新IWGP王者棚橋弘至が見た風景。来年の新日本は東京ドーム2連戦だ!

新IWGP王者棚橋弘至が見た風景。来年の新日本は東京ドーム2連戦だ!

 棚橋弘至はケニー・オメガが場外で持ち出してきたテーブルに何度か視線を投げたが、拒絶するようにそれから目を離した。

 棚橋にはわかりにくいプロレスはしない、というモットーがあった。初めてプロレスを見た人が疑問に思うことはできる限り排除しようと努めてきたのだ。

 棚橋がオメガとのプロレスに対する考え方の違いをめぐって、品があるとかないとか、激しい舌戦を繰り広げたのは、記憶に新しい。

 この時期の棚橋には、奇跡的に、いや運命という言葉がぴったりなくらいにIWGPという名のベルトを自分の腰に巻き直すチャンスが訪れていたからだ。

場外のテーブルへ飛ぶ、飛ばない?

 1月4日、東京ドームには3万8162人の観客が詰めかけていた。4万人には及ばなかったが、棚橋は最上階まで埋まった壮観な風景に入場時から感慨深げだった。

 棚橋がエースとしてこだわり続けた東京ドームのメインイベントから追われて3年。あきらめかけていたこのステージに戻って来られたことを素直に感謝した。

 棚橋は昨年5月にオカダ・カズチカのIWGPに挑戦しているが、この戴冠に至るまで、結局4年ほども遠いところにい続けたわけだ。

 かつては「IWGPは遠いぞ」と相手に向けて発していた言葉が、逆にずっしりと重く自分に返ってきていた。

 オメガは仲間ではない。だからオメガが持ち出して来た場外乱闘用のテーブルを利用したところでまったく罪にはならない。

 それでも結局……棚橋は思いっきり飛んでみせた。ハイフライフローの中でもテーブルに横たわる相手へのダイブは危険極まりないにもかかわらず、だ。

 このチャンスを逃したら、もうIWGPは棚橋のところに、永遠に戻ってこないかもしれない……だから、棚橋は余計なイデオロギーを振り払う必要に迫られたのだ。

テーブルに向けて高く飛んでみせた!

「明確なイデオロギーの境目をボヤッとさせる。ただ勝つだけじゃない。ただ叩き潰して焼け野原で終わるんじゃない。試合後に救いを見出す。それがボクの理想とする、理想に近いプロレスなんです」

 決意した棚橋はオメガをテーブルに寝かせると、コーナーポストに駆け上がって場外で高く飛んでみせたのだ。

 棚橋自身8度目のIWGPヘビー級王座戴冠だった。

「何回も巻いてきたベルトなんですけど、初めてベルトを巻いたような感覚です」

 棚橋は嬉しさを隠さなかった。

「ケニーに対する怒りっていうのは最初から抱いていたものではなくてね。そのケニーが新日本を侵攻していく中で大事なものが壊されていくんじゃないかっていう危機感なんだけれど……これで長岡で負けて、ドームで勝って、ケニーとは1勝1敗なんで、さあ次いつやりますか、という感じです」

気になる……「AEW」の怪しい動き。

 気になることがある。アメリカのフロリダ・ジャクソンビルで昨年11月に設立された新団体「AEW」(オール・エリート・レスリング)が活動を始めたことだ。

 代表はアメリカン・フットボールの経営者でビジネスマンのトニー・カーン。副社長にはコーディ・ローデスとヤングバックスの2人が名前を連ねている。そして団体のテーマは「Change the World」だ。

 全貌は明らかではないが、この存在が今後、新日本プロレスとどうかかわって来るのか注目される。

 ヤングバックスに飯伏幸太も加えた「ゴールデン・エリート」というチームがオメガによってお披露目されたのは昨年6月9日の大阪城ホール大会だったから、団体設立の計画はその頃から進んでいたとみていいだろう。

 元をたどれば……この新団体そのものが新日本プロレスのバレット・クラブが起源なのだから。

「オレがオマエよりも上だということ」

 IWGPのベルトを手にした棚橋はマイクを握って、柴田勝頼や本間朋晃の名前を叫んだ。

「自分1人では戻って来られなかったなと思いますね。他のレスラーからいい刺激を受けたり、本当に、がんばってくれ、がんばってほしい――という、祈りに近いというか、みんなの声援が背中を押してくれました」

 新王者棚橋への次期挑戦者としてジェイ・ホワイトが名乗りを上げた。

「オレが今日、オカダを倒したのは知っているだろう。そして、G1クライマックスでオレがやってきたことも知っているよな。

 オレはオカダよりも強い。そして、オマエよりもいいレスラーだ。本当はもう分かっているんだろう。

 オマエとケニーの試合も見ていたよ。イデオロギー闘争を繰り広げていたけれど、そんなのはどうでもいい。オレがオマエよりも上だということを見せてやる。大観衆の前で獲得したそのベルトを、オレが奪ってやる。

 新日本のエースとして時代を築いてきたのかもしれないが、その時代もちょっと長すぎたんじゃないか。今はもうオレの時代なんだ。それをベルトを奪って証明する」

ホワイトは「新日本の希望」。

 棚橋はホワイトのやり方は好きではない。でも、ちょっと苦笑いを見せながらもホワイトを「新日本の希望」と評した。

 そして「オカダとタッグを組ませてくれたんだからね」と付け加えた。

「ボクはコーナーに登る時は今日だけじゃなくてどの会場でもどの体育館でも、コーナーから一番隅を見るんですよ。それで、そこにお客さんがいなくて空席だった時に、必ず次この会場に来た時にはあそこも埋めるんだっていう決意を固めていたので、今日ドームの上のほうまで見た時に本当にぐっと来ました」

「ずるいと思いますけど……」

 棚橋は続けた。

「新日本らしくない急先鋒だった棚橋がいつの間にか新日本側にいるというか、新日本らしさになっていたというか。

 ずるいっすよね。ずるいと思います。ずるいと思いますけど、G1クライマックスで優勝したことでやっとケニーに物を言っていい資格を得たというか。そんな発言も、棚橋、何言ってんだ、で終わっていたと思うんですね、それ以前はね。だから、G1クライマックスは価値ある優勝だったと思います」

 棚橋がホワイトの挑戦を受ける初防衛戦は2月11日、大阪府立体育会館(エディオンアリーナ大阪)に決まった。

 1月5日の後楽園ホールでも棚橋はホワイトの襲撃を受けた。

「こういう世界だよね。ずっとベルトを追いかけて、4年ぶりにチャンピオンになった。それで、チャンピオンになったら、また狙われる。

 とにかく、1回ダメージを抜いて、2019年はこのベルトと、1年で日本を2周ぐらいしますから」

 棚橋に笑顔が戻ってきた。

 若いと思っていた棚橋もデビュー20周年を今年10月に迎える。ホワイトから「年老いた」と言われても、そこはキャリアの差を「グリーンボーイ」に見せつけるしかない。

 勢いにのる新日本プロレスは2020年、恒例だった1.4東京ドーム大会を拡大して、その翌日の1.5も加えて東京ドーム2連戦の開催を発表した。

文=原悦生

photograph by Essei Hara


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