大坂なおみとセリーナは再会するか。誰もが納得する「決着」を全豪で。

大坂なおみとセリーナは再会するか。誰もが納得する「決着」を全豪で。

 歴史に名を残す人物にはいつも、その起点となるべき始まりの物語や、印象的なエピソードが付随する。

 もっとも人見知りで言葉数の少ない少女が、自分の原点を華美に飾ることを好むはずはない。ただその彼女が、なぜセリーナ・ウィリアムズに激しく憧れたかについて、16歳の時に明かしてくれたことがある。

 2001年――米国カリフォルニア州のインディアンウェルズで開催された大会の準決勝で、セリーナは姉のビーナスと対戦するはずだった。だがビーナスは直前になり、ケガを理由に試合を棄権。すると楽しみを奪われた観客は、翌日の決勝の舞台に立つセリーナに、悪意に満ちたブーイングを浴びせかけたのだ。

 不条理極まりない負の感情を浴びながら、それでもセリーナは試合を制すると、父親の胸に飛び込み、激しく肩を震わせた……。

 大坂なおみがその様子を映像で見たのは、リアルタイムではなく、数年後のことである。折しも自身が、対戦相手の友人や親族から心無い言葉を浴びせかけられ、酷く落ち込む敗戦を喫した後だったという。

「この人のようになりたい!」

 落ち込む少女の胸に、セリーナの姿が深く深く刻み込まれる。

 小学校3年生時には、自由研究テーマにセリーナを選び、かの人が活躍する姿をカラフルなペンで彩った。

 この時こそが、大坂なおみが歩みを進める、“ポスト・セリーナ”の道の始点である。

セリーナに繋がる人脈の糸。

 憧れの人に向けられた無垢なる思慕は、大坂自身が成長しテニス界で頭角を現すにつれ、次々にセリーナに繋がる人脈の糸を手繰り寄せた。

 運命の輪が大きく回りだしたのは、2014年のスタンフォード大会。当時、世界的には全くの無名選手だった16歳の少女は、予選を勝ち上がりWTAツアーデビューを果たすと、初戦で世界19位のサマンサ・ストーサーを破り、一躍大会の注目選手となる。

16歳で出会った憧れのセリーナ。

 大坂がセリーナと初めて会ったのは、この時のこと。シャイな16歳は憧れ続けた「アイドル」を目の前にし、セリーナから向けられる質問に、小さな声で答えるのが精一杯だったという。

「どこに住んでいるの? フロリダのフォートローダーデール? だったらご近所じゃない!」

 そう言われ、これまで憧れの人がどこに住んでいるか知らなかった、自分の無知を恥じ入った。

 一方その頃、内向的な娘と対照的に社交的な父親は、セリーナの元フィットネスコーチのアブドゥル・シラーが大学のキャンパス内に居ることを知り、声を掛けて連絡先を交換した。

 それから4年――セリーナのヒッティングパートナーを8年務めたサーシャ・バインが、大坂なおみのコーチとなる。バインは、シラーが「ブラザー」と評するほどに信頼を寄せる相手であり、セリーナのみならずビクトリア・アザレンカや、スローン・スティーブンスら多くのトッププレーヤーのスタッフとして、目的地と夢を共にした同志である。

 バインが大坂のコーチになった時点で、シラーが必要なパーツとしてチームに加わるのは、必然の成り行きだった。

トレーニングは強要ではなく教育。

 昨年3月にチームに加わったシラーは、ただちに大坂の肉体改造に取り掛かる。ただそれは本人の言葉を借りれば、強要ではなく「教育」だ。

「私は押し付けるのは好きではない。トレーニングや食事でも、なぜそれが必要なのか本人が理解しなくては意味がない。何が勝者と敗者を分けるのかについての、ディベート(討論)やアーギュメント(議論)が重要なんだ」

 それはシラーがバインと共有する哲学であり、シラーによれば大坂は「好奇心旺盛で、いろいろな質問をしてくる」のだという。

「殺し屋の本能」をめぐるディベート。

 そんな両者が、昨年の全米オープン時に交わした「ディベート」に、次のようなテーマがあった。

「“Killer Instinct(=殺し屋の本能)”とは何か――?」

 それは「相手の弱点を見つけ、ためらうことなくそこを付き、トドメを刺す能力」だとシラーは定義する。そのディベートの場に、バインも居合わせた。

 大坂は、コーチに聞く。

「あなたも“Killer Instinct”を持っているの?」

 ない――そのコーチの返答を聞き、大坂は「どうして? ないなら、なぜテニスをやっていたの?」と不思議そうに問い返したという。

 シラーは“Killer Instinct”を、「他人に与えられるものではなく、持って生まれる才能だ」とも規定した。

「セリーナは、持っている。オフコートのなおみには、まるでない。だがコートに立ったら、彼女は変わる。コート上の彼女は“殺し屋の本能”の持ち主だ」。

 セリーナに鋼の肉体を授けたトレーナーは、まだ少女のあどけなさを残すシャイなアスリートの中に、天賦の才を見出していた。

全豪で戦うとすれば、準決勝。

 昨年3月末――マイアミ・オープンで大坂は、セリーナと初戦で当たるドローに入る。スマートフォンを立ち上げその事実を確認するや、大坂は「やった!」と歓喜の声を上げた。この初の対戦では、復帰後まもないセリーナを、大坂が圧倒する。

 2度目に大坂がセリーナと対戦したのは、全米オープンの決勝戦。幼少期から幾度も夢に見たそのステージは、幾つかの主審の判定を巡り我を忘れたセリーナが、ゲームペナルティまで取られるという後味の悪い幕切れで終わっている。

 昨年だけで2度の象徴的な対戦がありながらも、誰もが納得のいく形での決着は、まだペンディング状態だ。セリーナの背に手を伸ばし続けるかのような大坂の1つの旅も、まだ終点に達していない。

 3度目の対戦が全豪オープンで実現するとなれば、それは、準決勝での舞台となる。

文=内田暁

photograph by AFLO


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