日本中を魅了したカーリング女子の「いつでもステイ・ポジティブ!」

日本中を魅了したカーリング女子の「いつでもステイ・ポジティブ!」

北海道なまりの純朴な彼女たちのどこに、これほどの力が隠されていたのか──。
息詰まる熱戦の最中に見せるその笑顔に、気づけば日本中が魅了されていった。
日本カーリング界の悲願だったメダル獲得までの戦いの軌跡を、
メンバー5人の言葉から振り返る。
2018年平昌五輪で激闘の末、銅メダルを獲得した「ロコ・ソラーレ」。
Number947号(2018年3月1日発売)掲載の特集を全文掲載します。

 2月24日、カーリング女子日本代表「ロコ・ソラーレ(LS)北見」の4人は、3位決定戦が始まる前、いつものような弾ける笑顔で観客席に手を振った。

 前夜の準決勝では韓国を相手に、第1エンドに3失点するなど劣勢になりながらも粘り強く戦い、7−7でエキストラエンドにもつれこむ熱戦を演じた。それでも最後、完璧なドローショットで1点を奪われて惜敗。スキップの藤澤五月は涙を流した。

「悔しい。そのひとことです」

 だが、敗戦のショックは払拭されていた。

 3位決定戦の相手はイギリス。ソチ五輪の銅メダルチームであり、三度五輪出場のスキップ、イブ・ミュアヘッドのリーダーシップのもと、長年にわたり世界の上位で活躍する強豪国である。予選ラウンドでは日本は6−8で敗れていた。

スイーパー、知那を信じて。

 銅メダルをかけた大一番は慎重な試合運びが続いた。一進一退の攻防のなか、日本のメンバーはそれでも笑顔を交え、1投ずつ、アイスの感触を声で伝えあう。

 第4、第8エンドには2点獲得のチャンスもあったが叶わず、1点ずつを互いに獲りあい、3−3で迎えた第9エンド。「ここが勝負時だと分かっていました」と藤澤が振り返るように、試合が動く。先攻の日本は藤澤が最後の一投でガードの裏に隠れるドローショットを正確に決めた。

「自分を信じ、スイーパーを信じ、知那(吉田知那美)のラインコールを信じて投げられました」

 イギリスは1点を獲っても、わずか1点リードで最終エンドを不利な先攻で迎えることになる。互いに無得点となるブランクエンドを狙い、ハウスに1つのストーンも残さないショットを選択するが、わずかにずれて日本の黄色が残る。4−3と今試合初めて日本がリードした。

 最終エンドは日本が先攻。リード吉田夕梨花がセンターガードの裏に回し込むドローショットを決めると、セカンド鈴木夕湖はガードをわずかにすり抜ける絶妙のテイクアウトを決める。さらに吉田知那美もハウス内へのドローショットやセンターガードを置くなど、的確なショットをつないでいった。

藤澤のラストショットは……。

 イギリスも黙ってはいない。サードのアナ・スローンが自身の2投目で正確なドローショットを決め、ナンバー1を確保。

 ついに、スキップの一投を残すのみになった。藤澤のショットはガードにわずかに触れて軌道が微妙にずれる。イギリスが2点を獲るチャンスを迎えた。藤澤はこのとき、負けも覚悟したと言う。

「あまりいいショットではなかったので後悔もしていました。ただ、(相手に)プレッシャーのかかるショットではあったので」

 実際、日本の選手たちが感じたほど、簡単なショットを相手に残したわけではなかった。ドローショットで真ん中に置いて確実に1点を狙う選択肢もあったが、ミュアヘッドは日本のストーンを弾き出すショットを選択する。

「あと数cm曲がれば」とミュアヘッドが悔やんだラストストーンが、日本のストーンに当たるハウスの中心に一番近かったのは、日本のストーンだった。

 一瞬、起きた事態がつかめないように動きを止めた日本の4人は、イギリスチームと握手を交わした直後、感情を爆発させた。涙を流しながら、互いを堅く抱きしめる。日本カーリング界初の五輪メダル獲得という快挙を成し遂げた瞬間だった。

コーチが感じていた疲労。

 今大会の戦いは、後半になるにつれて厳しさを増していった。初戦のアメリカ戦で勝利をあげると5戦目までで4勝1敗。過去の大会にないほどの好スタートを見せたが、それゆえに重圧ものしかかり、予選終盤のイギリス、スイスと連敗を喫した。小野寺亮二コーチはこう振り返る。

「疲労もたまっていたと思うし、(メダルを)意識したところもあったでしょうね」

 予選最後の試合となったスイス戦に敗れた後、吉田知那美は「今シーズン、こんなに(ショットが)決まらなかったことはないです」と涙を流し続けた。残る試合へのダメージが心配されたが、一夜明けると本来の笑顔を取り戻した。

 チームが掲げるのは「ステイ・ポジティブ」。言葉の通り、好ショットはみんなで称え、誰かにミスが出ても、それを和らげる笑顔で励ましあった。敗戦後もポジティブさは失わなかった。

それぞれが迷い、現チームに。

 吉田知那美は以前の取材で語っている。

「いろいろ大変なこともあります。でもカーリングができること、このチームでやれることに感謝しているから笑顔なんです」

 ソチ五輪に出場した吉田知那美は、大会終了直後、次のシーズンにはチームを離れるようにと告げられた。突然の戦力外通告に、一時はカーリングをやめてしまおうかとも考えたが、LS北見に加わることを決め、今日がある。

 藤澤五月もまた、道を迷い、たどり着いたのがこのチームだった。中部電力時代、ソチ五輪出場を逃すとチームへの支援は大幅に縮小され、同好会レベルでの活動を余儀なくされた。もっと上を目指したい。そう考えていた藤澤は、LS北見へと加入する。チームに加わった直後は練習量の多さと、その内容にも驚かされたという。

「自分たちでメニューを考え、練習していました。私に足りなかったのは、自ら取り組む姿勢だったと気づきました」

 メンバーが互いに意見をぶつけあい、話し合う光景も新鮮だった。

「ここまで話しあってるんだ、みんないっぱい意見を言いあうんだなと思いました」

 やがて藤澤の表情からは、かつて見せていたチームの全てを背負うような厳しさがなくなり、試合でも柔和な雰囲気を醸し出すようになっていった。

本橋が夢見た「人間力」。

 チームキャプテンの本橋麻里はうっすらと涙をためながら、感慨を込めて言った。

「ほんとうに、後輩たちがその通りに育って、たくましい姿で戦ってくれたことに感謝しかないです」

「その通り」とは本橋の理想を指していた。

 LS北見は8年前、チーム青森でトリノ、バンクーバー五輪に出場した本橋が、郷里である北海道北見市常呂町で立ち上げたチームだ。メダルを手にした今、当時をあらためて思う。

「カナダやスウェーデンのチームを見て素晴らしいなと思い、人間力のあるチームを作りたいと思ったのがきっかけでした」

現実を受け止めてコントロール。

 選手一人ひとりが自立し、対等にコミュニケーションを取る、そんなチームワークを持つ集団を築きたかった。だが、真っ白な状態からのスタートは楽ではなかった。

「常呂でスポンサーを集めてクラブチームを作りたいと言ったら、『は?』と言われたこともあります」

 それでも粘り強く選手に声をかけ、地元関係者に挨拶し、一社一社まわって支援を依頼した。選手の生活を成り立たせるため、就職先も探し、チームを築き上げてきた。

 今大会はリザーブとして試合を見守った。

「10代から20代前半の頃は自分をコントロールできなかったけど、今は現実を受け止めてコントロールできます。選手としてやっている以上、(出場できなかった)悔しさは数パーセントは必ずある。でも自分の欲よりも、しなければいけない仕事がある」

いつでも全員前向きに。

 そんな本橋を、小野寺コーチは「ミーティングも中心になってくれたし、細かい事務手続きなども全部やってくれて、みんなが試合に集中できるようにしてくれた」と称える。藤澤も感謝をこう表した。

「辛いとき、どうしても麻里ちゃんに助けてもらっていたことが多かったので、(試合後)麻里ちゃんを見たときに、うるっと来てしまいました」

 本橋の作ったチームは、競技を続けるかどうか悩んだ選手の受け皿の役割を果たした。そして彼女が描いた理想の通り、選手たちは常にポジティブに、コミュニケーションを重ねて日本カーリング界悲願のメダルを獲得した。その姿は日本だけでなく、現地の韓国、さらには世界をも沸かせるものだった。

 吉田知那美は大会をこう振り返る。

「いいときも悪いときも全員常に前向きで、自分たちのプレーと、チームを信じて戦ってきたのがつながったのかなと思います」

「大好きなみんなで……」

 鈴木も言う。

「大会を通して、正直私はあまり調子がよくなかった。でもみんなに助けられて、本当にみんなには感謝しかないです」

 吉田夕梨花は喜びをこう表現した。

「大好きなみんなで来ることができて、ほんとうに幸せでした」

 銅メダル獲得を決めて大号泣した後、どこか放心状態のようになっていた吉田知那美が、しみじみとこう言った。

「ラッキーなことは何一つなく、全部がかみあった。しっかりやったからこういう結果だったんじゃないかと思います」

 人口約4000人の小さな町で描いた大きな夢を、地元で生まれ育った彼女たちはついに叶えた。心の底から溢れ出すような笑顔と涙、それは8年前に撒いた種が時間をかけて見事に育った証でもあった。

(Number947号『カーリング女子 藤澤五月/吉田知那美/鈴木夕湖/吉田夕梨花/本橋麻里「いつでもステイ・ポジティブ!」』より)

文=松原孝臣

photograph by Sunao Noto/JMPA


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