J1昇格を後押しする大宮の化学反応。戦力は十分、あとは高木監督の手腕。

J1昇格を後押しする大宮の化学反応。戦力は十分、あとは高木監督の手腕。

 興味深い化学反応が、期待できるのではないだろうか。

 '18年シーズンのJ1昇格を逃した大宮アルディージャが、石井正忠監督の後任に高木琢也監督を指名した。

 高木監督は'06年の横浜FCコーチ就任をきっかけに、同チームの監督としてJ1昇格を果たし、その後は東京ヴェルディ、ロアッソ熊本で監督やコーチを務め、'13年から'18年まで6シーズンにわたってV・ファーレン長崎を指揮した。

 実に13シーズン連続でJリーグの指導現場に立ち、そのうち10シーズンはJ2で戦っている。戦力の拮抗が著しいJ2を勝ち抜くうえで、51歳の指揮官が培ってきた経験はアルディージャに頼もしい。

 アルディージャの西脇徹也強化本部長は言う。

「J1昇格という目標を託すのにふさわしい監督であるのはもちろんですが、ACLの出場権をつかむ、J1でタイトルを獲る、といった将来的な目標も見据えてチームを作っていきましょう、という話をしています。選手が入れ替わっても揺らがない土台を、高木監督とともに作っていきたいと」

高木監督の長崎は健闘した。

 高木監督のもとでJ1に初めて挑戦した'18年のV・ファーレンは、8勝6分20敗で最下位に終わった。ただ、J1が18チームとなった'05年以降の最下位チームでは最多となる勝点30を獲得した。年度が違えばJ1残留を果たすこともできた。

 39得点は6位のFC東京、7位のセレッソ大阪に並ぶもので、13位の湘南ベルマーレ、14位のサガン鳥栖、16位のジュビロ磐田を上回っている。クリーンシートも8試合を数えた。彼我の保有戦力を比較すれば、健闘という二文字が当てはまるといっていい。3バックをベースとしたシステムはコレクティブで、初めてのJ1でも粘り強く戦うことができていた。

 西脇強化本部長が続ける。

「V・ファーレンのサッカーには、しっかりとした形がありました。システム的なものはもちろん、勇気を持って仕掛けていく姿勢があり、選手たちは自信を持ってプレーしていると感じました。それは、トレーニングで繰り返し植え付けられていったものだと思います」

大宮のJ1昇格に足りなかったものは。

 ひるがえって、'18年シーズンのアルディージャである。リーグ3位の65得点を記録した一方で、失点はリーグ11位タイの48だった。得失点差のプラス17はリーグ5位で、奇しくも順位と同じである。

 数字は悪くない。ただ、優勝した松本山雅FCがリーグ最少失点を記録したディフェンスを、2位の大分トリニータがリーグ最多得点の攻撃を強みとしたのに比べると、どこか物足りなさが募るのだ。

 あと少し得点が多ければ、あるいはもう少し失点を抑えられれば、自動昇格圏内の2位に食い込むことはできただろう。表現方法を変えれば、攻撃も守備もあと一歩の詰めが甘かったのである。松本山雅とは2勝分にあたる勝点6差、トリニータとは勝点5差だったが、その1勝や2勝をつかめるかどうかが歓喜と絶望の境界線なのだ。

 新シーズンへ向けたアルディージャの動きは、ここまでのところ控え目と言っていいものだ。即戦力の補強として目につくのは、湘南ベルマーレから完全移籍した石川俊輝ぐらいだろう。ボランチを主戦場に複数ポジションに対応する彼は、大宮のアカデミー出身の27歳である。

戦力的にはJ1昇格はじゅうぶん射程圏内。

 逆説的に考えれば、現有戦力のままでもJ1昇格は射程圏内ということだ。キャリアハイの24ゴールで得点王となった大前元紀やリーグ戦全試合に出場した三門雄大らの主力選手が、ほぼ漏れなく契約を更新している。

 シーズン途中に名古屋グランパスから期限付き移籍し、最終ライン中央を支えた畑尾大翔も正式にアルディージャの一員となった。大前に次ぐ12ゴールをあげた高速アタッカーのマテウス、Jリーグで3シーズンを過ごしてきた長身FWロビン・シモヴィッチの去就は明らかになっていないが、チームの骨格は維持されていると見ていい。

「相手に応じて戦うことも必要になってきますが、だからといって相手に合わせ過ぎてはいけない。アルディージャというクラブが大切にしてきたオーガナイズされたサッカー、コレクティブな戦いを継承しながら、チームとして戦える集団を目ざしていく」

 西脇強化本部長はこう話す。ロアッソやV・ファーレンでの高木監督は、J1での経験や実績の少ない選手の才能を掘り起し、より良い組み合わせを探りあて、チームとしての競争力を高めていった。ひとりひとりの潜在能力をJ1昇格へ結びつけられなかったアルディージャには、最適の人材と言っていい。

J2は戦力拮抗の戦国時代。

 J2は群雄割拠の様相を呈している。柏レイソルはネルシーニョ監督と井原正巳コーチのコンビを復活させ、1年でのJ1復帰を目論む。高木監督の古巣であるV・ファーレンは、前日本代表コーチの手倉森誠監督に再建を託した。

 ブラジル人監督のエジソン・タヴァレスが続投する横浜FC、イタリアからファビオ・ペッキアが監督としてやってきたアビスパ福岡らも、J1昇格の候補にあがってくるだろう。ミゲル・アンヘル・ロティーナ監督が去った東京ヴェルディは、イングランドからギャリー・ホワイトを招いた。現時点でJ1ライセンスを取得していないFC町田ゼルビアも、'18年に続いて上位争いに食い込んでくるかもしれない。

 J1昇格を争うライバルがひしめくなかで、高木監督のアルディージャはどのような戦いをしていくのか。「これまでのJクラブ監督の経験を注ぎ込む」と語る指揮官との出会いが新たな競争原理を生み出し、選手同士の化学反応を引き起こすことにつながれば──。

 望むべき場所へ帰る日が、近づいてくるはずだ。

文=戸塚啓

photograph by J.LEAGUE


関連ニュースをもっと見る

関連記事

おすすめ情報

Number Webの他の記事もみる
主要なニュースをもっと見る
社会のニュースをもっと見る
経済のニュースをもっと見る
政治のニュースをもっと見る
国際・科学のニュースをもっと見る
エンタメのニュースをもっと見る
スポーツのニュースをもっと見る
トレンドのニュースをもっと見る
生活術のニュースをもっと見る
地域のニュースをもっと見る

スポーツ アクセスランキング

ランキングの続きを見る

スポーツ 新着ニュース

新着ニュース一覧へ

総合 アクセスランキング

ランキングの続きを見る

東京 新着ニュース

東京の新着ニュースをもっと見る

東京 コラム・街ネタ

東京のコラム・街ネタをもっと見る

特集

特集一覧を見る

記事検索