栗山英樹監督は観察し、信頼する。日本ハム8年目も未来を見据えて。

栗山英樹監督は観察し、信頼する。日本ハム8年目も未来を見据えて。

 プロスポーツは結果がすべてである。エンタテインメントの側面から見ても、勝利は欠かせない。どれほど相手を攻めたてても、残塁が積み上がる攻撃は観衆のため息を誘うものだ。

 2018年の北海道日本ハムファイターズは、レギュラーシーズンを3位で終えた。大谷翔平をメジャーリーグへ送り出し、クローザーの増井浩俊がオリックス・バファローズへ移籍しながら、前年のレギュラーシーズン5位から順位をあげたのである。

「翔平がいなくなったから勝てないとは言わせない」という思いを胸に刻んでいた選手たちにすれば、満足できる結果ではないかもしれない。それでも、クライマックスシリーズ進出が前評判を覆すものだったのは間違いなく、チームが手にしたものはあったシーズンと言えるはずだ。

 '18年シーズンを迎えるにあたって、栗山英樹監督は「去稚心」をキーワードのひとつに掲げた。江戸時代末期の志士にして思想家の橋本左内が説いた「幼さを消す」ことを野球に置き換え、自らに「私利私欲や私心に左右されずにチームを率いる」ことを課し、選手たちには「チームの勝利から逆算した行動」を求めた。

選手の自主性をとことん尊重。

 たとえば、移動日に練習をするのかどうかは選手自身の判断に委ねられる。身体を動かしても、休養に充ててもいい。コンディションは選手によって様々であり、翌日以降の試合でベストのパフォーマンスを発揮することを前提に自分で考えてほしい、というのが栗山監督の意図だ。

 選手たちをルールや罰則で縛ることもない。遅刻などに対して罰金制度を設けたら、お金を払うことが許されることとイコールになりかねない。高額の罰金を科せられたことがメディアで報道されれば、プロ野球選手が想起させる豪放磊落さのトピックスとして一般に伝わってしまうこともある。

 プロ野球選手も人間だ。集合時間に遅れてしまうといったように、チーム内の決まりごとを破ってしまうことがあるかもしれない。そこで大切なのは、同じ過ちを繰り返さないことにある。そのためにも罰金などで表面的に整理するのではなく、本人の心に問うことを先決とするのだ。

「オレは信じている」と語りかける。

 そのうえで、結果に対する責任は監督自身が背負う。先発投手が試合を作れなくても、打者が好機に凡退しても、選手を責めることはない。「選手が力を出せるような働きかけができていない」として、自らのマネジメントを問う。「できるまでやらせる。オレは信じている」と選手に語りかけ、成長を促していくのだ。

 果たして'18年シーズンは、上沢直之が自己最多にしてチーム最多の11勝をあげた。プロ4年目の石川直也は、増井に代わる新守護神として19セーブをマークした。

 野手では5年目の渡邉諒が、シーズン中盤からセカンドのポジションをつかんだ。栗山監督は二軍落ちを経験させながらも、辛抱強い起用で才能を芽吹かせた。

 栗山監督らしい選手起用としては、大田泰示の2番起用があげられる。移籍1年目の17年に15本塁打を記録し、'18年も14のアーチをかけたパワーヒッターは、一般的なセオリーならクリーンアップかその後ろに組み込まれるタイプである。その太田を2番で起用するのは、「既成概念に引っ張られない」栗山監督ならではの采配だ。

 大谷翔平と入れ替わりで入団した清宮幸太郎は、シーズンを通して一軍に定着することはできなかった。それでも一軍で7本塁打、ファームでは17本塁打を記録し、非凡な才能を見せつけた。

 天真爛漫なゴールデンルーキーは、ともすれば年上のチームメイトから厳しい視線を向けられがちだ。栗山監督は清宮と彼に接する選手たちを注意深く観察し、19歳の才能を温かくも厳しいスタンスで育んでいったのだろう。

勝利のために時には非情に。

 チームの勝利を最優先としながら、アメとムチは使い分ける。その分かりやすいケースが、4月7日のロッテ戦だった。

 シーズン初登板となった斎藤佑樹を、4回途中でマウンドから降ろしたのだ。チームは6対1でリードしており、齋藤は1本のヒットも許していなかった。ところが、初回から制球が定まらず、8四死球を与えていた。

 斎藤に前年5月以来の勝利を飾って欲しい気持ちは、他でもない栗山監督も強かったはずである。しかし、ひとりの選手の利益を尊重する判断は許されない。斎藤なら分かってくれる、この悔しさを糧にしてくれる、との思いから、ピッチャー交代を告げたのだった。

選手の5年後、10年後のために。

 シーズン終了後の契約更改では、栗山監督が率いるチームらしいエピソードが届いた。田中賢介が来シーズン限りでの現役引退を表明したのだ。

 契約更改後の会見で、37歳のベテランは「周りがやりやすくなるんじゃないかと感じた。早く引退宣言をしたほうが、気を遣わせなくてすむ」と語ったという。

 読書家として知られる栗山監督は、『論語』や『易経』などを組織論に生かし、古典の名言を選手たちにも折に触れて紹介している。田中の発言は儒教が教える五常の「仁」と「義」につながるものだ。チームへの思いやりを胸に抱き、私欲にとらわれないベテランの姿勢が、その言葉から浮かび上がってくる。

 栗山監督は'19年も引き続き指揮を執る。在任8年目は、日本ハムでは歴代2位の長期政権だ。「ひとりひとりの選手の5年後、10年後を見据えた」指揮官の指導のもとで、チームは'16年以来の日本一を目ざしていく。

文=戸塚啓

photograph by Kyodo News


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