日本プロテニスに「選手会」発足。“家庭を持つ30代”としての行動。

日本プロテニスに「選手会」発足。“家庭を持つ30代”としての行動。

 日本のプロテニスプレーヤーによる「選手会」が発足した。テニスにとっては短いシーズンオフのさなかに記者会見を実施。設立の目的や活動計画などを伝えた。

 そもそも、2017年の2月に海外で同じチャレンジャー大会に出ていたベテランの選手たちがたまたま食事のテーブルを囲み、そのときの会話の中で生まれた話だった。

 話し合いを重ね、勉強を重ねて、1年半の時間をかけてようやく「一般社団法人」という組織としての選手会誕生にたどり着いた。事始めのメンバー(添田豪、松井俊英、吉備雄也、仁木拓人)と、すぐに賛同した内山靖崇、その相談者だったという西岡良仁が、理事や監事を務める。

 会長に就任した添田は以前、「それぞれがいいアイデアを持っていても、テニスのような個人スポーツでは、その意見が上(協会幹部)まで吸い上げられる機会はない。選手会というかたちで存在を認めてもらえれば、より大きな発言力になる」と話し、会見でもそのような説明がされた。

男子が繁栄の時代だから。

「アイデア」とはたとえば、全日本選手権はどうすればもっと盛り上がるのかとか、日本で開催される数少ない国際トーナメントを維持するため、あるいは新たに増やすために自分たちに何ができるかとか、既存の大会の賞金のみに頼らずにプレーヤーの収入を生み出す環境をどう作っていくかとか……。

 だがそういった具体例の提示が不十分だったせいか、記者会見に集まった記者たちの「なぜ選手会という組織にする必要があったのか」「結局何をやりたいのか」という疑問がすっきり解消されなかったことは否めない。

 しかし、彼らをここまで駆り立てる背景は確かにあった。今の日本には錦織圭や大坂なおみというスター選手がいるばかりでなく、特に男子テニスは現役にツアー優勝者が4人もいるという前例のない繁栄の時代だ。

 その中で、選手たちは「たとえば10年前に比べたら、僕たちくらいのレベルの選手のことも知ってくれていることを感じるし、応援にも熱がある(添田)」と実感しているという。そして、「せっかく圭やなおみちゃんが作ってくれたムードを生かしたいというか、僕らの力でもう一押ししたい」というエネルギーが湧いた。

ツアーのシステムが変更。

 表現を変えれば、これほど世界的にテニスが人気になり、国内にもスター選手がいてファンも増えているというのに、日本の協会も、メディアもこの景気を生かしきれていないという状況に、選手たちがしびれをきらしたというところなのかもしれない。
 
 さらに彼らの動きを急がせたのは、2019年からのツアーのランキングポイント・システムの大胆な変更だ。具体的には、プロツアーの底辺にあった「フューチャーズ」の中でも賞金総額の低い1万5000ドルの大会で、ATPポイントが獲得できなくなる。

 このクラスの大会は2019年から「トランジション・ツアー」という名に変わり、ここで獲得できるのはATPポイントでなく「エントリーポイント」。このポイントをもとにした「ITFワールドテニス・ランキング」が新設され、その上位選手は、1つ上のカテゴリーである2万5000ドルの大会やさらに上のチャレンジャー・ツアーの予選に出場することができる。

ランキング保持者を750人に。

 そこで初めてATPポイントを獲得するチャンスがあるのだが、そのためには2万5000ドルの大会の場合、決勝に進出しなくてはならない。

 ATPツアーに到達するまでの距離が長くなり、ハードルが上がるという印象を受けるが、ATPは「力のある選手がよりスピーディにATPツアーレベルへ進める」と考えている。

 ジュニア・ランキングの上位選手のためにもトランジション・ツアーの本戦ドローに一定枠を設けており、若く将来性の高い選手、実力ある選手が優遇されるシステムだ。そして、それ以外の多くのプレーヤーを切り捨てるシステムともいえる。これにより、ATPは現在2000人あまりいるランキング保持者の数を750人まで減らそうとしている。

 ATPポイントを1ポイントでも持つ選手は世界ランキング保持者となるが、日本には現在9位の錦織圭を筆頭に2042位まで66人がいる。このうち、従来のフューチャーズを主戦場にする選手は3分の2を超える。監事の松井も会見の中で「多くの選手がプロであってプロでなくなってしまう」と切実な状況を訴えたが、一体何人が生き残れるのか――。

家庭を持つ30代がトップ層。

 しかしそれがATPの改革の目的だ。底が広がりすぎたプロツアーを整理し、生き残る力のある選手たちにはより多くを与え、「世界の全てのプロが賞金で生計を立てられるようにする」ことを理想に掲げる。下部ツアーで蔓延している八百長問題も、賞金で食べていけない選手が多い現実の表れであり、改革と無関係ではないだろう。

 この大きな動きをもう止めることはできず、ならば自分たちでなんとかしなくてはいけない。グランドスラムに何度も出場し、オリンピックも経験した添田は「テニスは世界に出てナンボだけど、世界世界といっても、現実問題として、生活していかないといけない」と、夢と現実の狭間で行ったり来たりする複雑な思いも口にした。

 今回の発起人の多くは妻子ある30代のプレーヤーたちだ。世界に目を向けると、この“家庭を持つ30代”がトップ層のかなりの部分を占めているのだ。そうした選手の姿に、30代でもまだまだやれると奮起する一方で、遠のく世界、経済的な苦しみといった現実がある。

バラバラにならず継続して。

 そんな自分たちのために、そして自分たちが若い頃には抱くことができた夢をもう抱けないかもしれない若い後輩たちのために、この選手会をどう育てていくのだろうか。

 過去にもテニスの選手会は存在した。しかしいつの間にか活動は衰え、バラバラになった。添田によると、かつて選手会長を務めた福井烈・日本テニス協会専務理事からは「始めるだけじゃなく、継続することが大事」と激励されたという。

 継続も大事だが、どうせやるなら派手なことを期待したい。テニスに関わっている年配の者たちが誰も考えもつかなかったようなアイデアと行動力で、私たちを驚かせてほしい。

文=山口奈緒美

photograph by Getty Images


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