドレナリンを出す段階で打つシュートは、もっとすごかったですからね。

楢崎 俺は、シュン(中村俊輔)のFKかな。スピードも、正確性も、駆け引きも。

川口 駆け引きはうまかったね。俊輔のボールは、マリノスで何千本も受けてきて、癖も見てきたから、何となくどこを狙っているかわかる部分もあったんです。でも、敵になってみると「こいつ、こんなにいやらしいんだな」ってわかった。

楢崎 日本人のキッカーでは一番だろうね。

川口 あとはヤット(遠藤保仁)。ボールが重いんですよ。GKにとっては重いけど、味方にとっては合わせやすいようなボール。俊輔とヤットのFKは別格かな。

'04年アジア杯と日韓W杯で……。

――代表のベンチから試合を見て、お互いのプレーで「すごい」と思ったものは?

楢崎 僕は完全に'04年のアジアカップ。特に準々決勝のヨルダンとのPK戦でのヨッちゃんは、すごかったですよね。当然、僕にも出番が欲しいという気持ちもあったし、反日感情の高まった中国でいろんなこともあったけど、あのPK戦は震えた。最初の2人が外した時点で「もう負けやろ」って思ってたから(笑)。最後の瞬間は、「えーー! 勝ったで」って(笑)。あの大舞台での強さは、やっぱりメンタルじゃないですか。

川口 いや、思い込み。「できる」って思い込みかな。PKが好きなわけでもないんだよ。逆に「止めなきゃいけない」ってプレッシャーになる時もある。PKって、一番注目される場面ではあるけど、PKだけがGKのすべてじゃないから。

 正剛のプレーでは、やっぱり日韓W杯ですね。自国開催の大会での、あのパフォーマンスはベンチで見ていても頼もしかった。もちろん海外でW杯を戦う難しさもあるけど、自国開催の精神的なプレッシャーは、いくらホスト国の利点はあるとはいえ、半端じゃない。その中でああいう安定したプレーで勝利に導いたことは、頼もしかった。

楢崎 でもヨッちゃんはフランス大会の時、日本が初めて出たW杯なのに、普通にやっていた。負けはしたけど、何度もシュートを止めていたし。今の日本代表と比べると、世界からはレベルも下に見られていて、劣勢の展開になることも多かったのに、普通にプレーしていたよね?

川口 言われてみたらそうだね(笑)。でも、日本が下に見られていた分、チャレンジャーとして臨めていた部分はあるよ。もちろんプレッシャーはあるけど、自分にとっても日本代表にとっても初めてのW杯だったから、挑戦者の気持ちでできた。というか、あんまり考えていなかったね。いろいろと考えすぎると、ダメなんだよね。

――W杯の舞台でも、緊張しませんか?

楢崎 さすがに、多少は緊張しますよ(笑)。でも、慣れてくればね。

川口 あんまりしない。むしろ一度だけ緊張したのは、ジュビロ磐田時代の'08年にベガルタ仙台と戦ったJ1・J2入れ替え戦かな。あの試合は、W杯予選より緊張した(笑)。特にホームの第2戦。序盤にクロスからヘディングシュートを打たれて。それは外れたんだけど、バックステップしながらシュートを見送る時に、足がズルッと滑った。

 その時に「俺、緊張してるな。ガチガチだわ」と思って。今までそんなことなかったからね。やっぱりあの試合は「磐田をJ1から落とすわけにはいかない」って思っていたから。日本にとってのW杯は、ある意味、挑戦だったけど、あの試合には今まで味わったことがないプレッシャーがあった。

楢崎 それを言われたら……俺は全然緊張してないな(笑)。

GKをやめたいと思わなかった?

――GKはミスが失点に直結するポジションです。代表でのミスともなれば、精神的なショックも大きいと思います。ミスを引きずることはありませんでしたか。

楢崎 俺は1回、引きずったことがありますよ。'01年にアウェーでフランスに0−5で負けたときに。ミスから失点して、次の試合からはスタメンから遠ざかって。あの時は、精神的に引きずったというか、挽回しようにもその機会がなかった。「代表でのミスは、代表で取り返そう」と思っていたから。ずっと「どうにかして挽回したい」と思っていましたね。

川口 僕らは、どちらかがミスをすれば、すぐにレギュラーが入れ替わる。その繰り返しでしたから。だからこそ、仮にミスをしても引きずっていられない。常にポジティブに、次のチャンスまで頑張る。そういう緊張感の中で戦っていた気がします。

楢崎 緊張感はあったね。練習でも。

川口 そう。練習でもミスはできないし。

楢崎 お互いが良いプレーをすれば、自然と目に入る。だから「負けていられない」って。自分が試合に出ている立場だったらなおさらだし、出ていないときでも。

――ストレスも溜まるポジションですが、GKをやめたいと思ったことはありませんでしたか?

楢崎 俺はあんまりないかな。

川口 昔、土のグラウンドでセービングして、足が血だらけになったこともあったけど、それでもやめたいと思ったことはなかったね。

楢崎 親のほうが「やめてくれ」と思ったかもしれないね。学生の頃は練習で夜遅く帰って、朝早く出て行く。洗濯とかも大変だっただろうし、親に任せっぱなしだったから。道具も、GKはスパイクだけじゃなくて、グローブも必要だからね。

川口 今と違って、グローブの値段も高かったもんね。

(後編に続く)

文=松本宣昭(Number編集部)

photograph by Takuya Sugiyama


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