大坂なおみの体型が明白に変わった。女子テニスに渦巻くフィジカル革命。

大坂なおみの体型が明白に変わった。女子テニスに渦巻くフィジカル革命。

 何度も窮地をしのぎ、大坂なおみが全豪オープン初のベスト8に駒を進めた。

 4回戦の相手、世界ランク12位のアナスタシア・セバストワは、安定感抜群で、フォアの強打とバックのスライス、ドロップショットなど多彩なショットをバランス良く繰り出す28歳。しかし大坂が、テクニックで張り合い、スピードで食らいつき、パワーでまさった。

 スライスショットの応酬やドロップショットの騙し合い――こうした駆け引きに積極的に挑むのが、今シーズンの新しい大坂だ。軽快な動きと繊細なテクニックを支えるのは、シーズンオフに専念したフィジカル・コンディショニングの成果らしい。

3カ月前とはシルエットが違う。

 オフの間の努力は、まずその体型に顕著に表れている。

 今大会序盤、「今、体重はどのくらいありますか?」と尋ねたベテランの男性記者に、「しばらく測っていないからわからないけど、そんなふうに人に体重を尋ねるものじゃないわ(笑)」と冗談めかして返したが、ジムワークとランニングに多くの時間を費やしたというオフを経た今、わずか3カ月前のWTAファイナルズの頃から比べても、遠目に見るシルエットも間近で見る輪郭も明らかに違う。

 2017年シーズン後のオフにも、当時新しくコーチについたサーシャ・バイン氏とともに早速肉体改造に取り組み、約2カ月で7kgも減量に成功している。その後、'18年3月にチームに招いたコンディショニング・コーチのアブドゥル・シラー氏は大坂の体質や体力を徹底的に分析し、スピードやスタミナなどまだポテンシャルが発揮されていない領域の大きさに着目した。

 ちなみにシラー氏は、バイン・コーチとともにセリーナ・ウィリアムズを3年間サポートしてきた実績も持つ。コート内でのドリル、コート外でのトレーニング、日常生活での食事制限など明確な課題を与え、彼が作成するプログラムによって、シーズン中も体は見る見る絞られていった。

減量し過ぎると威力を失うが。

 4回戦のあと記者会見に呼ばれたサーシャによると、「彼女の体型は今の時点で可能な限りベストの状態だ」とのこと。敏捷性やスタミナは増したが、本来の持ち味であるパワーは失われていない。今のところ大坂の肉体改造は狙い通りだ。

 減量も度が過ぎればショットの威力を失わせるというデメリットを招く。

 たとえば昨年、その減量ぶりが話題になったウクライナのエリナ・スビトリーナには、否定的な意見も渦巻いた。しかし、「人それぞれに意見があるけど、私は自分の取り組んだことが間違っていないと思う。オンコートもオフコートの生活も充実している」と断言し、グランドスラムは昨年も最高でベスト8止まりだったもののWTAファイナルズでビッグタイトルをつかんだ。

「以前のテニスでは限界を感じた。何かを変えなければツアーのレベルはあまりにも高いから、食べ物やフィットネスや睡眠時間というような細かなことにも気を遣うことが重要なの。小さなことが大きな違いを生み出すから」

 このスビトリーナが大坂の準々決勝の相手である。今大会を見る限り、“劇的ビフォー&アフター”からやや体型を戻したようにも見えるが、自分の求めるテニスにもっともふさわしい体の状態を常に模索する姿がうかがえる。

伊達公子が話していたこと。

 かつて、こんなことを言った男子選手がいた。

「女子のトップ100のうち80%は『太った怠け者のブタ』だ。男女同額賞金に値しない」と。

 のちの1996年にウィンブルドン男子シングルスを制するオランダのリカルト・クライチェクだが、その発言は大問題となり、当時、トップ10入りを目前にしていた20歳の生意気盛りの若者はマスコミの批判にさらされた。

 しかし、実のところ「表現はひどいが、男子と比べればそう言われてもしかたないかも」という声も陰でちらほらとはあったのだ。

 今はこうした発言に対して世間がより厳しくなったことを差し引いても、女子選手をそんな目で見る者はほとんどいない。女子テニスは劇的に変わった。'90年代と2010年代の両方の時代をプレーヤーとして知り尽くす伊達公子さんは、以前こんな話をしていた。

「今の女子選手はフィジカルに関して常にアンテナを張って情報を入れようとしている。その姿勢や取り組み方は、'90年代と全然違います。昔は会場の中にジムもありませんでした。今はそれを多くの選手が利用しますし、ホテルのジムも朝から選手であふれています。これだけ過酷なツアーの中では、目的を持って体を強化していかないとついていけないし、ましてや人より上にいくことはできません。フィジカルに対する意識の高い選手ほど強いし、強くなると思います」

チームを形成するのが主流。

 女子テニスの人気やレベルは男女同額賞金に見合わないという批判は今でも確かに多少あるが、この賞金の高騰こそが女子テニスの質を変えたといってもいい。

 今の選手は、コーチのみならずトレーナーやフィジオをツアーに帯同して〈チーム〉を形成するのが主流になっている。それができるようになったのは、長年の“差別撤廃運動”の末に、女子もグランドスラムをはじめとした大きな大会で男子と同額の賞金を手にする時代になったからだろう。

 食事制限にせよトレーニングにせよ、個人の意志だけで貫くのは難しい。誰かがメニューを考え、見張り、叱咤激励してくれなければ、成し遂げることは困難だ。

 大坂には、豊富な知識と経験で食事やトレーニングのメニューを作成するトレーナーがいて、その苦しいメニューを一緒にこなしてくれるコーチまで傍らにいる。そしてこのチームのプロジェクト最大の武器は、大坂自身の純粋な向上心と仲間を信じる力だろう。

 充実したオフシーズンの成果を実感しながら勝ち進んだ準々決勝。「ボールに速く追いつくことができるようになったし、長いラリーでも疲れなくなった。アブドゥルは私に、長い試合を戦える自信をつけてくれた」と手応えを語った。

 スビトリーナには2勝3敗と負け越していて、2連敗中でもある。自分の体とテニスに向き合い、信念と勇気を持って改革に取り組んだ2人の対決は、優勝の行方のカギを握る一戦である。

文=山口奈緒美

photograph by AFLO


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