内田篤人流、欧州で活躍する秘訣。「結局根性。嘘をついちゃダメ」

内田篤人流、欧州で活躍する秘訣。「結局根性。嘘をついちゃダメ」

小柄ながら、正確な技術と内に秘めた闘争心はドイツでも通用した。日本人で唯一、チャンピオンズリーグ準決勝の舞台に立った男は、いかにして熱狂的なシャルケサポーターたちのハートをつかんだのか。Number961号(2018年9月13日発売)の全文を掲載します!

 内田篤人は、正直な人だ。

 質問に対して納得の答えが見つからなければ、「ようわからん」。自分が知らないことならば、それを隠そうとはしない。

 2010年夏にシャルケへ移籍したときの心境を訊ねても、スタンスは同じだった。

「俺、ヨーロッパのサッカーを見てなかったし、オファーが届いた時点でもシャルケのことを知りませんでしたからね。他にももっと有名なクラブからオファーもあったから、そっちに行くのかなって思っていた。だから、代理人に全部決めてもらおうって。

 もともと海外でやりたい気持ちもなかったし、別に何かを求めてドイツへ行ったわけでもない。でも、シャルケのスタジアムの雰囲気を見て、これ以上のクラブはないなと思ったんです」

俺は、嘘をつかないからね。

 シャルケに移籍してからも、鹿島で貫いてきた姿勢や考え方を変えるつもりはなかった。ただ、ドイツへ渡る前に長谷部誠からもらったアドバイスは、今もよく覚えている。長谷部は、ヴォルフスブルク時代に“鬼軍曹”フェリックス・マガト(当時シャルケ監督)の指導を受けていた。

「とにかく真面目にやること。練習はきついし、厳しいけど、真面目にちゃんとやっていれば、マガトは試合に使ってくれるから。頑張れよ」

 実際、マガトの練習は想像以上にハードだった。本音を言えば、「今の自分なら耐えられないかもしれない(笑)」。それでも22歳の内田篤人は「がむしゃらに、真面目に」トレーニングに取り組み続けた。

「シャルケのメンバーって、キャラが濃すぎたから、“ちゃんとしたヤツが来たな”って印象だったと思います。別にみんなの輪の中に入って歌ったり、踊ったりするわけでもない。あんまりしゃべらないけど、隅っこのポジションで、サボらないで頑張ってんなって、思ってくれたのかな。そうやって真面目に頑張っていれば、自然とチームメイトも、ファンも可愛がってくれた。

 俺は、嘘をつかないからね。例えばミニゲームでボールがタッチラインを割ったとき、みんなは『マイボール!』って主張する。でも俺は、味方に当たって出たボールだったら『敵ボールだよ』って言う。これを続けていたら、いつの間にか監督も、チームメイトも『ウッシーが言うなら、正しい』って納得するようになったんです」

CL29試合、大したことない。

 真面目な右サイドバックは、マガト監督だけでなく、マヌエル・ノイアーやラウール・ゴンサレスといった世界一流の仲間たちからの信頼も勝ち取り、移籍1年目からレギュラーの座をつかんだ。

 チャンピオンズリーグ(CL)では、バレンシア、インテルら強豪を次々と破り、マンチェスター・Uとの準決勝のピッチに立った。これは、現在も破られていない同大会('92-'93シーズン以降)における日本人選手の最高成績だ。通算では29試合に出場している。だから、こう訊いてみた。

 CLで活躍する秘訣は?

 この質問への答えも、正直だ。

「29試合なんて、世界的に見たら全然大したことない。ラウールなんか、CLだけで71点も取ってるんだから。ここで俺がCLについて語るなんて、超恥ずかしいよ」

活躍し続けることの難しさ。

 では、質問を変えて。日本人選手が、シャルケというブンデスリーガのトップクラブで7シーズンも活躍できた秘訣は?

「技術うんぬんよりも、結局、根性だと思う。毎年のように同じポジションの選手を補強される覚悟、少しでも悪いプレーをしたら批判される覚悟を持っているかどうか。海外では、生活するだけでも大変だし、自分と向き合う時間も長いから。

 日本には、ヨーロッパでプレーしたいと考えている選手がたくさんいると思う。別にJリーグのレベルがどうという話じゃなくて、海外に行きたいのなら、行けばいい。ヨーロッパのクラブからオファーが届くなんて、誰もが得られるチャンスじゃないから。ただ、ヨーロッパに行って活躍することはできても、“活躍し続ける”ことが、難しいんだよね」

 内田自身、ヨーロッパで活躍し続けることの難しさを痛感した時期がある。

 '11-'12シーズンの前半戦、右太ももに肉離れを起こし、コンディションもなかなか上がらなかった。指揮官がラルフ・ラングニックからフーブ・ステフェンスに代わったことも影響し、スタメンから遠ざかると、メディア上では移籍の噂も報じられた。

ただの負け犬になりたくない。

「今思えば、1カ月とか2カ月の期間なんだけどね。それがすごく長く感じて、心も折れそうになった。でもね、ここでチームを出て行ったら、ただの負け犬だと思ったんだよね。

 もし出て行くとしても、契約延長のオファーをもらって、『No!』って言って出て行こう。絶対にもう一度ポジションを奪い返して、絶対にこのチームで活躍して契約延長オファーを勝ち取るって決めたんだ。やっぱりピッチ上でのプレーでしか、見返すことはできないから。

 結局、契約延長をオファーされたときには、『あざっす!』って、すぐにサインしたんだけどね(笑)。もちろん探せば移籍先はあったと思う。でも、他に行きたいチームもなかったし、何よりあのスタジアムで、あのファンの前でプレーできることに、すごく満足していたから」

お金、大事っすよ。評価だから。

 '17年8月のウニオン・ベルリンへの移籍までに、内田はシャルケと2度契約を延長している。新たな契約を結べば、年俸も変わる。ビッグマネーが動く欧州のサッカー界に身を置く中で、内田は「お金」とどう向き合ってきたのか。

「お金、大事っすよ。それが選手としての評価だから。もらえるのならば、絶対にもらったほうがいい。例えば俺が今、世界のベストイレブンを決めるとしたら、各ポジションで給料が高い順に選ぶ。そういうもんだよ。これはサッカーの世界以外にも当てはまるんじゃないかな。どんな仕事でも、その人の技術と価値で大金を稼ぎ出すのは、やっぱりすごいことだと思う」

 日本人選手による欧州挑戦の歴史は、日本への帰国の歴史でもある。今年1月、内田は古巣・鹿島への復帰を決断した。

「シャルケに行く前から、年齢的にも体が動くうちに鹿島に戻ってきたいと思っていたから。だって、もし俺が小学生だったとして、シャルケでやっていた日本人が鹿島でプレーするとなったら、見に行きたいって思うじゃん。今、(香川)真司や長友(佑都)さん、本田(圭佑)さん、長谷部さんとかがJリーグに帰ってきたら、絶対スタジアムに見に行くもんね」

 こう言い終えると、表情が少し曇った。

日本は綺麗にプレーしがち?

「だからこそ、自分がグラウンドでプレーする姿を見せられていないことが、本当に申し訳ない。本音を言えば、スタジアムや練習場に来てくれるみなさんには、“CLに出られる選手って、こんなもんじゃないんだよ”って伝えたいんだ。でも、それは俺自身がグラウンドで示さなきゃいけないってことも、わかってる」

 '15年に手術した右膝は、今なお完治せず。鹿島に戻ってきてからも、負傷離脱と復帰を繰り返している。さらに、ドイツと日本とでの、サッカーのスタイルの違いにも戸惑った。

「やっぱり日本だと、みんなポゼッションを意識して、良い意味でも、悪い意味でも綺麗にプレーしようとする。例えばカウンターのときの判断。シャルケにいたときに、日本代表の試合を見たドイツ人のお手伝いさんに言われたんだ。『なんで日本の選手たちは、せっかく攻めているのに相手が守備に戻ってくるのを待つの? なんでシャルケみたいに速く攻めないの?』って。そのお手伝いさんは、サッカーのこと全然詳しくないんだけど、そういう人ほど違いに気づくんだろうな。なるほどなって」

俺が思う理想のサイドバック。

 鹿島でも、シャルケでも、「結果を出す」ことにこだわり、「結果を出す」ことで存在価値を示してきた男が、ベンチメンバーからも外れ、スタンドから試合を見る現状が、悔しくないはずがない。

 それでも、スタンドから俯瞰的にチームを見て、気づいたこともある。

「上から試合を見ていると、“あ、俺ならここにパス出すよな”“あそこにスペースがあるから、こう動くよな”ってイメージできる。だから、頭の中で動いている男が、今、俺が思う理想のサイドバックだね」

 最後に、ちょっとだけ嬉しそうに報告してくれた。

「最近、体の調子が良いんだ。'15年以来、初めてなんじゃないかってぐらい、ちゃんと練習もできている。今はとにかく離脱せずに、長く練習したいんだよね」

 インタビューから数日後、内田はAFCチャンピオンズリーグ準々決勝第1戦の天津権健戦に先発フル出場し、2−0の勝利に貢献した。

「30歳。終わるには、まだ早いよ」

 この言葉も、きっと嘘じゃない。

(Number961号『内田篤人「欧州では嘘をついちゃいけない」』より)

文=松本宣昭(Number編集部)

photograph by Eri Kawamura


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