東浜巨が後輩・千賀の自主トレで発揮したハンパじゃない引き出し。

東浜巨が後輩・千賀の自主トレで発揮したハンパじゃない引き出し。

 ホークスファンならば2人の名前を聞いただけで胸躍り、野球ファンは絶対注目したくなるコラボ自主トレが1月に実現していた。

 エース級の両名、東浜巨と千賀滉大が合同でトレーニングを行ったのだ。

 正直驚いた。チームメイト同士が高め合うと言えば聞こえはいい。だが、プロ野球は強烈な個の集団だ。現実はそんな美しいばかりの関係性ではない。不仲と言っているわけではなく、実際に彼らは良好な関係を築いている。しかし、両者は誰が見ても明らかなライバル関係だ。

 そして今回の自主トレは、2つ年上の東浜の方から「千賀の庭」に飛び込んでいった。逆なら分かるが、これは異例である。千賀がまだ背番号128だったプロ1年目オフから師と仰ぐ「鴻江スポーツアカデミー」代表の鴻江寿治トレーナーが主宰するトレーニング合宿に初めて参加したのだった。

千賀と東浜の矜持が見え隠れ。

 違和感をそのまま東浜に問うてみた。が、当の本人は「そんな大袈裟なことじゃないですよ」と軽く笑い飛ばすだけだった。

「僕は千賀と一緒にやるという認識ではなくて、鴻江先生に教わりたくて参加した。大学時代に先生が考案した『コウノエベルト』を使用していたし、千賀がずっと通っていて良くなっていくのも当然見ていましたから」

 千賀のもとに飛び込んだわけじゃない――そこに、東浜の矜持が見え隠れする。一方で千賀も、東浜がやって来ると聞いた当初は穏やかではなかったようだ。ただ、プロはそれでいい。結果的に、それが高め合うことに繋がるのだ。

 東浜の「鴻江合宿」への参加は3日間だけだったが、そのわずかな期間で東浜の投球フォームは明らかに変化した。

石川柊太らも教えを請うた。

 過去2年間の同時期に、鴻江寿治氏の提唱する「うで体(猫背型)」「あし体(反り腰型)」に基づいた投球フォームづくりについて、当コラムでは綴ってきた。一昨年は石川柊太、昨年は川原弘之(ともにソフトバンク)を取り上げている。

 その2種類の違いを生み出すのが骨盤の形だ。「うで体」は右の腰がかぶって(通常よりも前に出て)、左の腰が開いた(後ろに引いた)状態を指す。「あし体」はその逆で、左の腰が前に出て、右の腰が後ろに引いた状態だ。東浜のフォームは、後者の「あし体」となる。

 これを前提として投球フォームを作っていく。

「右(軸足)に体重を乗せてはいけない」

「インステップが、君にとっての真っ直ぐなんだ」

「腰を横回転させて、体を回してあげなさい」

 おそらく、野球経験者ならば、すべてタブーとされることばかりである。軸足に乗せろ、捕手方向へ真っ直ぐ踏み出せ、開くな、と幼いころから指導されてきたはずだ。

最初はふむふむなるほど、が。

 東浜も例外ではない。

「最初聞いた時はふむふむなるほど、と思いましたが、考えていくと『アレ?』って頭がボーっとしてきちゃいましたね(笑)」

 骨盤が被っている側の方が人間の体は強い。「あし体」の東浜ならば左半身を生かした方がいいという考え方だ。右半身に頼ってしまえば、それが軸足であろうと本来持つ能力を発揮できなくなる。

 踏み出す足も骨盤の向きのままだ。「あし体」の右投手の場合、結果的にインステップに見えるだけ。そして、人間の体は、縦は回りにくく横は回しやすい。回転することでひねりのパワーが生まれるのだから、縦ではなく横回転しなければならないのだ。

最多勝投手が持つ吸収力。

 鴻江合宿には毎年多くのプロ野球選手が訪れる。15年近くその様子を現場で見てきたがほとんどの選手は面食らい、頭で分かっても体で表現するのに時間を要する。幼いころから習慣づけたやり方を一変させるのは容易なはずがない。

 だからか、鴻江合宿にやって来るのは切羽詰まった選手が多い。「駆け込み寺」とも称される。ちなみに昨年、この合宿できっかけを掴み、大きく飛躍を遂げたのが西武の榎田大樹だった。

 しかし、東浜は2年前のパ・リーグ最多勝投手である。昨年は一時故障したが、一軍復帰した後は6連勝をマーク。実績十分である。そんな選手が果たしてどのような反応を示すのか。それはとても興味深くもあり、心配のタネでもあった。

 ただ、それは杞憂だった。

「自分に合う体の使い方を求めていく中で、一度全部壊してもいいというくらいの気持ちでした。周りはそうやって気を遣ってくれるけど、遠慮なくどんどん言ってくださいと思っていました」

引き出しの数がハンパじゃない。

 東浜の吸収力にはただただ驚いた。1日目で指摘された部分を体で表現出来ていたし、2日目には周りに順序立てて説明出来るまでになっていた。自分の言葉でアウトプット出来るのは、完全に自分の頭の中に入っている証拠である。

「常に上を目指すのなら、現状維持ではいけない。今までやって来たことも大切ですが、新しいことを求めていかないといけない」

 とはいえ、言うは易し行うは難し、だ。プロ野球選手は皆そう口にするが、実際に行動に移せる選手ばかりではない。

「僕は亜細亜大学にいたおかげだと思います。亜細亜って厳しいとか根性論だとかってイメージを持たれがちなんですが、すごく頭を使って練習を行うんです。生田(勉)監督が毎年新しいことを取り入れる。僕が居た4年間も毎年取り組みが変わりました。

 僕自身のピッチングも4年間、全て違うテーマ、新しいことを取り入れながらやっていました。周りからよく『東浜って総合力のピッチャーだよね』と言われていましたが、それは僕が色々なやり方で相手を抑えていたからだと思います」

 鴻江氏の理論は東浜をハッとさせるものばかりだったが、冷静になると、かつて自分で考えて試したやり方と似ていたことにも気づいたという。持っている引き出しの数がハンパじゃない。東浜の凄みを改めて知った3日間の合宿でもあった。

自問自答したオフを経て。

 その合宿中、ピッチングを終えた東浜がボソッとつぶやいた言葉がある。

「大学時代の特に良かった時、こんな体の使い方をしていたような気がするんです。あの頃は9回でも150kmを出せていた」

 このオフは鴻江合宿の他に、栄養学も習得するなど、とにかく精力的だった。

「今年で29歳になる。30代になって慌てても遅いから。僕の中ではプロになって、最も自問自答したオフシーズンだったと思います」

 東浜の“本気”を見た。

「今までで一番充実していたから、今年の自分に期待したいですね」

 いつもは控えめな男が、手応えとしてはこれ以上ない言葉を口にした。秋にどんな答えを示してくれるのか、まだこんな時期だというのに楽しみで仕方ない。

文=田尻耕太郎

photograph by Koutaro Tajiri


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