大坂なおみとクビトバの人気者対決。勝者は「次の女王」に大きく近づく。

大坂なおみとクビトバの人気者対決。勝者は「次の女王」に大きく近づく。

 少なくともこの10年、女子テニスの関心事はこの一点に尽きるだろう。

 ポスト・セリーナは誰なのか――。

 今は世界ランク16位だが、そんなこととは関係なく“絶対女王”の地位を築いたセリーナ・ウィリアムズ。ライバル視されていたマリア・シャラポワやビクトリア・アザレンカが落ちぶれると、その強さと存在感は圧倒的となり、セリーナひとり勝ちの状態は女子テニス界の懸念にもつながっていたのだ。

 新たなスターが現れなければ、女子テニス界は魅力を失ってしまう。しかし、浮かんでは消え、消えては浮かぶ候補者たち。

 たとえば、2013年の全豪オープンの準々決勝でセリーナを破ったスローン・スティーブンス(当時19歳)は特にアメリカでセリーナ2世と騒がれた。2016年全仏オープンの決勝でセリーナを破ってグランドスラム初優勝を果たしたガルビネ・ムグルサ(当時22歳)には、新ライバルとして世界が期待を寄せた。

 最近では、昨年の全仏オープンでノーシードからチャンピオンに輝いたエレナ・オスタペンコ(当時20歳)も衝撃的ではあった。しかし彼女たちに欠けていたのは、安定感と迫力だった。

 昨年の全仏オープンを制したシモナ・ハレプはその前の全豪でも準優勝するなどある程度安定した実績を作り、一昨年の10月から現在に至るまで、カロライン・ウォズニアッキに4週間だけ譲り渡した以外は女王の座を守っている。

 しかし、対セリーナの直接対決で1勝8敗と大きく負け越しているハレプはまだ“真の女王”と認められていないムードだ。こうして誰も特定されないまま、年月とともに焦りと失望だけが募っていった。

大坂はあらゆる条件が新女王にフィット。

 そこに現れた大坂なおみが今、グランドスラム2大会連続優勝に片手をかけている。彼女こそ、混沌とした女子テニス界のモヤモヤを吹き消すセリーナの後継者――予感が確信へ変化する過程を今誰もが楽しんでいる。

 セリーナをすでに2度倒し、一度も負けていない大坂は、難題をすでにクリア。21歳の若さ、ダイナミックなテニス、ユニークなバックボーン、愛されるキャラクター……申し分ない次世代の女王の姿なのだ。

「私の時間はゆっくり進んでいるのね」

 グランドスラムで初優勝から2大会連続して決勝に進んだのは、'01年の全豪と全仏を制したジェニファー・カプリアティ以来で、その前年にも当時20歳のビーナス・ウィリアムズがウィンブルドンと全米を連覇している。

 '97年にはマルチナ・ヒンギスが16歳の若さで全豪優勝に続いて全仏で準優勝していることに今さらながら驚かされるが、かつてはこうしてスターダムへ一気に駆け上がる女の子たちがいた。大坂の成功のスピードは、あの時代の衝撃と似たものがある。

 しかし、大坂自身は私たちの驚きに首を傾げる。

「私にしてみれば、けっこう時間がかかったなって感じだけど。グランドスラムの2週目にいきたいって願っていたのに、ずっとダメだった。多分、私の時間はあなたたちよりゆっくり進んでるのね」

 確かに1年前まで丸2年間、グランドスラムの3回戦の壁に苦しんでいた。昨年のこの全豪オープンでやっと3回戦を突破したが、4回戦で世界1位のハレプに敗れた。

 それから2カ月足らずで、グランドスラムに次ぐ格の『プレミア・マンダトリー』に属するインディアンウェルズのBNPパリバ・オープンでツアー初優勝し、全米オープン制覇。さらに今こうして全豪オープンの決勝に進み、1年前は70位だったランキングはこの時点で2位が確定している。

 決勝に勝てば、なんと1位である。相手はチェコのペトラ・クビトバ。過去にウィンブルドンを2度制した28歳との初対戦は、実に興味をそそる。

クビトバも「未来の女王」と呼ばれた。

 クビトバは、やはり有力な女王候補だった。1度目のウィンブルドン優勝は2011年、21歳のときだった。その大会でのセリーナは、ケガと病で丸1年のブランクを経て復帰したばかり。もうセリーナの時代は終わったとも囁かれる中で、聖地の頂点へ駆け上がったのがクビトバだった。

 183cmの長身に左利きという絶対的な武器と、パワフルで隙のない好バランスのプレースタイル。元女王のマルチナ・ナブラチロワも「間違いなく未来の女王」と太鼓判を押した。しかし、レジェンドたちやマスコミの読みははずれ、最高ランクは2位。3年後に再びウィンブルドンを制したが、その後はグランドスラムのベスト8が最高だった。

強盗に利き手を切られる事故から……。

 光り輝く新星を探し求めるファンやメディアの視界からクビトバは外れていった。そんな中、2016年末に自宅に押し入った強盗ともみ合ってナイフで左手を切られるというショッキングな事件が起こる。再起不能とも言われた。

 実際は半年後に奇跡的なツアー復帰を果たしたが、今大会で決勝進出を決めたあと「テニスがまたできるのかどうかさえわからなかった。今は不思議な気分。私がまたここに戻って来られると信じた人はわずかだったと思う。でもそのわずかな人が近くにいてくれた」と涙ぐんだ。

 以前よりぐっとシェイプアップされた体に、復活への覚悟が見てとれる。

「前よりも多くのウェイトトレーニング、ランニングなどに時間を費やしてきた。前よりもボールに追いつくようになったし、長い時間戦えるようになったわ。暑い中でも大丈夫。精神的にも強くなった。すべてつながっていると思う」

 飛ぶ鳥落とす勢いの大坂も人気者だが、クビトバの復活劇に心を寄せるファンも多い。勝者が週明けのランキングで26人目の世界1位となる。新旧の〈ポスト・セリーナ〉の戦いには、あふれるほどドラマが詰まっている。

文=山口奈緒美

photograph by AFLO


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