セリエAで最もゴールを奪うクラブ、アタランタとガスペリーニの美学。

セリエAで最もゴールを奪うクラブ、アタランタとガスペリーニの美学。

「お願いだ、これが夢なら覚めないでほしい」

 昨年の暮れから、アタランタのペルカッシ会長の夢見心地が続いている。

 シーズンの半分を終えたセリエAの総得点ランキングで、アタランタが首位に立っているからだ。

 前半戦19試合で彼らはC・ロナウド擁する絶対王者ユベントスや強豪ナポリを凌ぐ39ゴールを奪った。

 前半戦での、という但し書きがつくとしても、最多得点チームの栄誉はクラブ史上初。快挙と新年を祝う会長がついつい発泡ワインのグラスを空け過ぎても許されるだろう。

 守備の国イタリアの勝利至上主義に彼らは挑戦状を叩きつけている。アタランタの攻撃サッカーは、甘美で刺激的な現実だ。

サパタとイリチッチが得点量産。

 北都ベルガモには今季も伏兵と曲者プレーヤーたちが揃った。

 チームの稼ぎ頭は昨夏入団し、年の瀬までに2桁ゴールを上げたFWサパタだ。

 クラブ史上最高額となる2600万ユーロを工面して獲得されるも、開幕当初は鳴かず飛ばず。しかし、ナポリとの12月の初戦でようやく今季2ゴール目を上げると、その後の5試合で8発を追加し怒涛の月間9ゴールを上げた。

 サパタが伝説のボンバー、ノルダール(ミラン)が69年前に打ち立てた月間最多得点記録「10」に迫る歴史的ゴールラッシュを披露すれば、2トップを組む僚友FWイリチッチは6−2と大勝した昨年の最終戦サッスオーロ戦で、後半途中62分からの出場にも関わらずトリプレッタ(=ハットトリック)の離れ業を演じてみせた。

 シーズンの序盤を首リンパ節への感染症で棒に振った後、9節キエーボ戦でのハットトリックに続く固め打ちだった。

 イリチッチはまだ昨シーズン中だった今年3月のベローナ戦でも3発を決めており、2018年中に3度もハットトリックを達成したことになる。昨年、欧州5大リーグでそんな偉業を実現させたのは、他にメッシ(バルセロナ)とアグエロ(マンチェスター・C)しかいない。

戦術家ガスペリーニの手腕。

 すぐに疲れたと口にするイリチッチは、チームメイトたちから「おばあちゃん」というニックネームを頂戴している。だが、スタミナに乏しく気紛れな“イリチッチおばあちゃん”が一度本気になれば、彼の左足を止められるDFはそうそういないことを仲間たちはよくわかっている。

 イリチッチとサパタの2トップの他にも、前半戦5ゴール6アシストの主将FWゴメスは健在で、センターバックながらすでに4得点を決めている若手の有望株DFマンチーニも台頭。知名度こそ低いもののMFデローンとMFフロイラーの中盤からの配球術には唸らされる。

 戦術家ガスペリーニは、今季も見事な手腕でチームを立て直してきた。

 2018年夏の移籍市場では、FWペターニャ(現スパル)やMFクリスタンテ(ローマ)、MFスピナッツォーラ(ユベントス)にDFカルダーラ(ミラン)といった昨季の7位躍進を支えた若手たちが引き抜かれたが、中堅選手らの奮闘で2次予選から2年連続のEL出場を目指した。

 8月初旬の2次予選2ndレグでFKサラエボを8−0で撃破した試合は、イタリア勢による欧州カップ戦でのアウェーゲーム最多得点記録となった。

2カ月近く低迷したが。

 だが、3次予選でハポエル・ハイファを下した後、臨んだコペンハーゲンとのプレーオフでアタランタの歯車は狂った。2試合ともに両チーム無得点の末に、アタランタは敵地でのPK戦に散った。

 ELへの夢破れた試合直後、「今季の目標はやはり欧州カップ戦出場圏か」と問うた地元記者団にガスペリーニは、何と無神経なのかと激昂した。

 大都市圏クラブとの間にある戦力と資金力の差を乗り越える戦いに三たび挑むには、その覚悟を整え、新獲得選手たちと練習を重ねる時間が必要だった。

“コペンハーゲン・ショック”は後を引き、アタランタは2カ月近く低迷した。10月上旬の8節でサンプドリアに0−1で敗れたとき、アタランタは欧州カップ戦どころか降格圏ギリギリの17位にいたのである。

恩師が語る「頑固者」。

 8年前、ガスペリーニの師匠にあたる名将ガレオーネにインタビューしたことがある。確か教え子の1人であるガスペリーニが、インテルの監督を解任された翌々日だった。

 1987年にペスカーラを率いていた彼は、現役時代のMFガスペリーニとともに“シャンパン・サッカー”でセリエA昇格を勝ち取った。

 街角のバールで地元の名産白ワインを勧めてきたガレオーネは「わしはファンタジーを愛しているんだ。ファウルすることが前提のサッカーは大嫌いだ」と言った後、何の後ろ盾も持たず権謀術数が飛び交い、魑魅魍魎が巣食うビッグクラブであるインテルに飛び込み、孤立無援の末にあえなく放り出された教え子の当時の純粋さを哀れんだ。

「ジャン・ピエロ(・ガスペリーニ)は実直で曲がったことが嫌いな男だ。自分の理想をまっすぐに信じすぎる。言いかえると融通が利かないところがある。頑固者なんだ」

 やはりガレオーネ門下生であるユベントス監督アッレグリは、サッカーに求められるのは勝利か内容か、と問われた際「娯楽を求めているのならサーカスを見に行けばいい」とにべもなく言い放ったことがある。

アレッグリ以上の楽しさ。

 実績でいえばアッレグリはとうの昔にガレオーネを越えた。ただ、胸躍るサッカーを尊ぶ師匠の教えを今も忠実に色濃く受け継いでいるのは、ガスペリーニの方ではないかと思う。

 FWサパタは、3シーズン前にプレーしていたウディネーゼでは当時の指導者デルネーリから「足元の技術がなくて使えない」と冷遇された。だが、夏にアタランタへやってきて、ガスペリーニから授けられた指導は異なっていた。

「監督の教えるサッカーは随分他とちがうんだ。だから初めは戸惑った。監督の教えで例を上げるなら『敵陣の最も深いところに突っ込んでいけるスペースがあるときは、絶対にゴールに背を向けるな』ということ。新しいプレーコンセプトを体に馴染ませるのに時間がかかる」

ポゼッションと得点と自尊心。

 主将ゴメスも指揮官への敬意を込めて述べている。

「(ガスペリーニは)おそらく万人向けの監督じゃない」

 前半戦のOptaデータによると、アタランタは最多得点チームでありながら総シュート数では6位に留まっている。パス成功率は83.1%で8位だ。高さ勝負になりがちなクロスには頼らず、ファウルも少ない。

 ガスペリーニのサッカーは、ボールポゼッションと数的優位を作って相手を崩すことを念頭に置いている。理想は失点と黒星のリスクを伴うが、ゴールによって選手たちに自分たちはやれるという自尊心を与えることができる。貪欲にゴールを求めながら、アタランタは順位をじわじわと上げてきた。

 3-4-1-2をベースにする今季のアタランタは、強豪を相手にしたとき滅法強い。

 ローマとミランはホームで彼らに勝点1を奪われ、インテルは4失点惨敗の醜態を晒した。ラツィオも0−1で競り負けている。

ユーベも完全に手玉に取った。

 クリスマス直後の大一番ユーベ戦では、開始2分のオウンゴールによって追う展開になるもエースFWロナウドと司令塔ピアニッチをベンチに温存した王者を完全に手玉に取り、サパタの2ゴールで逆転した。

 後半から慌てて投入されたロナウドの同点弾のせいで金星を逃したが、ガスペリーニは2−1でリードしていた時間帯に守備固めどころか3-4-3へスイッチし、なおもユーベからゴールを奪おうとした。

 指揮官とチームの意気に本拠地アトレーティ・アッズーリ・ディターリアを埋めた2万人は熱狂した。

 試合後「正直勝てたという悔しさは残る」と吐露したガスペリーニだったが、付け足した言葉は晴れやかだった。

「私だって勝つことは好きだ。だが、もっと大事なのはいいプレーをすることだ。いいプレーをするチームに歓喜するファンを持つことはプライスレスの価値がある」

CL出場権獲得は正夢になるか。

 来季のCL出場枠争いでは、ユベントスとナポリ、インテルの上位3強がそのまま順位をキープする可能性が高い。となると残る最後の1枠をめぐって大混戦が予想される。

 現在の4位ラツィオ(勝点32)から10位フィオレンティーナ(同26)まで勝点差は6、8位アタランタとも4差しかない。CL出場権獲得というペルカッシ会長の願いは2019年の正夢になるだろうか。

 序盤の低迷から抜け出しゴールラッシュが始まった晩秋、地元紙のインタビューで、ガスペリーニは「CL出場権を諦める代わりにEL出場を確約する契約書があるとしたらサインしますか?」と問いかけられた。

 指揮官の答えは明快だった。

「するはずがない。楽しみがなくなるじゃないか!」

文=弓削高志

photograph by Getty Images


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