“底知れぬ男”長野久義へ――。ある巨人ファンからの惜別コラム。

“底知れぬ男”長野久義へ――。ある巨人ファンからの惜別コラム。

「長野さんは九州が近くなる大阪だと、さらに球場人気が高いんだな」

 2年前の夏、年に1度の巨人主催試合が行われる京セラドームの客席でそう思った。東京ドームではキャプテン坂本勇人の6番レプリカユニフォームやタオルを身につけたファンが一番多いが、京セラに来るとそれが「背番号7」グッズと双璧をなす。佐賀県出身のこの男は、それほどファンからの支持が高い選手だった。

 年明け早々、巨人の長野久義がFA移籍した丸佳浩の人的補償として広島へ移籍することが発表された。年末に本連載で内海哲也の西武移籍について「ロジカルには理解できても、感情がついていかない巨人ファンも多いのではないだろうか?」と書いたが、入団以来9シーズンで計1271安打を放った生え抜き功労者の長野の流出にも同じような声が溢れている。

衝撃だった、デビュー後の3年間。

 25歳でプロ生活をスタートさせた長野の巨人生活の始まりは完璧だった。

 '09年秋に悲願の巨人ドラ1指名を受け、1年目からレギュラー定着するといきなり新人王、2年目にセ・リーグ首位打者に輝き、3年目には最多安打のタイトルを獲得。外野手としては'11年から3年連続でゴールデングラブ賞、シーズン最終戦にチーム40年ぶりの代打満塁逆転サヨナラ本塁打をかっ飛ばす勝負強さも誇るニュースターの出現。

 なにせ入団から5年間の通算安打数767安打は、日本人選手としては長嶋茂雄や青木宣親を抑えてNPB歴代最多記録である。

 こうなると、もちろん周囲はチームの軸を期待する。誰もが阿部慎之助の次は、坂本と長野の“サカチョーコンビ”に次代の巨人を託したものだ。

 たぶん多くのファンはその背中に何かを見た。

 大袈裟に書けば「希望」とか「未来」みたいなものだ。いつの時代もファンは球場で勝負だけじゃなく、夢を見る。

いつしか坂本世代から外され……。

 当然、原監督も由伸前監督も「4番長野」を幾度となく試した。だが、'14年オフの右膝と右肘手術以降は攻守に精彩を欠き、盗塁数が激減し併殺打が増えるなど脚力の衰えも目立った。

 いつの間にか坂本の世代じゃなく、阿部・村田世代と同列のベテラン組で語られることも増え、年々シビアな立ち位置へ。昨季は「7番ライト」で開幕スタメン、一時は打撃不振から先発落ちするが徐々に盛り返し、最終的に規定打席にはわずかに届かなかったものの116試合、打率.290、13本塁打、52打点、OPS.793というチームの外野手ではトップクラスの成績を残した。

35歳、年俸2億2000万円の起用法。

 そして、オフに原監督が復帰するわけだが、最近の指揮官の発言からも背番号7の微妙な立場は伝わってきた。

 スポーツ報知の新年インタビューでは、「2番センター丸」構想を語り、「4番を孤独にさせない存在」とゲレーロの再生を匂わせ、陽岱鋼は「持っているものはすごい」なんて大きな期待を懸ける。

 一方で、長野には「開幕前に悪いと判断したら『半袖がちょっと着れるような時期になったら呼ぶよ』と。力は認めている。うまく使えばすごい戦力になる」とこれまでのような不動のレギュラー扱いはしないことを明言していた。

 丸、陽、ゲレーロが'19年シーズンの外野基本ベース。さらに原監督に以前「もう1人カメイがほしい」と言わしめた仕事人・亀井善行がいて、若手では石川慎吾、重信慎之介、松原聖弥、和田恋らが虎視眈々と出番を窺っている。

 今年12月で35歳、年俸2億2000万円のベテラン長野の起用法がかなり難しくなるのは明らかだった。

チームを変えたいのは分かるが……。

 しかし、だ。だからといって、チームトップクラスの人気を誇り、V3にもど真ん中で貢献した功労者をこんな形で放出してしまっていいのだろうか? 最近の巨人には「プロ野球は人気商売であり興行でもある」という視点が決定的に欠けている気がする。

 優勝から遠ざかり、チームをベースから変えたいのは分かる。だが、“地上波中継最後のスーパースター”高橋由伸が、20年間背負った栄光の背番号24を新外国人投手にあっさり渡してしまったり、内海や長野を軽くプロテクトから外したりと、選手とファンが長年時間をかけて築き上げたストーリーをあっさりと捨ててしまう。

 そして、皮肉にもその手のストーリーはいくらカネを積んでも買えやしないのである。

「思い通りに体が動くのは、あと10年」

 実は広島サイドは1カ月以上前から「リストを見て、それなりの選手がいればいくと思う。1年でも活躍できるなら(年俸が)高くても問題ない」(12月1日付日刊スポーツ)と牽制していた。それでも、巨人サイドはあえて長野を外したわけだ。山口壽一オーナーがどうエクスキューズしても、獲られても仕方がない選手と位置付けたということだろう。

 死にたいくらいに憧れた巨人から、こんな形で出されても「強い広島カープに選んでいただけたことは選手冥利につきます」と冷静なコメントを出した長野は、さすが人格者だなと思った。

 さて、2019年の広島カープ・長野久義はどんなプレーを見せてくれるだろうか? 

 10年前の『週刊ベースボール 2009ドラフト総決算号』インタビューを今読むと非常に興味深い。25歳の遅いプロ入りについて聞かれた長野はこう答えているのだ。

「脂が乗り切った状態。つまり、思い通りに体が動くのは、あと10年くらいだと思います。10年後は35歳ですか……。そこまでやれる人も、一握りですからね」

 まさか、その35歳シーズンを広島で迎えるとは夢にも思わなかったはずだ。

まだまだこんなもんじゃない!

 10年目のリスタート。

 天然芝の本拠地マツダスタジアムで下半身への負担も軽減されるだろう。気遣いの性格はカープの明るいチームカラーにすぐ馴染みそうだし、小学5年生から中学卒業まで英会話塾に通っていたので外国人選手とのコミュニケーションも問題ない。かと思えば、中学時代に親の反対を押し切り、部活ではなく硬式野球の強豪チームへ入団。父親とは3年間ほとんど口をきかなかった芯の強さも持っている。

 数年前に長野コラムでこんな一節を書いたのをよく覚えている。

「4番を打つわけでもない。ライバルがいるわけでもない。いったい、長野は何を目指し、誰と闘えばいいのだろう? このまま終わるのか。それとも変わるのか……」と。

 鮮烈なデビューから30代の停滞。近年、巨人ファンも背番号7に対して「こんなもんじゃない」から、いつの間にか「このまま終わってしまうのか?」なんて妙な寂しさを感じていたのは事実だ。

 だが、冷静に見たら入団から9年連続100安打を達成して、それでもまだ「物足りない」と思わせる底知れぬ選手が他にいただろうか? 

 ぜひ、長野久義には新天地の広島で、自身2度目の首位打者のタイトルを獲得するくらいの大活躍をしてもらいたい。そして、カープファンだけでなく、巨人ファンにもこう思わせてほしいのだ。

 見たか、まだまだ長野久義はこんなもんじゃない、と。

 See you baseball freak……

文=中溝康隆

photograph by Kyodo News


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