早稲田実業、平成最後に花園へ。中心は大学ラグビー部の二世たち。

早稲田実業、平成最後に花園へ。中心は大学ラグビー部の二世たち。

 早稲田実業が全国大会に出場するのは82年ぶりのことだ。当時は会場が別だったため、高校ラグビーの聖地「花園」への登場は初めてのこととなる。

 82年前といえば1936年。元号ならば昭和11年で、日本のプロ野球が誕生し、ベルリン・オリンピックが開かれた。また、立川談志、長嶋茂雄、そして毒蝮三太夫が生まれたのもこの年のことである。

 檜舞台から遠く離れながらも、平成最後の花園出場の原動力となったのは、ひとりのヘッドコーチの就任である。

 2011年から3シーズンは早稲田大学のジュニアコーチとして指導経験を積み、2014年からは母校でもある早実の現場に立った大谷寛ヘッドコーチは、5シーズン目で花園切符を手にした。彼は勤務先のJスポーツではラグビー中継のプロデュースも担当しており、年末は大忙し。そのなかで初出場の準備を進めている。

試験中の1週間は練習しない。

「なにしろ初めてのことばかりで、時間がいくらあっても足りません。相手の情報が少ないのはもちろんのこと、花園での宿舎の準備、練習場所の確保、インフルエンザ対策、開会式の寒さ対策はどうするか……。考えることばかりです。しかも、11月下旬には試験があって、試験前1週間、試験中の1週間は練習が出来なくなるのは、正直、弱りました」

 全国大会出場を決めても、試験前の練習に例外は許されないという。

「ただ、シーズンが延びたことで、選手たちは格段の成長を遂げています。これまでも『あと1カ月あったら選手たちはもっと伸びるだろうな』と想像していましたが、実際に指導してみると、この1カ月の差は大きいですね。

 ここからは早実にとって未知の領域への挑戦ですが、チームが波に乗れば、私の想像を超える成長を見せてくれるかもしれません」

早大OBの二世選手がチームの中核。

 早実の中核を担うのは、大学でラグビー部に所属した父の二世選手が多い。

 主将でナンバー8の相良昌彦のお父さんは、今季対抗戦で優勝した早稲田大学の監督、南海夫氏だ。息子は縦への突進力があり、コンタクトに強さもある。大学では下級生からレギュラー争いに絡んでくるであろう人材だ。

 注目して欲しいのは、FBの小泉怜史。左足のキッカーで、ゴールキックの成功率は極めて高く、「機を見るに敏」な選手。

「小泉は周りのレベルが高くなればなるほど能力が引き出されると思います。花園でも中心になるでしょうし、きっと、大学でもさらに能力を伸ばすでしょう」

と大谷ヘッドコーチは話す。

 また、SO守屋大誠、CTB植野智也の父も赤黒着用経験者。そして、WTBの今駒有喜の父は日本代表の選手だった憲二氏だが、息子のしなやかなランニングスキルは早実アタックの大きな武器になっている。

間違っているけれど、正しいこと。

 素質のある選手を抱えてはいるが、決勝で対戦した國學院久我山は「ガリバー」のような存在。倒すまでには様々な葛藤があった。

 新人大会では21−64と大敗。ただし、この試合で大谷コーチはこのチームの可能性に気付いたという。

「前半終了間際、スコアは0−12という場面で相手ゴール前でペナルティをもらったんです。僕の感覚ではショットを狙って3点を取り、9点差にして後半勝負という感覚でした。ところが、選手たちは何やら相談を始めてしまって(笑)。結果的にスクラムを選択してトライを取り切ったんです」

 大谷ヘッドコーチは、たとえトライを取ったにせよ、この判断は間違いだったと今でも思っている。ただし、選手たちが意志統一をして取り切ったことに、さらに大きな価値があったという。

「この一連のプレーで7点は取りましたが、選手たちは体力を使ってしまい、後半は明らかにフィットネスが落ちました。結果的には3点を狙った方が、勝つための『正解』に近かったでしょう。それでも、僕は学生たちの判断は間違ってはいたけれど、正しかったんだと思います。全員がそれを信じてプレーしたならば、間違っていても正しくなるんです」

「俺がパニックになったらどうするの?」

 高校生ではあるが、アイデンティティがしっかりと存在するチームなのだ。

 花園でプレーするのは初めてのことゆえ、様々な例外的事象が起きるだろうと大谷ヘッドコーチは予測している。

「たとえば、『もしも、俺がパニックになったら、どうするの?』という問いかけを選手たちにはしています。初めてのことに対しても、全員が意志を統一して戦えるように準備を進めます」

 花園での目標も、選手たちが話し合って決めた。

「選手から上がってきたゴールは、組み合わせ抽選が行われる前でしたが、2試合に勝ち、正月を花園で迎えるというものでした。なかなか高いハードルでしょう。初舞台の1回戦を勝たなければいけないし、2回戦ではシード校と対戦しなければなりません。でも、選手たちがそう決めたからには、目標を達成できるように、ヘッドコーチとして準備していきたいと思います」

 慣れない、初めての舞台であっても、國學院久我山を下した力は本物だ。

 もしも、清宮幸太郎がプレーした野球部と同様、苦境を乗り越えて波に乗ることが出来れば、早稲田実業が冬の台風の目になる可能性は十分にある。

文=生島淳

photograph by Kyodo News


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