ここ10年、年度代表馬の半分が牝馬。アーモンドアイたちはなぜ現れたか。

ここ10年、年度代表馬の半分が牝馬。アーモンドアイたちはなぜ現れたか。

2018年アーモンドアイ
2014年ジェンティルドンナ
2012年ジェンティルドンナ
2010年ブエナビスタ
2009年ウオッカ

 これは、過去10年でJRA賞年度代表馬に選出された牝馬たちである。4頭で半数の5回も受賞している。ちなみに、その前の2008年もウオッカが年度代表馬となっている。

 それより前に年度代表馬となった牝馬は、1997年のエアグルーヴと、1971年のトウメイの2頭だけ(年度代表馬の表彰が始まったのは1954年)。

 もちろん、昔も強い牝馬はいた。1943年にダービー、オークス、菊花賞の「変則三冠」を制し、翌年11戦11勝で引退したクリフジが好例だ。

 また、1996年の最優秀短距離馬フラワーパーク、2008年のスリープレスナイト、2011年のカレンチャンのように、1200mなどの短距離では、牡馬相手にGIを勝つ牝馬はときどき現れた。

 しかし、「チャンピオンディスタンス」と呼ばれる2400mで、牡馬の一線級を圧倒する牝馬がこれほど次々と現れるようになったのは、160年近い日本の近代競馬史において初めてと言っていい。

 なぜ、牝馬がここまで強くなったのか。強い牝馬が続出する背景には何があるのか。

4頭中、3頭が同じ牧場の生産馬。

 まず、これを言ってしまっては身も蓋もないが、冒頭に記した牝馬の年度代表馬4頭の「またそこかよ」と苦笑されそうな共通点にお気づきの方は多いだろう。

 そう、ウオッカ以外の3頭は、ノーザンファームの生産馬なのである。

 ノーザンファームは2011年から8年連続リーディングブリーダーとなっており、昨年の獲得賞金は162億1150万1000円、勝利数は662。2位社台ファームの63億4538万8000円、311勝のダブルスコア以上という突出ぶりだ。

ノーザンファームのすさまじい手厚さ。

 先月アップされた本稿にも書いたように、昨年は同牧場の生産馬がJRAの平地GI全24レースのうち16レースを制し、有馬記念では1着から4着までを独占した。

 世界中から良血の繁殖牝馬を集めながら自前の牝系を発展させ、ディープインパクトをはじめとする超一流種牡馬を配合し、母馬のお腹のなかにいるときから徹底した飼養・運動などの管理を行う。

 また、見過ごされがちなイヤリング(当歳時に離乳してから1歳時に騎乗馴致を始めるまでの期間)においても、20棟ほどある厩舎すべての放牧地に1頭ずつ「リードホース」と呼ばれる先生役の大人の馬を置くなど、怠りない。

 育成馬となってからは、充実した施設と優れた人材によって走りの基礎を叩き込まれる。デビュー前の段階で、ノーザンファームの生産馬は、ほかを大きくリードしていると言っていい。

ケアの効果が牝馬の方が大きい?

 また、レースとレースの合間を過ごすノーザンファームしがらきが2010年、ノーザンファーム天栄が2011年から稼働し、次走に向けた馬体とメンタル面のケアが前にも増して綿密に行われるようになったことが、近年の躍進の背景にある。

 それも、心身ともにデリケートで、難しいところのある牝馬のケアには、特に効果があったのではないか。牡馬の場合、言葉は悪いが、多少手荒に扱われようが、優しく丁寧に扱われようが、それほど大きな差は出ないのかもしれないが、牝馬はそこが大切になってくる。牝馬は、ケアが入念になることの奏功度が大きい、と言うべきか。

 心身のケアが綿密になされるようになったため、昔なら走る気をなくしたり、体がお母さんになる準備を始めて終わっていたかもしれない牝馬が、競走馬としての潜在能力をフルに引き出され、しかも長く現役をつづけられるようになった――と、ノーザンファームの生産馬に限らず、共通して言えるのではないか。

トレヴやエネイブルなど世界でも牝馬が強い。

 大舞台で強い牝馬の活躍が目立つようになったのは日本だけの傾向ではない。

 フランスの凱旋門賞では過去10年で牝馬が7勝もしている。それも、あのオルフェーヴルでさえ完敗したトレヴや、2017年にイギリスのキングジョージVI&クイーンエリザベスステークスを4馬身半差、凱旋門賞を2馬身半差で圧勝し、昨年凱旋門賞連覇を果たしたエネイブルのように、「化け物」と言うべき強さの牝馬が活躍している。

 オーストラリアではウインクスが昨年10月27日のコックスプレートで史上初の4連覇を達成し、自身の連勝記録を「29」、GI最多勝記録を「22」に伸ばした。これもまた牝馬の「化け物」である。

2000年代後半は世界的に牝馬の時代。

 このように、サラブレッドの世界では、不思議なくらいの「共時性」が見られることがままある。

 ウオッカがライバルのダイワスカーレットと激しくぶつかり合ったのは、2007年と2008年だった。

 アメリカでは、これら2頭と同い年の牝馬ゼニヤッタがデビューから無敗で2008年のブリーダーズカップレディースクラシックを制し、翌年にはブリーダーズカップクラシックを牝馬として初制覇。2010年のレディースシークレットステークスまで無傷の19連勝を遂げ、次走のブリーダーズカップクラシックで頭差の2着に敗れ、引退した。

 その2歳下の牝馬レイチェルアレクサンドラが、2009年、ケンタッキーオークスをチャーチルダウンズ競馬場史上最大の20馬身1/4差をつけて圧勝し、次走、牡馬も出るクラシック三冠の第2弾、プリークネスステークスも優勝。その後も勝ちつづけ、古馬との初対決となったウッドワードステークスまでGI5連勝を遂げた。

 このレイチェルアレクサンドラはダート、ゼニヤッタはオールウェザー馬場を主戦場としていたこともあり、2頭の直接対決は実現しなかったが、2000年代後半の主役は、日米ともに牝馬だった。

アーモンドアイとエネイブルの対決は?

 世界中のすべてのサラブレッドの父系を辿ると、300年ほど前に生きたダーレーアラビアン、ゴドルフィンアラビアン、バイアリータークの「3大始祖」に行き着く。

 元は1本の親木で、その挿し木などで日本中に増えたソメイヨシノに似ている。どれかが病気になると、ほかのソメイヨシノもみな一斉に同じ病気にかかるように、元が同じであるがゆえの「共時性」がサラブレッドにも生じるのだろうか。

 ともあれ、今年も「化け物」と言うしかない強い牝馬が日本にも海外にもいるという「共時性」は生きている。

 エネイブルが史上初の3連覇を狙う凱旋門賞に、1歳下のアーモンドアイ陣営も出走を表明している。

 エネイブルは、英米愛に拠点を持つオーナーブリーダーのジュドモントファームの生産馬である。怪物フランケルもそうだし、ノーザンファーム生産のディープインパクトが3位入線後失格となった2006年の凱旋門賞を勝ったレイルリンクも同牧場の生産馬だ。

 10月6日の凱旋門賞までまだ8カ月ほどもあるが、「化け物」と言うべき名牝を生み、育て、その牝系を大切にしていく「ブリーダー対決」という意味でも注目したい。

文=島田明宏

photograph by Keiji Ishikawa


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