「野球男子」の減少は本当に問題か。北海道の教室で出会った2人の女子。

「野球男子」の減少は本当に問題か。北海道の教室で出会った2人の女子。

 北海道の日高という土地に、小学生、中学生の「野球教室」でうかがうようになってから、もう10年近くになる。

 そのずっと以前からのお付き合いで、地元でスポーツ店を営みながら子供たちの「野球スクール」を続けている方から呼んでいただけるようになり、毎年、お正月明けの頃の土日を使って野球教室をするようになった。

 野球教室といっても、こうやって、こう動いてボールを投げなさいとか、ボールを打ちなさい……とかではない。そうした技術指導は、そのスクールの監督さんやコーチの方が日ごろなさっているのだから、私の“役目”はそれ以前の「基本とは何か」を伝えることだと思っている。

 たとえば、

「バットって、どう構えたらいいんですか?」

子供たちから、そんな疑問が出るとする。

 まず、捕球姿勢から入る。子供たちはキョトンとしている。関係ないじゃん……そんな空気を送ってくる子もいる。

 まあ、そう言わずに、もうちょっと聞いてみてよ。

捕球の姿勢から送球を経て……。

 きをつけ! の姿勢から横に一歩足を広げて、そこからお尻をグッと後ろを突き出してヒザを曲げて腰を下げる。頭が前に突っ込まないように、<みぞおち>を前に見せるようにして。両手は前にたらして、気持ちとしては両ヒジを地面につける感じで。だいじょうぶ、ヒジは地面にはつかないですが、これでグラブの位置は完璧に低くなります。これが、捕球姿勢の基本。

 このへんまで一緒にやってみると、だんだんと子供たちの顔が変わってくる。

 その姿勢から、ちょっと腰の位置だけ上げてごらん。両手を胸のところで合わせて、左右に割ってみるとぉ……ほら、今度は投げる姿勢「送球姿勢」になってるねぇ。

 子供たち、アッという顔になっている。

 さあそこから、さらにもうちょっと腰の位置を上げて〜。今度は両手でグーを作って、右打ちの人は右耳のあたりに持ってきてみよー。

 さあ、どんな姿勢になったかな? ……なんてことをやっている。

冬の北海道で、体育館練習。

 捕る、投げる、打つ……野球の代表的な姿勢は、みんなつながってるんだよ。

 打つ方に迷ったら、まず「捕球姿勢」に戻ってごらん。捕り方から投げ方、そうやってたどっていくと「打ち方」にたどり着く。急がばまわれ。そこから先は、自分がいちばん気分よくスイングできる振り方をすればいい。

 教えるといってもそんな内容だから、寒い北海道なら体育館で練習する冬のほうが都合がよい。だから、いつも冬の練習にうかがっている。

野球があまりに上手な2人の女の子。

 今年の「野球教室」に、2人の小学生の女の子が参加していた。

 6年生と3年生。この2人の野球が上手でびっくりした。

 6年生のほうは、もともとスクールに来ていたお兄ちゃんの妹。3年生のほうは、最近スクールに参加し始めたという。

 6年生は、北海道の社会人野球でプレーしていたお父さんに野球を教わったという。ティーバッティングのスイングに驚いた。

 バットを構えた背中がスッときれいに立って、バットが水平に振り出されて、両肩も水平のままで、振り抜いた後まで、頭がいっさい動かない。

 男の子たちは力がついてくる頃なので、その力を使ってエイッ! と力を込めて打ちたがるのだが、彼女はというと、800グラムほどのバットを振るのにちょうどよいぐらいの力しか入れずにスイッと振るので、振り終わりのバランスを崩すこともなく、いとも簡単にバットの芯でボールを捉える。

 3年生のほうも、そんな感じだ。

 大人のようにへんな情報が入っていないので、目の前に上げられるボールをひたすら見つめ、まだ体も小さくて力もないから、今ある「柔軟性」という最大の武器を駆使して、無心にバットを振るのだが、これがまた実に見事に芯で捉えている。

 なんとも、バッティングの「原点」を幼い2人の野球女子から教えてもらっているような気がして、ありがたい気持ちになったものだ。

実は「野球女子候補生」は多いのでは。

 フッと思ったことがある。

 15〜6人のスクールに、野球がこんなに好きで上手な女の子が2人参加している…ということは、この近隣に1000人の小学生、中学生がいれば、その中に120〜130人の「野球女子候補生」が埋もれていてもおかしくないのでは……。

 実際に、去年までのスクールにも「女子」は参加していた。

 皆、卒業してしまったが、スクールにいた頃は足手まといどころか、ともすれば“力任せ方向”に走ろうとする男子たちのお手本になるような合理的な身のこなしを無意識に発揮しながら、立派に「野球」と取り組んでいた。

「野球男子」が減ってきている。それは、高校野球でも中学軟式でも、もう何年も前から叫ばれてきている。

 確かに、統計は間違いなくそうした傾向を示してはいるのだが、だから「たいへんだ!」という空気はどうだろう。

選択肢が野球しかないのが変だった。

 自分のまわりから人が減っていく様子は間違いなく人を不安にさせ、漠然とした危機感を抱かせる。しかし、もうちょっと「引いた見方」をしてみたら、昔は野球男子がたくさんいすぎた、多すぎたのではないか。そんな「仮説」も立てられるのではないか。

 確かに私が子供の頃は、男子の遊びといえば「野球」。野球せぬ者、男子にあらず……みたいな空気すらあった。

 そんな流れの結果にあったのが、長く続いた「男子野球隆盛」の時代だろう。

 しかし考えたら、みんながみんな同じことをするほうが不自然ではないか。ネコもシャクシも野球、野球。そういう片寄った現実のほうがおかしかったのだと考えるのが、健全な気がしている。

 今のようにスポーツ競技が数多く紹介され、用具が開発され、その認知の幅が広がってくれば、野球人口が減って、そのぶんサッカーでもバスケットでも、野球以外のスポーツ少年たちが増えるのは当たり前の現象であろう。

 数人か、場合によっては1人なんてこともある手薄な指導陣が、抱え込めないほどの部員を抱えて、そのことである種の満足感や安心感を覚え、しかし実際はとてもひとりひとりを指導しきれないから、どうしても全体に“蛮声”で指示を与えることになり、伝わりきらないいら立ちが罵声になり、恫喝になり…そんな現場はなかったろうか。

 目の届く範囲の人数であれば、人間、そんなに声を張り上げずに済むものだ。

野球女子候補生、どれほどいるのだろう。

 野球男子が減ったのなら、野球女子が増えてもよいのでは……。

 足手まとい……そうした表現で鼻で笑った指導者の方が前にいたが、きっとその方は、野球大好き女子に出会っていないのだろう。

 特に、中学軟式。高校ほど体格差が生じないうちなら、十分肩を並べてボールを追い、バットの振れる野球女子が生まれるに違いないし、“戦力”としてだって貢献できると思っている。

 わたし、ほんとは野球やってみたい!

 そんな「野球女子候補生」、この国のあちらこちらに、いったいどれぐらい埋もれているのか。こんなにもったいない話もないな……。

 冬の北海道の小さな町の廃校になった中学校の体育館で、土地の小学生、中学生とボールを追いかけながら、そんなことをつらつら考えていた。

文=安倍昌彦

photograph by Hideki Sugiyama


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