ファイターズが王柏融に宛てた、107ページもの「ラブレター」。

ファイターズが王柏融に宛てた、107ページもの「ラブレター」。

 全力で思いを届け、届いた気がする。片思いは、両思いになったのだと確信する。

 迫力満点の異名とは似つかわしくない横顔を、のぞかせた。

「台湾の大王」は、とてもピュアな野球少年だった。

 新シーズン、2019年の目玉の王柏融選手が昨年12月20日に来日した。前日に、台湾・台北での盛大な記者会見を終えて一夜明け、暖冬だが、白銀の世界が広がる北海道へと降り立った。

 その翌日に札幌ドームで、日本メディア向けの記者会見を行い、翌日に台湾への帰路に就いた。わずか2泊3日の行程。そんなわずかな時間でも、期待が膨らむ痕跡を刻んでいったのである。

 新千歳空港の到着ロビーで初対面した。25歳とは思えない、良い意味での成功者のオーラを漂わせていた。堂々とした立ち居振る舞い。握手を交わした、その手はゴツゴツとして、程よい硬さがあった。バット・スイングを直近、これまでも積み重ねてきたことがすぐに分かる感触だった。

初の室内練習場で黙々と。

 会見当日の12月21日。午後2時のお披露目の本番までの時間を利用して、足を向けたのは札幌市内の室内練習場だった。王選手の希望で午前、球団施設でウエートトレーニングに励んだのだという。偶然、田中賢介選手と中島卓也選手と居合わせたが、軽く談笑をした程度だったとのことだ。

 空いた時間に、黙々と自分のすべきことをこなしていたという。家族も同行していたがひとり、その輪から離れての行動。台湾と同じような環境、時間を作り、野球を生活の軸としていたのだ。

 過去にはオフに渡米をしてアメリカでトレーニングを行っていたという。意識の所在も台湾球界では、別格の存在だったとも聞いた。それを、すぐに確認できたのである。

107ページものラブレター。

 前置きが長くなったが、弊球団の誇らしい話を記させてもらうことにする。

「台湾の大王」、とてもピュアな野球少年である。

 北海道日本ハムファイターズは、107ページの「ラブレター」を野球少年へとしたためたのだ。ハートを射抜くために、振り向かせるために、綴ったのである。

 107ページ――。

 12月19日、台北での会見でラミゴ・モンキーズの劉カイ廷 球団社長兼GM(カイ=王へんに介)は、こう語っていた。

「彼のために107ページもの資料を提出し、データ分析はもとより札幌のどこにおいしい台湾料理店があるかといった情報まで紹介してくれています」

 ファイターズからラミゴ、王選手へ「チーム紹介資料」として、贈ったのである。ポスティング制度で、選んでもらうために作成をしたのだ。後日、確認して教えてもらったが、それが完成した時には107ページに及んだのだという。

チーム紹介資料を作成した2人。

 ポスティングでの移籍だけに、金銭的な部分を含むプレーをするための「条件面」が、選択してもらうための大きなウエートを占めることは、自明の理である。その「数字」に、球団の熱意も反映されるだろう。ただ、プラスアルファでほかに思いを届ける手段はないか――。

 それが107ページである。

 ファイターズの外国人補強の最前線にいる渉外担当の方から、その「チーム紹介資料」をメーンとなって作成する依頼を受けたのは2人。入団2年目のデータ分析をするアナリストと、1年目の通訳である。その若き2人は、米球界を含めて海外の野球への関心が高い。王選手を獲得することの意義、それに携わる仕事の価値を悟って、動いたのだろう。

 その渉外担当の方からのリクエストは、球団の命運を握るシビアなものだったそうだ。

 そこから107ページが生み出されたのだ。心を、動かしにいったのである。

アナリストと通訳の手腕。

 そのアナリストは、考えに考えた。野球を人生の第一義としている王選手の琴線に触れるようなデータを抽出し、書面に落とし込んでいった。詳細をオープンにはできないが、ファイターズに王選手が必要であり、また適応できる、などといったメリットを、データなどで力説したのである。

 もう1人、通訳はガムシャラに動いていた。王選手が、台湾を代表する大衆料理の1つ「魯肉飯(ルーローハン)」が好物であるという情報をキャッチした。プライベートの時間に、札幌市内で「魯肉飯」を提供している店を食べ歩いたという。有名焼肉店でのバイト経験があり、若くして肥えた舌で吟味。自らチョイスした推奨店を、その資料へと列挙したのだ。

 膨大な107ページのラブレター。その中にも、メーンとなる部分があった。

 栗山監督の奥深いメッセージである。

「自分のためだけにプレーしてほしい。それがチームの勝利につながる」

栗山監督も恋焦がれて。

 真意を推察して、その言葉を解説する。以下である。

 周囲からの注目、またプレッシャーもあるだろうが、可能な限り遮断して、プレーをしてもらいたい。そうすれば、疑うことのない実力、魅力を評価されている王選手なら活躍をして、ファイターズの戦力になる。

 メッセージは、このような大意であると思っている。

 そんな無数の思いと熱を、中国語に訳した107ページのラブレター。

 かくして完成し、きっと王選手の入団への効力はあったのだと思っている。渉外担当の執念、それに、ほだされた若きアナリストと通訳、かねて恋焦がれていた栗山監督。獲得へ向けて、激しくゴーサインを出したフロント陣がいた。

 それが107ページに結集され、ファイターズの総意が形になった。

 長編のラブレターになったのである。

 そんな片思いが結ばれ、両思いとなった晴れの会見を終えた。

「プレッシャーを持つ勇気」

 2泊3日の北海道滞在を終えた王選手から、球団職員へメッセージを頂戴した。その内容は省くが「お礼を直接言えなかった方もいるので、伝えてほしい」と、渉外担当に託してきたそうだ。口数が少ないことで知られる王選手からの精一杯の「返信」だったと思う。ラブレター、また結ばれた後の会見等での対応を快く思ってもらえたのかもしれない。

 中華職業棒球大聯盟(CPBL)から初めてポスティングで日本球界への挑戦となる。王選手の座右の銘は「プレッシャーを持つ勇気」だそうである。

 そんな稀代の選手だからこそ評価をして、数多の思いを重ねて完成した資料は結実したのだと思う。

 107ページのラブレター。

 年を越え、日本一奪回を目指すファイターズの、所信表明の思いを宿す年賀状へと変わった。

文=高山通史

photograph by AFLO


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