春高直前までバラバラの金蘭会が、女子3校目の連覇を達成できた理由。

春高直前までバラバラの金蘭会が、女子3校目の連覇を達成できた理由。

 1位と2位の差。

 金メダルと銀メダルとはいえ、同じ相手に負け続けて来たせいだろうか。勝つことの喜びがこんなに爆発したのは初めてだった。7年ぶりの優勝を目指した東九州龍谷(大分)との決勝戦をフルセットの末に制し、2011年の開催時期移行以後、女子では3校目となった連覇を達成した金蘭会(大阪)、中川つかさ主将は涙で言葉を詰まらせた。

「1年間ずっと負けていたので。ずっと悔しかったけれど、最後に勝つことができて本当によかったです」

準優勝でも内容はボロボロ。

 ユース代表やジュニア代表を揃え、優勝候補の大本命とされた金蘭会だが、インターハイ、国体はどちらも準優勝。エリート軍団の前に二度とも立ちはだかったのは、下北沢成徳(東京)だった。

 とはいえどちらの大会も決勝まで進出しているのは事実であり、敗れた相手が同じだっただけで、結果は準優勝。それほどまでに「敗者」と口にしなくても、そう言葉を向けると、金蘭会の池条義則監督は苦笑いを浮かべた。

「負けたと言っても準優勝。それは確かです。でも何しろ、負け方が強烈だった。インターハイでは何もさせてもらえず完敗。国体も1セットを取ったけれどその後は一方的にやられた。何をすれば成徳に勝てるんだ、と思わされるぐらい、内容はボロボロでした」

 下北沢成徳は1年時からレギュラーとして出場するエースの石川真佑に注目が集まりがちだが、負け続けた金蘭会の中川は「成徳が真佑だけのチームと思ったことは一度もない」と言う。高さではなくスピードも活かす仁井田桃子やリベロの依田茉衣子、攻守のキーマンとなる選手が揃い、総合力の高さで金蘭会を上回ってきた。

ほぼ年代別代表の難しさ。

 単純な1人1人の戦力を足し算するだけならば、技術も体格も金蘭会は決して劣らない。何しろユースやジュニアといった年代別の日本代表がズラリと揃う顔ぶれは豪華で、経験値も高い。だがそれが逆に仇となった、と中川は言う。

「ユースやジュニアの代表が1人、2人ならいいんです。でもほぼ全員がそうなると、個性も強いしプライドも高くて主張もぶつかるばかりで、誰がまとめるんだ、と。周りからすればいろんなカテゴリーで選ばれている選手が揃うんだから強いだろう、と思われてきましたけど、実際はそうじゃない。いっぱいいるからこそ、難しいことばかりでした」

 インターハイや国体で負けた後はもちろん、実は春高の直前までチームはバラバラだった。特にエースの西川有喜に対しては、個性豊かなチームをまとめるために「エースがしっかりしてほしい」という期待が高まれば高まるほど、その裏返しとして「エースなんだから決めて当たり前」と身勝手な責任を押し付けた。練習試合でも西川が打つ際はフォローに入らず、「何で決めないんだ」と風当りばかりが強くなる。

主将に手を差し伸べた曽我。

 こんな状況では春高で勝つことなど到底できない。主将として苦悩する中川に手を差し伸べたのがミドルブロッカーの曽我啓菜だった。

「つかさはキャプテンだけどセッターなので、自分が直接点を取ることはできない。言うなら“つなぎ”のポジションなんです。だからそこだけに背負わせていたらみんな変わらない。押し付けるんじゃなく、自分が得意なこと、不得意なことを話し合って、助けてほしい時は『助けて』と言うし、自分はブロックが得意だからブロックの分野は任せてほしい。アタックは任せるから、と明確にしました。

 絶対的なリーダーはいなかったけれど、1人1人の役割を理解して、何より『絶対成徳に勝って日本一になりたい』という気持ちがあったから、最後の最後に全員がぎゅっとなれたんだと思います」

 ようやくチームとして1つにまとまった。宮部愛芽世が大会直前の練習試合で捻挫をするアクシデントにも見舞われたが、順当に勝ち進み、準決勝進出を果たす。だがそこでまた、予想外の出来事に見舞われる。

 金蘭会の試合前に行われたもう1つの準決勝で、下北沢成徳が敗れたのだ。

東九州龍谷という独自路線。

 今年に限らず、ここ数年において高校女子バレー界を牽引してきたのは金蘭会と下北沢成徳であったのは間違いない。ブロックとレシーブが連動したトータルディフェンスを誇る金蘭会が勝利すればブロックに対する意識が高まり、トレーニングを強化し、助走を取ってパワーを乗せたスパイクを重視する下北沢成徳が勝利すれば他も同じように追随する。

 そんな中、唯一と言っても過言ではないほど、独自の路線を貫いて来たのが東九州龍谷だった。高さではなくスピードを武器に、ネットに近い位置から「強さ」よりも「速さ」を重視で攻撃を展開する。それが東九州龍谷の代名詞でもあったのだが、準決勝の下北沢成徳戦はガラリとスタイルを変えて臨んできた。

 ミドルブロッカーもブロックの後にしっかりアタックラインまで下がって助走する。これまでは2歩助走だったが、3、4歩の助走で放たれるスパイクは威力が増し、ブロックの移動もサイドステップではなくしっかり腕を振りクロスステップで高さを出した。

 パチン、ではなく、ドシン、と響くスパイク音。その変化に、敗れた下北沢成徳の小川良樹監督も感服し、称賛した。

下北沢成徳の敗退にショック。

「今までの東龍はトランジションであれほど高くトスを上げることはなかったんです。ピュッと速いトスを上げて無理に打ってくるので、ブロックで捕まえることはそれほど難しくなかった。でも今回は速い中でも、小さい選手もフル助走して高いトスをちゃんと打つ。正しい進化といいますか。負けて悔しいですが、ちょろちょろやられてではなく、がっつりゲームしてやられたのは致し方ない。そう思わされた試合でした」

 三冠を目前に敗れた下北沢成徳の選手はもちろんだが、それ以上に大きなショックを受けたのが金蘭会の選手たちだった。何しろこの1年ずっと、最後の舞台となる春高で日本一になるために想定してきた相手が、対戦する前に負けてしまった。練習試合もせず、互いの手の内を隠し、サーブもブロックも完璧な対策をしてきたのに、それもすべて水の泡。

 だがそれ以上に怖かったのは、あの成徳に勝った東龍はどれほど進化を遂げているのか、ということ。勢いに乗っているであろう相手に勝つために、少ない時間でどれだけ準備できるか。試合映像から相手のパターンを頭に入れ、試合中も変化を共有する。

「今は頼んだよエース、って」

 決勝の日の朝も1人で映像を見て来た、という曽我が明かした東龍対策は、実に明確だった。

「東龍は速いというイメージが強いので、今までは常にレフトに1枚ブロックが残って、ライトからの速い攻撃を止めるのが作戦でした。でも今回はライト、ライトと見せておいてそこからレフト、真ん中を使う。しかも速さだけじゃなく高さもあったので、大前提としてブロックはトスが上がってから移動して2枚で跳ぶ。

 塞ぐコースと、抜かせて拾うコースをはっきりさせました。金蘭は両レフトが高いのでブロックにも自信を持っているから、勝負所は1枚でサイドを止める。自分たちの強さも活かして、相手の強さを消すために何が一番いいのか、ということを最後までみんなが共有してプレーできていました」

 決勝点を挙げた宮部の攻撃もさることながら、厳しいマークがつく中でも得意なコースを狙うだけでなくブロックに当てて飛ばすなど、苦しい状況で着実に得点を重ねた西川の活躍も光った。「逃げずに強気で、最後まで攻め続けようと思って打った」というエースに、「自分が一番厳しく当たってきた」と笑いながら曽我が言った。

「国体の時は有喜ちゃんが決めないと『何やってんだよ』って思っていたんです。でも今回は『頼んだよエース』とか、『大丈夫』とか、とにかく安心させてあげたかった。愛芽世もすごかったけど、有喜ちゃんが頑張って、決めてくれて本当によかった。私の中では、MVPは有喜ちゃんにあげたいです」

 優勝候補と言われ続けたエリート軍団が時にぶつかり、泣いて、怒って。拭っても拭いきれないぐらい涙が溢れる。ようやく手にした優勝の喜びは格別だった。

文=田中夕子

photograph by Sho Tamura/AFLO SPORT


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