川口能活×楢崎正剛「未来のGKへ」レジェンド守護神対談完全版・後編

川口能活×楢崎正剛「未来のGKへ」レジェンド守護神対談完全版・後編

 川口能活と楢崎正剛による対談が実現したのは、2015年2月。前年のブラジルW杯では、ザックジャパンがグループリーグで敗退し、1月のアジアカップでは、アギーレジャパンが準々決勝で姿を消した後の時期だった。

 日本を代表する2人の守護神による対談の完全版。前編に続いて後編では、ベテランとなり、自身が離れた日本代表への思い、そして未来のGKたちへのメッセージをお届けします。

南アの正剛は本当に立派だった。

――'10年南アフリカW杯は、日本のW杯史上初めて2人とも試合出場がありませんでした。

川口 あの大会の正剛は、本当に立派だったと思います。大会前、僕は正剛が守るものだと思っていましたから。そこで岡田(武史)さんが先発から外す決断をしたけど、正剛の振る舞いは素晴らしかったし、僕も見ていて心を打たれました。もし自分が同じような状況になって、同じように振る舞えるかと考えたら、わからない。

楢崎 もちろん、つらいというか、がっかりしたところはすごくあったんです。だけど、チームとしてはW杯を戦うために4年間頑張ってきて、集大成の場で一丸となれるかどうかで、結果は全然違うから。過去のアジア杯やW杯でも、チームの雰囲気によって結果が変わるところは見てきたから。

 自分としても「このW杯で最後かな」って気持ちがあったし、悔いを残したくなかった。チームが良い結果を出して、みんなの記憶に残る大会にしたいと思ったんで。その願いだけでしたね。個人的な感情で言えば、本当は試合に出たいし、チャンスだったと思う。でも、そのチャンスを逃している自分に腹が立った部分もありました。

――チームがまとまるという意味では、'06年ドイツ大会の教訓もあったのですか。

楢崎 それもあったでしょうね。良い時期の代表チームと、結果が出なかった代表チームとでは何が違ったのかと考えると、やっぱりチームの雰囲気だから。

川口 勝てるときの代表って、チームがすごくまとまっている。逆に、勝てていないときの代表は、なんとなくレギュラーとサブの選手で分かれてしまう。そんなときに、一声かけられるような選手がいると、ぐっとまとまるし、良い雰囲気をつくれる。それを形式的にやるんじゃなくて、心からやれる選手がいる代表チームは、強いですよね。“仲良しグループ”とは違う、真のまとまりというかね。

トルシエ時代の「緊張感」。

――'14年ブラジル大会は、2人が日本代表にいない初めてのW杯でした。

川口 初めて自分が、日本代表をテレビで応援するW杯だったから、すごく新鮮だったし、「こうやって盛り上がってるんだ」って驚きました。

楢崎 そう! 周りはこうやって見ていて、テレビもこうやって取り上げているんだ、こんなに注目されてるんだって。

川口 ワイドショーとかね。'02年の日韓大会のときも国内にはいたけど、隔離されていたからね。

楢崎 外の情報はシャットアウトされていたもんね。

川口 いろんな人がW杯を語るんだなって(笑)。テレビ番組の司会者の方が、日本代表のユニフォームを着ていたり。新鮮でしたね。

楢崎 あれだけ盛り上がっていることを知った上でプレーしたら、もっと緊張したかもしれない。こんなにみんな観ているんだったら、「もっとちゃんとせなあかんかったかな」って(笑)。

――ブラジルW杯は、2大会連続で川島永嗣選手が全試合にフル出場しました。裏を返せば、おふたりの関係性のように切磋琢磨するライバル選手がいれば、より成長できるんじゃないかとも感じます。

川口 そればっかりは、監督が選ぶことですからね……。

楢崎 難しい問題ですね。1人でああやってポジションを守るのも、すごく難しいことですからね。

川口 1人で守り続けるのも大変だし、競うのもエネルギーを使う。永嗣が1人で守り続けることで日本のGK全体のレベルと選手層が上がってくれば、「ああ、永嗣に任せてよかった」となる。そこはまだ、様子を見てみないと分からないですね。

――GKは、監督の好みによってどの選手をゴールマウスに立たせるかも変わります。今までの監督で、「GKに求めること」が意外だった人は?

楢崎 代表の場合は、クラブでやっているプレーを見て選んでいるから、GKとして「ああやれ、こうやれ」と指示されることは少ないですけど、あえて言うなら、トルシエさんは何を考えているかわからんかった(笑)。でもシンプルに、「アグレッシブさ」はすごく求められていましたね。

川口 でも、僕はトルシエのときが一番、「やっているな」「代表に来ているんだな」って感覚はありましたけどね。トルシエのときが一番、充実してなかった? 充実というか、緊張感があって、マンネリがない。常に「代表チームとしてのあり方」を意識して、組織化されていた気がする。たしかに正剛が言うように、何を考えているかはわからなかったけど(笑)。それが逆に新鮮だったというか、キャラクターも強烈だったしね。

闘莉王の“2人が悪い!”。

楢崎 GK練習で「こうしろ、ああしろ」じゃなくて、11人の中でどういう役割をするか、フィールドの中に入ってGKに求めることがすごくあったから、面白いといえば面白かったよね。

川口 「GKは別」って感じじゃなかったからね。常に11人の中の1人。

楢崎 あの時はディフェンスラインがフラット3で、「こう行ったらこう動け」「押し上げろ」とか。それに連動することが求められていた。そういう意味では、一番いろんなことを要求していたからね。クラブでもそんな監督はあまりいないですから。

――プロとなって、約20年が経過しました。自分が現役引退を決断する瞬間を、イメージできますか。

川口 いやー、わかんないですね。

楢崎 これからまだまだ長くやるとは考えられないですけど、引退を決断する瞬間はわからない。どこで自分のモチベーションが変わってくるのか、わからないから。逆に言えば、「わからない」ってところがいいのかもしれないですね。もしかすると、ぱっと決断するかもしれないし。

――2人の経験を伝えることは、日本サッカー界にとっても貴重だと思います。

楢崎 確かに下の世代に伝えていく役割は持っていると思う。(田中マルクス)闘莉王によく言われるんです。他のチームのGKがミスをした時に、「能活さんとあんたが悪いんだ。あんたたちのせいだ!」って。

川口 なんで?

楢崎 下の世代のGKが育たないのは、俺らが悪いらしい(笑)。

川口 そう言ってるの? おもしろいね。

楢崎 だからこそ、僕らが若い選手たちに伝えていくことは大事かなと思いますね。

川口 伝えていく役割は当然あるし、僕はGKという枠にとらわれずに、チーム全体を見てみたい気持ちもあります。監督とかもやってみたいなって。

ヨッちゃんは最先端だった。

――日本代表のゴールマウスを背負えるGKになるためには、どんな資質が必要だと思いますか。

川口 難しい質問ですね。

楢崎 これは難しい(苦笑)。

川口 まずGKを志す子どもたちには、自分が好きなGKを見つけて、そのGKのプレーを真似してほしいなって思うんです。人それぞれ意見はあるでしょうけど、僕自身は、そうしてきたので。

 国内・海外を問わず、1人じゃなくてもいい。僕はいろんなGKが好きだったし、シューマッハーもシルトンもそう。高校サッカーにも好きなGKがいました。いろんなGKを見て、自分がいいなと思ったプレーを頭に焼き付けて、その真似をする。真似をすることで、自分でもできるようになって、そのプレーで観ている人たちが感動したり、心打たれたり、印象に残ることにつながっていく。

楢崎 その意味では、僕はシュマイケルが好きだった。子どもの頃というか、プロになってからもそうでしたけど。ああいう人が出てきてほしいな。

川口 シュマイケルはすごいよね。1対1も強いし、体も強い。ああいうGKが出てきたら最強だよね(笑)。

楢崎 「GKによって、チームが勝てる」っていう選手。

川口 存在感を越えた威圧感。相手からしたら、すごく怖い。

楢崎 シュマイケルのような存在が現れれば、誰もが「日本のGKが変わった」と感じるはず。もちろん技術もメンタルも必要ですし、それが難しいことは十分にわかっているけど、自分自身がシュマイケルをよく見ていて、好きだったから。

――もし、お互いがいなかったら、自分のサッカー人生は変わっていたと思いますか。

楢崎 変わってるでしょうね。

川口 間違いないだろうね。

楢崎 根本から違っていたと思う。僕の中でヨッちゃんは、GKの最先端を行っていたイメージなんです。プロになった当時は、まだJリーグも始まったばかりだったから、いいモデルだったし、「勉強しよう」という目で見ていた。だから、ヨッちゃんがいなかったら「GKって、どうしたらいいんやろう」と思っていたかもしれない。そう考えると、いなかったら怖いですよ。僕はラッキーだったと思うんです。

正剛がいなかったら現役を……。

川口 正剛がいなかったら、もっと早く現役を辞めていたかもしれない。やっぱり人間って、競う相手がいないとなかなか成長できないし、向上心を持てない。正剛というレベルの高いGKがいて、そこでやり続けたからこそ、ここまでやってこれた。

楢崎 すぐ満足していたかもしれないね。

川口 そうだね。満足して、「もういいや」って。僕らには、若い頃に身に付けた向上心や競争心のDNAがあるからこそ、今もプレーできている。もし正剛がいなかったら、そういうDNAは培われなかったかもしれないですね。

――おふたりがいたからこそ、日本のGKのレベルが向上した。日本のサッカー界にとっても、「幸せな関係」だったように思います。

楢崎 当時はそんなこと考える余裕はなかったですけど、今、そう思ってもらえるのならば、うれしいですね。

川口 そういうふうに言ってもらえるのならば、2人で頑張ってきた甲斐があった。当然、これまでのサッカー人生では、良いときもあれば、我慢しないといけないときもありました。それは僕らにしかわからない心情だったから。それを今、評価というか、そういうふうに言ってもらえるのならば、2人で頑張ってきて本当によかったなって。すごくありがたいです。

楢崎 うん。ありがたいですね。

文=松本宣昭(Number編集部)

photograph by Takuya Sugiyama


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