若き日の川崎宗則がした本物の練習。ソフトバンクの若手に足りないもの。

若き日の川崎宗則がした本物の練習。ソフトバンクの若手に足りないもの。

 毎年恒例、Number Web版“プロ野球・ゆく年くる年”企画は、全12球団の反省と期待を綴った短期集中連載シリーズです。今年もそれぞれの愛すべきチームについて、しっかりと2018年、そして2019年への思いを発表したいと思います。
 第9回は、2018年シーズンに2年連続9度目の日本一に輝いた福岡ソフトバンクホークスです!

 重たい言葉が、ついにチーム内から発せられた。

「若い選手に負けるわけがないと思っています。僕の方が若い選手よりも野球を考えている時間は絶対に長い。何のためにプロに入って来たのか、ホークスに入って来たのか。一緒にやっていても練習の意図も伝わってこない選手が多かった」

 声の主は、年の瀬の12月22日34歳となった長谷川勇也だ。自身の契約更改後に行った会見の中で、報道陣の前でそのように語ったのだ。

 ‘18年の長谷川勇也は55試合出場にとどまるも打率.287、5本塁打と勝負強さを発揮した。特にチームが浮上のきっかけを掴んだ8月には1試合2本塁打を2度マークして、月間打率も.372を記録したのだった。2度目の手術を行った右足首の状態も上向いてきているようで、「自分のやりたい打撃が出来るようになってきた」と自信をのぞかせる。ただ、リハビリ期間があったことでシーズン序盤はファーム施設で過ごす時間が長かった。その中で若鷹たちと同じ時間、空間を共にしてそのように感じたというのだ。

 そんな長谷川勇也の“喝”に、筆者も同調したい。

恵まれた環境に甘えてないか?

 ホークスはすごく恵まれている。育成拠点である筑後の施設は球界ナンバーワンだといっていい。

 練習環境が申し分ないだけでなく、たとえば球団からはタブレット端末やスマートフォンなどが支給され、その中には一般非公開の専用アプリがインストールされており、自身のフォーム研究や相手の分析などがいつでもどこでも可能となっている。

 また、若手選手向けの体づくりのために外部からウエイト専門のトレーナーが定期的にやってくるし、毎日のコンディションチェックのために筋肉量や体脂肪率まですぐに計測が出来る機器も選手寮には備えられている。

 何から何まで揃っている。だからなのか、反面思うこともある。

 与えられることが当たり前になっているがゆえに、能動的な思考や所作が低下しているのではなかろうか。

川崎宗則という若手選手の思い出。

 筆者がホークスの取材活動を始めたのが‘02年だ。

 3年前に福岡移転後初優勝。翌年もリーグ優勝を飾りONシリーズを実現させるなど暗黒期を脱して間もない頃だった。だが、その礎を築いた工藤公康はすでにチームを去っており、そして秋山幸二が‘02年限りで現役を退いた。

 ホークスは次なる世代である小久保裕紀や松中信彦、城島健司、井口資仁あたりが中心選手となり、本当の常勝軍団を築き上げようとしていた時期だった。

 そして、その当時ピチピチの若手だったのが川崎宗則だった。

 ‘99年ドラフト4位でプロ入り。入団当初を知る人は皆、「とてもプロで通用するとは思えなかった」と声を揃える。

 まず体力がない。

 打撃技術は高かったが、守備は絶望的にひどかったという。しかし、川崎はその後常勝ホークスのレギュラー遊撃手を立派に務め上げ、ゴールデングラブ賞も2度受賞した名手となったのだ。

極端に地味な練習を毎日2〜3時間も。

 川崎が若手だった頃の練習を忘れることはない。

 シーズンオフだ。西戸崎にあった合宿所の隣の室内練習場へ毎日足を運ぶと、必ず同じ練習を繰り返していた。

 苦手だった守備を克服するため、基本となる姿勢を体に染み込ませていた。5mほど向こうからゆっくりとボールを転がしてもらう。捕球姿勢のままじっと待つのだ。ボールはなかなかやって来ない。膝や太もも、腹筋が震えてくる。でも、ひたすら待つ。

 ようやく捕球したら、胸の前に両手を持ってきてスローイングの姿勢を作る。そこも同じようにゆっくりと行う。

 地味〜な練習だ。小学生や女性だって覚えれば出来る“作業”である。

 ただ、川崎は毎日それを2時間ないし3時間ぶっ続けでやっていた。夜も寮長らに頼んで同じ練習を行っていたと聞いたことがある。眺めるのも退屈だったが、やっている川崎本人の方がその単調さに参っていた。

 何度も「アー!」と奇声を上げて、気持ちを何とか持たせながら、反復練習を繰り返した。その横では先輩選手たちが颯爽とノックを受けて華麗なプレーを見せていたが、ただ捕って投げることを繰り返したところで、本当の意味で上達するのだろうか。遊ぶウサギを追い抜くカメのごとく、それ以来、川崎の守備はメキメキと上手くなっていったのだった。

若手を測るものさしは「川崎」。

 また、川崎は試合の中でも常に向上心を持っていた。

 ダグアウトから守備位置のショートまでは常にダッシュで向かい、そして全力疾走で戻ってきた。

「それを9イニング繰り返したら1日18本のダッシュをすることになる。シーズンが始まると試合前の練習では走る練習をする時間は限られてしまう。1年間すべての試合でそれを続けたら、どれくらいの数になるか。そうやって体のキレを作ったり、自分の体力を上げていったりしているんだ」

 さも当然といった表情でそう話していた。

 だから、筆者が若手選手と接するうえでの「ものさし」は川崎なのだ。

自主性のある選手が減っている。

 以来、ホークスを番記者のように取材し続けて、2019年シーズンが18年目となるが、あれほど純粋に野球と向き合って、努力を継続し続ける若手との“再会”は果たせていない。

 むしろ育成環境が充実するにつれて、自主性のある選手が徐々に減っている危機感すら覚えていた。

 平成も終わろうとするこの世の中で、こんな精神論のような考え方は否定されてしまうかもしれない。だが、どれだけ科学技術が発達しようが、環境が改善されようが、道具が進化しようが、人の心が何よりも勝るのではないだろうか。

 新年早々に説教じみたコラムにしてしまい恐縮する気持ちもある。しかし、2019年のホークスは大きな転換期を迎えることになる。オフにはたくさんのベテラン選手が去っていった。FA戦線では全敗。だが、それでも大型補強が行われる気配はない。

 現有戦力にはこれ以上ない好機の1年である。ただ、チャンスは与えてもらうものではない。

 奪うものだ。

2019年は奪いに行ってほしい。

 2019年、ホークスのスローガンは「奪Sh!」である。

 リーグ優勝をもう一度奪い取って、球団初の3年連続日本一になる。加えて、一発攻勢の攻撃だけに頼るのではなく足攻も行いたいと工藤公康監督は鼻息荒く話す。

 それはチームとしての決意だ。

 選手たちは、2019年は奪いに行ってほしい。

 チャンスを奪いに行く。出番を奪いに行く。レギュラーを奪いに行く。

 その気概をむき出しに戦ってほしい。ホークスは「世界一」と巨人超えの「V10」を目指す球団だ。その闘志の先に、真の常勝ホークスが築き上げられるのだ。

文=田尻耕太郎

photograph by Kyodo News


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