フランスではすでに“王様”扱い!?ムバッペ、栄光に包まれた2018年。

フランスではすでに“王様”扱い!?ムバッペ、栄光に包まれた2018年。

『フランス・フットボール』誌12月26日発売号は恒例の年末表彰号である。最優秀選手と最優秀監督、最優秀会長、最優秀外国人選手、2部最優秀選手と最優秀監督、最優秀プロモーション、一番の快挙、一番の躍進、“プリ・オロンジュ(最もいい思いをした人)”と“プリ・シトロン(最も苦い思いをした人)”。表彰の種類と多様さもフランスならではといったところである。

 ちなみに同号では、こちらも恒例の大陸別代表チームランキングも発表しており、ヨーロッパはフランス、アジアは日本が1位に選ばれた。

 アジアのランク付けが始まった1998年から、日本はこれで8度目の1位獲得。続くのがイランとオーストラリアの4回だから、この20年間で日本がいかにアジアのヘゲモニーを確立しているかがわかる。

 さて、2018年フランス最優秀選手賞にはキリアン・ムバッペが選ばれた。

 ワールドカップとクラブでの活躍ぶり、何よりも驚異的なパフォーマンスから当然の受賞ともいえるが、過去の受賞者たちによる投票(現役選手は自分に投票できない)では、僅差でラファエル・バランとアントワン・グリーズマンを下した(ムバッペ127ポイントに対しバラン109ポイント、グリーズマン107ポイント)のだった。

 接戦になったのはそれだけ2018年のフランスが充実していたことの証明でもあり、ムバッペの受賞は彼に対するフランスの期待の表れでもある。本文にも出てくるが、フランス人たちは本気でムバッペが「第2のペレ」になれるかどうかを議論している。

 受賞のレポートでは、デイブ・アパドゥー記者がムバッペのこの1年を、節目となる出来事を“ランデブー(出会い・邂逅)”という形で列挙しながら振り返っている。ワールドカップ以外にもムバッペの2018年には何があったのか。読者の皆さんも思い返して欲しい。

監修:田村修一

ムバッペの驚異の1年間を振り返る。

 この1年間でキリアン・ムバッペは、パリ・サンジェルマン(PSG)で不可欠な選手となりフランス代表でも無視できない存在となった。そして何よりも彼自身の進歩が目覚ましかった。フランス人選手として最も活躍したのは誰の目にも疑い得ない。さらなる期待が彼にはかかる。

 もちろんこのロケットが、ずっと長い時間軌道に乗って飛び続けられるかどうかは疑わしい。しかし、そもそも誰もそのロケットが、あれほど速くそして高く飛ぶとは想像もしていなかったはずだ。

 キリアン・ムバッペにとって2018年は、あらゆるジャンルの記録を塗り替える挑戦の年であったというだけではない。多くのタイトルを獲得し、そのうちのひとつは世界チャンピオンという最も輝かしいものであった。

 そしてトロフィーの威信と輝き以上にムバッペは、彼自身の魅力によって人々の心をとらえた。パリ近郊のボンディに生まれたひとりの若者は、世界中の注目を浴びるスター候補に一躍躍り出たのだった。

2月25日:クラシコとのランデブー。

 この2月25日という日は、ネイマールの活躍によりPSGがオリンピック・マルセイユ(OM)を3対0と破り、リーグ制覇をフランス全土に確信させた日である。しかし同時にこの日は、ムバッペがクラシコにおいて初ゴールを記録した日でもあった。

 この日はまたムバッペにとってリベンジの意味もあった。

 マルセイユでおこなわれたシーズン最初のクラシコで、彼はピッチ上でもピッチの外でも大きな失態を演じたのだった。試合前に「クラシコといえどもリーグの他の試合と変わりはない」とコメントしたうえに、2対2の引き分けに終わった試合の後で「マルセイユにとっては大事な試合かもしれないが、僕はクラシコを戦うためにPSGとの契約にサインしたわけではない」と語って物議をかもした。

 この苦い経験からムバッペは教訓を得た。

 パルク・デ・プランスでおこなわれた試合では開始11分に先制ゴールを決めて、詰めかけた観衆とメディア、テレビで見るOMのサポーターたちを黙らせたのだった。

 それから数か月がたった10月28日、今度はベロドロームで彼はPSGの先制ゴールを決めた(試合は2対0でPSGの勝利)。

 試合前のミーティングにアドリアン・ラビオとともに遅れ、罰としてベンチスタートを命じられながら交代出場してわずか3分でのゴール。

 最初のボールタッチでの得点は、たとえ短い時間でもキッチリと仕事ができること――非凡さの証明であるといえた。

6月30日:世界とのランデブー。

 優れたパフォーマンスを披露する選手たちがいる。

 より決定的な仕事をする偉大な選手たちもいる。

 さらに稀であるのは想像力を刺激する選手である。

 この日、ムバッペは、ワールドカップの歴史にその名を刻んだ。フランスがアルゼンチンを4対3と下したこのラウンド16において、彼はふたつの素晴らしいゴールを決めた。

 わずか4分の間の2得点。2対2と拮抗した場面での、試合を決定づけた得点だった。

 そればかりではない。試合開始から彼は世界を震撼させた。

 ハーフライン手前からドリブルを始めるとあっという間にDF3人を置き去りにし、GKのファウルを誘ってPKを得たのだった。

 まるで異世界ともいえるそのプレーは余すところなく世界中に伝えられ、すべてが詳細に分析された。あるデータによると、ペナルティエリアに到達するころのスピードは(ウサイン・ボルトをも上回る)時速38kmにも達していたという。

 彼の姿は世界中の人々の目に焼きついた。

 ワールドカップ獲得の最後のチャンスに賭けていたリオネル・メッシの野望は、ムバッペという超自然的な才能によって絶たれた。

 6月30日こそは、メッシからムバッペへと主役が交代したことを世界に知らしめる日となったのだった。

7月15日:歴史とのランデブー。

 ロシアで生じたのは最も起こりそうにない化学変化だった。

 サッカー史上最も偉大な選手であるペレが、マラドーナにもジーコやロナウド、ネイマール、メッシにも送ったことのない賛辞を、アルゼンチン戦のムバッペのパフォーマンスに対してツイッターで表明したのだった。

 ムバッペもまた自身のソーシャルアカウントでペレに応えた。

「王様はこれからもずっと変わることなく王様のままです」

 だが、本人の意志とは関係なしに、世間はふたりの類似性を話題にした。とりわけ『パリジャン』紙は、ペレ以降(1958年スウェーデン大会、17歳8カ月で記録)では決勝戦の史上最年少ゴール(19歳6カ月)をあげたムバッペを、ペレの後継者と書きたてた。

 ペレ自身もこう述べている。

「もしキリヤンがこのまま続けて私の記録に並んだら、私ももう一度スパイクを履かなければならないかも知れない……」

 サッカーのレジェンド――それも史上最高のレジェンドからのお墨付きを得たムバッペの人生は、これまでと同じではない。もちろん彼は現役の世界チャンピオンであるが、同時に伝説の仲間入りも果たしたのだった。

8月18日:トゥヘルとのランデブー。

 世界王者のタイトルを獲得しながら、ムバッペはすでに次の野心を抱いている。

 他の世界チャンピオンたちがまだバカンスを過ごしている間に彼はさらに先に進もうとしたのだった。

 8月18日のリーグアン第2節、アウェーのギャンガン戦で彼はPSGへの復帰を果たした。だがそのPSGは、(前任者ウナイ・エメリではなく)トーマス・トゥヘルに率いられるPSGであった。

 さし当たってトゥヘルは、ネイマールとの関係の確立に全力を注いでいた。とはいえパリにはもうひとりの絶対的なスターがいることに、彼はすぐに気づいた。

 トゥヘルがムバッペをピッチに送り出したのは後半スタートからで、このときPSGはギャンガンに0対1とリードされていた。ところがムバッペの2ゴールで、PSGは試合をひっくり返してしまった(3対1の勝利)。

 これが意味するところは明らかである。ムバッペはネイマールの代役などでは決してない。

 彼は今やPSGの絶対的な攻撃の切り札であり、トゥヘルにとっても無視できない存在である。

10月7日:記録とのランデブー。

 ムバッペは記録に対しても貪欲である。

 代表での記録(1955年以降の最年少得点)だけでは飽き足らず、チャンピオンズリーグでもひとつの記録(決勝トーナメントで初出場から5試合連続得点)を打ち立てたうえに、リーグアンでも留まるところを知らなかった。

 彼がチャレンジしたのは、破るのが最も難しいとされていた記録のひとつだった。

 10月7日、リヨンをホームに迎えての試合で彼は、19歳9カ月17日という若さで1試合4得点を決めたのだった。それも僅か13分間の出来事で、これもまた最短時間での記録達成であった。

 さらに3週間後にはリール戦で得点を決めて、ヤニック・ストピラの持つリーグアン40得点最年少記録(21歳3カ月)を大きく破った(19歳10カ月)のだった。

 期待は膨らむばかりだが、誰もが同じ疑問を抱いている。

「本当に彼は留まるところを知らないのか?」と。

 飛躍はまだ始まったばかりである。

文=デーブ・アパドゥー

photograph by Stephane Mantey


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