瀬戸内と尚志の独特さって何だ?選手権準決勝でユース教授が注目。

瀬戸内と尚志の独特さって何だ?選手権準決勝でユース教授が注目。

 第97回全国高校サッカー選手権大会もいよいよベスト4が出揃い、1月12日に舞台を埼玉スタジアムに移して、冬の頂点を争う。

 ベスト4の顔ぶれを見ると、「大きな波乱はなかった」というのが素直な印象だ。おそらく多くの人にとって青森山田と流通経済大柏の勝ち上がりは予想通りだったかもしれないが、尚志(福島)と瀬戸内は予想外で「波乱が起こった」と思った人も居るかもしれない。

 まず瀬戸内は選手権初出場だが、もともと中国地方では有力校の1つで、長くプリンスリーグ中国で上位を争い、インターハイでは2年前の広島インターハイでFW安部裕葵(鹿島アントラーズ)を擁してベスト8まで進出している。

 今年は2年前の「最強世代」ほど、タレント揃いのチームではない。だが、もともと広島県は「4種(小学生年代)」や「3種(中学生年代)」のサッカーが盛んな地域で、サンフレッチェ広島ジュニアユース、サンフレッチェびんごジュニアユース、シーガル広島、廿日市FC、FCバイエルンツネイシ、高陽FCなど強豪、名門チームがひしめいている。

 そこで磨かれた選手が広島ユースを頂点に、瀬戸内、広島皆実、広島観音などに進学しているのである。当然、広島県の高校サッカーのレベルは非常に高い。

 今回の瀬戸内のレギュラーを見ても、シーガル広島出身が5人、広島ジュニアユース出身が2人で、ベンチを見渡してもこの2チーム出身の選手が多い。元々の個の技術レベルが高く、全国的に見ても力のあるチームであることは間違いない。

ピッチ上の情報をしっかり共有。

 彼らの基本布陣は4-3-3。両ウィングと2インサイドハーフを置くこの形になったのは、夏以降だった。

「春先からこれまで、どちらかというと『蹴って走るサッカー』をしていたが、プリンス中国であまり結果が出なかったんです。小柄な選手が多いので、だんだんと『蹴っても厳しい』と言う話がチームの中で挙がるようになって……だったら『繋ぐサッカー』を展開しようと、キャプテンと副キャプテンと監督を中心に話し合い、夏から取り入れました」

 キャプテンのMF佐々木達也が語ったように、選手たちがピッチ上でシフトチェンジが必要であることを敏感に察し、話し合いを重ねたのだ。そもそも、こうした「現場の意見」を吸い上げられる組織だったことが、この快進撃に繋がったということになる。

瀬戸内の独特なチーム運営術。

 瀬戸内はキャプテンと副キャプテン、そして安藤正晴監督が3人で、毎日の昼休憩の時に話し合いをしているのだという。そこで選手達の意見、安藤監督をはじめとしたスタッフ陣の意見を交換し、時には議論までして、日々の練習や試合に反映させている。

 より具体的な打ち合わせの時は、各種の映像を見せる時もあり、より個人的な内容の時は選手と指導陣が膝を突き合わせて語り合うこともあるのだという。

 そうした交流の場で、選手達がサッカーの戦術変更について意見を出してみたところ、安藤監督も快諾。さらに参考資料として4-3-3のサッカーを取り入れているリバプールの映像までも見せて、イメージを具体的に膨らませたそうだ。そこから瀬戸内の4-3-3が始まった。

「リバプールはしっかりと中にはめていく守備をして、奪ったら素早くショートカウンターを仕掛ける。僕たちの場合、普段の練習から狭い中でワンタッチ、ツータッチ、ダイレクトのパス練習をやって、素早くボールを捌くことを意識しました。

 僕と吉田寛太の2インサイドハーフが起点となって、受ける時は受けて、抜ける時は抜けることが大事。この2人が起点となれば良い形になる」(佐々木)

 佐々木と吉田の2人がナビ・ケイタとジェイムズ・ミルナー役となり、左ウィングに178cmのスピードアタッカー・川岸怜央、右ウィングにシュートセンスに長けた加藤竜大を配置し、リヴァプールの象徴とも言えるサディオ・マネとモハメド・サラーの両ウィングをイメージしたのだ。

「どんな結果が出てもぶれない」決意。

 もちろん真似をしただけでは機能はしない。

 選手達は同時に自分達の意識改革も行った。

「僕らは安部さんたちの『最強世代』を見て来て、いざ自分達の代になったら『最弱世代』と言われて……。自分達でも技術面だけでなくメンタル面も弱いと感じました。インターハイで初戦敗退(阪南大高に1−3)をしたことをきっかけに、チーム全体で意識を変えた。

 その1つとして、一度やると決めたパスサッカーを、どんな結果が出てもぶれること無く続けていくことをみんなで話し合いました。練習でも常に意識を高くして、ポジショニングやパスの質など細かい所までこだわってやり続けた」

 その結果、ずっと跳ね返され続けていた選手権予選の壁を初めて突き破り、初めての選手権で3勝し、埼玉スタジアムの舞台までたどり着いた。

 それは決して勢いだけではなく、実力で勝ち取ったものだ。

「最弱世代」が「最強世代」より上位!?

 もちろん、組み合わせに恵まれた部分があることは、彼らも分かっている。

「結果的には『最強世代』(インターハイベスト8)を『最弱世代』(選手権ベスト4進出)を超えましたが、やっぱりまだあの世代より技術的にも、精神的にも劣っていると思います。

 実際、安部さん達は本当に意識が高くて、練習のレベルも高かった。それをずっと間近で見てきたので、僕らには『本当に強いチームとはどういうものか』が分かっています。少しでも近づけるように、準決勝までしっかりと準備をしていきたい」

 佐々木の言葉には、非常に強い意思を感じることができた。

 瀬戸内の準決勝の相手は流通経済大柏。これまで今大会で戦って来たチームより、ワンランク上のチームであることは間違いない。

流通経済大柏戦こそ真価が問われる。

 流通経済大柏は、鹿島アントラーズ入団内定のCB関川郁万、多彩なアタックを持つMF熊澤和希と攻守に全国トップレベルの柱を擁し、さらに、驚異の反射神経を誇るGK松原颯汰、ずば抜けた守備センスを誇るボランチの藤井海和とハイレベルな1年生選手までもが躍動するチームだ。選手層も厚く、90分間(準決勝から90分ゲーム)息が抜ける瞬間はないだろう。

 だからこそ、彼らの真価が問われる一戦になるし、この試合に勝利をすれば、真の「波乱」が起こる、と言える。

 ぶれることなく、コツコツと一丸となって積み上げて来た4-3-3が機能し、初のファイナリストまで駆け上がることができるのか――万全の準備を期して、昨年度のインターハイ優勝、選手権準優勝校に挑む。

尚志は「波乱の主役」なのか?

 尚志は2回戦で東福岡、3回戦で前回王者の前橋育英を連破したことで、「波乱の主役」のごとく映っているかもしれないが、今年のチームは「力のある選手がいるし、どことやってもある程度できる手応えはあります」と仲村浩二監督が語っていたように、そもそもしっかりとした実力を持つチームである。

 プロ注目の2年生エースストライカー・染野唯月、戦術眼と技術に長けたトップ下の二瓶由嵩、キレキレのドリブルで右サイドを切り裂くMF加瀬直輝、「ウチのイニエスタ」と仲村監督が絶大な信頼を寄せるボランチの坂下健将、高性能な左足を持つ左サイドバックの沼田皇海と、アタッカー陣に豊富なタレントを揃える。

 東福岡戦を制した後も、「間違いなく互角以上の戦いができるので、いつものウチらしいサッカーをしようと話して送り出しました」と仲村監督が落ち着いた様子で語ったように、前回大会の初戦で0−3で敗れた東福岡を相手に、立ち上がりから試合を支配して、ゲームをコントロールした。

尚志は全員の守備意識が高い。

「前回の試合は前半からガンガン前からプレッシングを掛けて、高い位置からはめていって先制点を奪って、『逃げ切りたい』という戦い方だった。今年は冷静に五分五分のゲームだと思ったので、前からより、自分達のいつものゾーンから全体でプレスを掛けていって、普通に戦っています」(仲村監督)

 続く前橋育英戦でも、彼らは堂々とこのスタイルで戦い、終始試合の主導権を握って、2−1の勝利を掴み獲っている。

 この戦いに前橋育英の名将・山田耕介監督も「尚志はスペースを組織的に消してきましたし、『(ボールを)持たされている感』はありました。尚志は全員の守備意識が高くて、ポジショニングもしっかりしていました。ハードワークもできて、基本に忠実にできるチームだという印象を受けた。

 東福岡が相手だったら、サイド攻撃を潰しにかかっていたし、ウチだったらウチのボランチの球出しを潰しに来た。そういう対応力のあるチームだと思いました。相当普段から鍛えられているチームだと思いました」と脱帽するほどだった。

 準々決勝の帝京長岡戦でも、相手のミスを見逃さずに染野が2試合連続の決勝弾を叩き込んで、1−0の勝利を得ている。

尚志の勝利も「波乱」ではない!

「今年はプレミアリーグ参入戦から1試合、1試合をきちんと戦えていて、勢いだけじゃない。本番に強いチームだと思います」

 プリンス東北王者として臨んだ12月中旬のプレミアリーグ参入戦で、東海2位のJFAアカデミー福島U-18、関東2位の横浜F・マリノスユースを連破してから、安定した力を維持してここまで勝ち上がって来た。

 準決勝の相手は優勝候補筆頭の青森山田。

 アビスパ福岡入団内定のCB三國ケネディエブス、コンサドーレ札幌入団内定のMF檀崎竜孔と攻守の2枚看板が居るが、彼らだけではない。

 GK飯田雅浩は安定感では今大会ナンバーワンで、橋本峻弥と豊島基矢の両サイドバックは高さと強さ、そして攻撃の起点にもなれるクオリティーを持つ。

 さらに攻撃から守備まで幅広く関わる成長著しいボランチ・天笠泰輝、来季のプロ争奪戦が予想される2年生司令塔の武田英寿と多士済々だ。

 選手層、質、そして組織力を見ても間違いなく今大会で一番の力を持っている。

 だが、もしここで尚志が勝利しても「波乱」とはならないだろう。それほど尚志の力は充実している。東北勢対決となったこの一戦は、ハイレベルな攻防が期待できるだろう。

 果たして準決勝を突破し、ファイナリストになるのはどのチームか。

 正月の風物詩もあとわずか。スタンドで、テレビの前で高校生達の熱き戦いに注目をしてもらいたい。

文=安藤隆人

photograph by Takhito Ando


関連ニュースをもっと見る

関連記事

おすすめ情報

Number Webの他の記事もみる
主要なニュースをもっと見る
社会のニュースをもっと見る
経済のニュースをもっと見る
政治のニュースをもっと見る
国際・科学のニュースをもっと見る
エンタメのニュースをもっと見る
スポーツのニュースをもっと見る
トレンドのニュースをもっと見る
生活術のニュースをもっと見る
地域のニュースをもっと見る

スポーツ アクセスランキング

ランキングの続きを見る

スポーツ 新着ニュース

新着ニュース一覧へ

総合 アクセスランキング

ランキングの続きを見る

東京 新着ニュース

東京の新着ニュースをもっと見る

東京 コラム・街ネタ

東京のコラム・街ネタをもっと見る

特集

特集一覧を見る

記事検索