オシムから届いた新年のメッセージ。「走り続けること、戦い続けること」

オシムから届いた新年のメッセージ。「走り続けること、戦い続けること」

 イビチャ・オシムは、サラエボの自宅で年末年始を過ごした。

 冬の間は雪に埋もれるグラーツよりも、寒さが厳しいとはいえ積雪はそれほどでもないサラエボの方が、多少なりとも過ごしやすくはあるのだろう。

 ただ、1月半ばには、シュトルム・グラーツのクラブ設立110周年記念式典がある。主賓のオシムを欠いては成り立たない行事であり、そのときにはまたグラーツに戻ることになるとのことである。

 オシムからの新年のメッセージが届いた。

 日本サッカーへ込める思いと期待を、オシムが受話器の向こうから語った。懐かしかった羽生直剛との再会も。ここにお届けするのは、そんなオシムの直近の声である。

 なお、彼は、アジアカップ期間中の不定期インタビューの申し出にも快諾してくれた。フィリップ・トルシエも同様で、本欄ではふたりの分析と評論をロシアワールドカップ同様に掲載する。

「日本のサッカーは良くなっている」

――元気ですか?

「こちらはいつも変わらない。君はどうだ?」

――私も同じです。

「それはいい。これから100年でも生きられるだろう(笑)。日本は今はどうなんだ?」

――シーズンが終わって今はオフです。

「私も試合を時々見ているが、日本のサッカーがだんだん良くなってきているのがわかる。よりスピーディーに、より激しくなっている。

 リーグは進化している。とても大事なことだ。サポーターも多くを学んだであろうからだ。彼らの見方も以前とは変わって来ているだろう。そうして彼らの日常生活も変わっていくならばさらに素晴らしいといえる。

 というのもすでに何度も話しているが警戒が必要であるからだ。サッカーは危険な領域に入りつつもある。規則や環境をいい方向に変えていかねばならない。特に日本はサッカーをよりよく進化させる環境が整っている。素晴らしいスタジアムとそこに詰めかける素晴らしい観衆。それだけでも驚くべきことで、日本には大きな未来が広がっている」

――そうであるといいのですが。

訪ねてきた元日本代表選手とは?

「羽生(直剛)が私のもとを訪れた」

――それはよかったです。

「かつては親しかったがずっと会わなかった人間と再会し、お互いに変わっていないことを確認できた。彼は今も陽気で明るかった。私も嬉しかった。

 彼はさまざまな経験を経て現在に至り、さらに未来を見据えているのがいい」

――彼は監督になるのでしょうか?

「今は新たな道を模索しているようだったが……。ときにうまくいかないこともあるし、常に何がしかのリスクは伴うが、それでも彼は前に進む必要がある。

 ただ、彼の場合は、リスクはそう大きくはないだろう。何をすべきで何をすべきでないか、何ができて何ができないか、日本ではハッキリしているからだ。

 日本には世界の他のどこにもない可能性と機会がある。サッカーに関してもプレーの面とビジネス面の両方で発展させている。

 今ちょうどテレビで、日本人の学者がテレビで火山活動や地震について語っているのだが……東京近郊での大災害の可能性についてだ。今でも私は、何か新しいものを知りたいと思っているし、新しいものを学ぶようにしている。日本に関しての情報については特にね」

サッカーの進化が観客を呼ぶはずだ。

「10年以上前に私は日本で素晴らしいときを過ごした。いい仕事をしたし、いい仕事をするための環境も整えたつもりだ。そして、そこには意欲に燃えた若い選手たちがたくさんいた。そして今も進化し続けている。

 若者たちはとても速いスピードで進化するからね。彼らを1人きりで放っておくことなく、ときにコントロールして導くことも重要だから……年長者らは進むべき方向を示さねばならない。

 実際、今の日本のサッカーの試合を見ると大きく変化していることがわかる。プレーはさらにスピーディーかつダイレクトに、効率よくなっているからね。そうした進化こそが、サッカーへの興味を高め、多くの人々をスタジアムへと向わせることになる。

 それで……日本の新しいシーズンはいつ始まるのか?」

――Jリーグ開幕は2月22日です。

「ジェフはどうなっているのか? 監督は誰がやっているのか?」

――(フアン・)エスナイデル、アルゼンチン人です。元レアル・マドリーのストライカーで、ジェフでは3年目になります。

「そうか。ビッグクラブでの経験があり、実績もあげているわけだ。悪くはないのだろう」

「それは東京の未来でもある」

――しかしプレースタイルがアグレッシブすぎて結果が出ていないようです。

「過去の経験を単純に模倣しようとしても意味はない。例えば……レアルとは予算の規模が違い過ぎるのだから、同じ道を簡単には辿れないだろう。世界でも彼らほど優れた選手を集めたクラブは他にないのだから。

 レアルのようなクラブを作りあげるのは他のクラブには難しい。彼らの成し遂げたことも現在の姿も理想的ではある。彼らには他のクラブにはないアイディアがあった。だからずっと先を行くことができたし、監督や選手を変えても常にトップでいられた。常に進化を遂げながら最先端を歩み続け、進化のための新たな道を常に見いだしてきたわけだ。

 アトレティコ・マドリーとのライバル関係もある。

 マドリードのような街で、ふたつのビッグクラブが共に生き続けていることは学ばねばならない。それは東京の未来でもある。東京にも幾つかのクラブがあり、やがてビッグクラブと呼ばれる日も来るだろう。

 競争も生まれるし素晴らしい選手もそこに集まる。クラブ自体もモダンであることを求められる」

日本人の多くが欧州でプレーする時代に。

――1月にアジアカップが始まり、日本の初戦は1月9日です。

「相手はどこだ?」

――トルクメニスタンです。第2戦がオマーンで第3戦がウズベキスタンです。

「たぶんこちらでもテレビで放送されるだろう。ヨーロッパでもアジアへの関心が高まっているから。日本人も多くがヨーロッパでプレーしている。日本人や西アジアの選手たちも興味を持たれるようになった。

 彼らは全力で力いっぱいプレーするし、闘争心も勇気もあるからヨーロッパでも尊重されている。

 進歩のために国を離れ、環境を変えてプレーするのはいいことだ。他人の歩んだ道を辿るのは有意義だ。君らの仕事もそうだろう。他人を追いかけなければ後ろにとり残されてしまう。金も失うし仕事も失う。常にそこに存在し続ける必要がある」

ファーガソンもベンゲルも働く……。

――アジアカップの間も、ロシアワールドカップ同様にまた仕事をお願いします。

「私も仕事をする必要があるかも知れない……ファーガソンがまた仕事を始めたようだから(笑)」

――そうですね。ベンゲルもほどなく再開するでしょうし。

「どうなることやら(笑)。できることなら……もう少し長生きするのもいいかもしれないな」

「学ぶべきことがあることを忘れずに」

――それでは日本の読者に新年のメッセージをいただけますか?

「メッセージか……。良かれと思ったことを求め続けていく。模倣してものごとを複雑にするのでなく、自分の力で進歩することを考えて実行する。他人ではなくあなた方自身の考えに基づきながら。日本は他のほぼすべての領域で世界の最先端を行っているのだから。スポーツでも同じことが出来るはずだ。

 日本は社会構造もしっかりしているし経済力もある。自分たちだけでなく世界を進化させる力を日本は持っている。何かがうまくいかなかったからといって、簡単に放棄してしまうべきではない。サッカーの世界でも日本は大きな躍進を遂げ、満ち足りた生活を享受しているのだから。

 さらにもう少し進化を遂げられれば……サッカーを巡る生活もさらに興味深いものになるだろう。それはそう遠い先にあるのではない。あなた方はすでに素晴らしい国内リーグを持っているわけだから。多くの優れたクラブが今も進化の過程にある。後ろを向くべきではない。前だけを見て進むべきだ。

 学ぶべきことが今もまだたくさんあることを忘れてはいけない。

 日本人選手はヨーロッパに移籍して多くのことを学んだ。しかも短い時間で。それがどれほど素晴らしいことか。日本に来る外国人選手にしても、模範になれる優れた選手を選んでいる。それこそがサッカーにおけるポリティックスのあるべき姿なのかも知れない」

日本からムバッペやポグバが出る時代。

「何を求めているかをしっかりと自覚することが大事だ。

 日本のモデルとなり得る優れた海外の選手たちを選んでほしい。

 今やヨーロッパだけでなくアフリカ系の若い選手たちも大きな飛躍を遂げている。なかでも優れた選手たちを今すぐに獲得することはできないかもしれないが、彼らがどんな風にして進歩を遂げたかは綿密に分析して理解しなければならないはずだ。科学的な分析も必要だ。やがてはムバッペやポグバのように身体能力の高い選手たちを、日本のリーグでも探し求めていくことになるのだから。

 そして、日本の科学技術とテクノロジーをもってすれば、そういう選手を育てるのも不可能ではないはずだ。そうした選手が国内リーグから出てきたときに、日本は世界のサッカー界のトップに躍り出ることになるだろう」

「必ず前へ進むこと」

「走り続けること。そして戦い続けること。

 そうすればもっとスピーディーに、もっとモダンにプレーができるようになる。

 日本はまだまだ簡単にボールを失い過ぎると思う。ボールをしっかりとキープするべきで、その状況を最大限に利用してほしい。

 ただ、観客やジャーナリストはボールをキープし続けて小技を駆使するのが楽しいと考えがちだが――それはサッカーではない。必ず前へと進むこと、できる限りスピーディーに、しっかり考えて走ることが大事だ。

 スプリントこそが最善の解決策だ。適切なタイミングで出来る限り素早く。簡単ではないがトライし続けてほしい。

 より速く、より遠くまで――サッカーはすべてその方向に進んでいるのだから。

 OK……私も何か少し食べた方がよさそうだ(笑)。田嶋幸三(日本サッカー協会会長)はじめ、みなさんにくれぐれもよろしく伝えてくれ。ではまた」

――わかりました。メルシー、イバン。

文=田村修一

photograph by Takuya Sugiyama


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