甲子園決勝は本当に明日でいいのか。金足農業・吉田輝星の投球数が……。【2018年 野球部門2位】

甲子園決勝は本当に明日でいいのか。金足農業・吉田輝星の投球数が……。【2018年 野球部門2位】

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野球部門の第2位はこちら!(初公開日:2018年8月20日)

 過去に何度も見た光景だった。

 表現としては“末恐ろしいピッチャー”だ。

 秋田県大会からすべてのイニングを1人で投げぬいている金足農のエース・吉田輝星がまた、快投を見せた。

 準決勝の日大三戦では、2点を先行すると、そのアドバンテージを最大限に生かすピッチングを展開。ピンチに陥ってもしっかりと間を取り、走者のスタートを一歩ずつ遅らせ、打者に対しては変化球を低めにコントロールして、ギアを上げたストレートで強力打線を黙らせた。

 5試合連続完投勝利は見事というしかない。

 限界を超えていてもおかしくない心身の状態でありながら、それでも快投をみせる。

 しかし、吉田のような投手をみたのは過去に1度や2度ではない。

「投げないという選択肢はなかった」

 2006年の斎藤佑樹(早稲田実)しかり、2008年の戸狩聡希(常葉菊川)、2010年の島袋洋奨(興南)、2013年の高橋光成(前橋育英)……。筆者が取材現場に立つ以前では、松坂大輔(横浜)、本橋雅央(天理)、大野倫(沖縄水産)などもいた。

 彼らはどんな苦境であっても、最高のパフォーマンスを見せたものだった。

 連投を重ねた後でもストレートは最速に近い球速をマークし、変化球は低めに決まった。甲子園という舞台を前にして、彼らは出場を避けることはしなかったし、どこからそんな力が湧き出てくるのか、というピッチングをした。

「投げないという選択肢は僕の中にはなかったです。なぜって、なんでこの日まで練習したのか。優勝するためにやって来たんですからね」

 今から10数年前、そう語っていたのは天理の本橋さんだった。

 甲子園という舞台では、そう思わざるを得ないというのが球児の心理だろう。

 しかし……話を吉田に戻すと、投げすぎだ。

球数制限の障害は「不平等」。

 彼が今大会で投じた投球数は700球を超えた。秋田大会を含めると、おそらく1000球を超えているはずだ。たった1カ月余りでのこの投球数は限度を超えている。と同時に、登板間隔も試合を勝ちあがるたびに、短くなっている。17、8歳の高校生に課していいものではないだろう。

 球数制限などのルール化を推奨する声は多いが、日本高校野球連盟は二の足を踏んでいる。

 その理由は「不平等」が生じるからだ。

 日本高校野球連盟の竹中雅彦事務局長がタイブレークの導入を決めた際に、こんな話をしている。

「タイブレーク制度の導入は再試合の防止であって、投手の負担軽減のための次善策だと思っています。本腰を入れていくのであれば、投球回数制限、球数制限に踏み切ることが必要だなと思います。

 ただ、甲子園に出てくるような潤沢な部員数を誇る学校は一握りしかない。9人をそろえるのに必死な学校が多いんですね。そこにスポットをあてるべきだと思います。そういったチームのことを考えると、すぐに導入するのは難しい」

 確かに、球数制限は複数の投手を揃えることが難しい公立校には不利なのかもしれない。

 私学のように何人もの部員を抱えるキャパを有していないし、たとえたくさんの部員を獲得することができても、それを鍛え上げるだけの環境が整っている学校は少ない。高野連の言い分には一理あるのだ。

 しかし、では今の甲子園の日程は平等といえるのだろうか。

複数の投手を育てられない学校もある。

 決勝戦に進出した大阪桐蔭や、日大三、近江などのように複数投手を用意して戦いに挑むチームは増えている。高野連も複数投手制を推奨しており、公立校でも複数の投手を育てるべきだという意見は分かるが、全チームにそれが現実的だろうか。

 そもそも、高校野球の年間スケジュールが複数投手の育成を促す環境になっていない。

 周知のように、高校野球の多くの大会はトーナメント制で行われている。一発勝負ではない大会もあることはあるが、勝ったり負けたりを繰り返しながら成長していく、という状況ではない。

 負けられない試合が続けば、複数の投手を育てるのは容易ではない。

負けたら終わりでは、エースを下げづらい。

 金足農を例にとると、三塁手の打川和輝が2番手の投手を務め、続くのは1年生投手だったが、甲子園を前に1年生投手は体調を崩し、ベンチ入りを断念せざるを得ない状況だという。3年生部員はたった10人しかいない。

 そうなると、投手の負担を軽減する方法は、指導者の良識ある起用法か、日程しかない。

 今大会の吉田は1試合140球を超す投球をしたケースが続いたが、試合展開上、継投が難しかったのも事実だろう。

 地方大会から甲子園と、ずっと負けたら終わりのトーナメントを勝ち抜いてきたのだから「指揮官の良識」に訴えるのにも限界がある。

 済美の山口直哉が星稜戦で184球を投げた試合は、大量失点していたこともあって交代させるべきだと思ったが、基本的に投手交代を決断するのは簡単ではない。

 となると、考えるべきは日程しかないのだ。

「自分たちの戦ってきた形で挑みたい」

 球数制限を導入できないなら、できることは試合の間隔を空けることしかない。

 しかし、決勝戦は明日開催される。

 明日の結果は分からない。しかし、勝敗がどちらに転ぼうとも、明らかなのは、金足農の吉田には多大なる負担がかかるということだ。大阪桐蔭にしても、吉田ほどではないにしろ全5試合に登板し、準決勝戦で完投した柿木蓮がおそらく連投するはずだ。彼にも負担はある。

「勝つために吉田を登板させたいということではないんです。自分たちの今まで戦ってきた形で勝負に挑みたい。その結果として吉田1人の登板になっているだけなんです。吉田が打たれてダメだと判断されたり、投げている姿がどうもおかしいとなれば、監督はすぐに交代させると思います」

 金足農に帯同しているコーチの1人はそういっていた。

 エース吉田で勝負に行って勝ってきた。その結果の登板過多というわけだ。

土曜日の開催なら中4日が空くのだが……。

 過去の大投手たちも、どれほどの逆境でも投げてきた。

 おそらく吉田も、柿木も、明日の決勝戦では泣き言を1つも言わずマウンドに立つだろう。それが高校球児の心理だからだ。

 明日、決勝戦を開催するのは妥当なのか。

 登板過多や過密日程で、被害を受けるのはいつも“末恐ろしいピッチャー”たちなのだ。

 甲子園を本拠地とする阪神タイガースは、週末、ビジターの巨人戦に挑む。

 土曜日の開催なら、中4日が空くのだが……。

文=氏原英明

photograph by Hideki Sugiyama


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