「部屋」視点で見るパワーバランス。相撲界を次に騒がすのは誰なのか。

「部屋」視点で見るパワーバランス。相撲界を次に騒がすのは誰なのか。

 1年前に、翌年の初場所で玉鷲の優勝を予想できた人が果たしてどれだけいるだろうか? そして優勝を最後まで争ったのが貴景勝であることも、誰が予想できただろうか?

 4横綱時代が遠い過去のように思えるほど、最近の大相撲は場所ごとに何かが起きている。世代交代かと思えば横綱大関が圧倒することもある。栃ノ心や玉鷲のようなベテランが開花することもあれば、御嶽海や貴景勝のような新世代の力士が台頭することもある。錦木や竜電のような中堅が一気に上位で結果を残すこともある。

 つまり、「誰が」活躍するかを予想するのが極めて難しい状況なのだ。

 では次に開花するのは誰か。そんなことを考えながら今場所の星取表を眺めていると、ふと気付いたことがある。

 相撲部屋の勢力図が、明確に変化しているのである。

 例えば少し前に日馬富士と照ノ富士を擁し、我が世の春を謳歌していた伊勢ヶ濱部屋は、最近でこそ苦戦を強いられているが、照強のような若手も台頭してきている。

 高田川部屋は竜電に輝、十両を見れば白鷹山のような中卒叩き上げの大型力士達が揃って上位を窺っている。

 追手風部屋は幕内の中位から下位にかけて大卒力士が多い。

部屋によって、入門者の傾向が違う。

 相撲部屋にはそれぞれスカウティングに特徴がある。大卒が多い部屋もあれば、叩き上げに強い部屋もある。そして高校野球や大学駅伝にも似ているのだが、スカウティングには波があり、ある特定の時期に才能ある力士を集中して入門するケースがある。

 若の里や隆乃若、隆の鶴らが同時期に台頭してきたかつての鳴戸部屋や、若貴に貴ノ浪、安芸乃島に貴闘力が上位を席巻した頃の二子山部屋はその好例だろう。

 相撲部屋のスカウティングの特長と、どの部屋が幕下・三段目に有望な若手を抱えているかが把握できれば、大相撲の次が見えるかもしれない。

 まずは現状分析からだが、初場所時点での関取人数を確認すると、大きく分けて3つの勢力が存在していることがわかる。外国出身力士、日本出身大卒力士、そして日本出身で高卒以下の叩き上げ力士である。それぞれ外国出身力士が15人、大卒が29人、そして叩き上げは27人である。

 ただし、現状では移籍など特別な事情が無ければ外国出身力士は各部屋に1名までというルールがあり、外国出身力士だけで部屋を繁栄させることはできない。玉鷲の片男波部屋、鶴竜の井筒部屋、逸ノ城の湊部屋は外国出身力士が奮闘しながらも他の力士が台頭していないのが実情だ。

 関取が1人となると、レベルに差が出るので稽古をするのが難しく、多くの場合は関取が出稽古に行くことになる。せっかく関取がいるのに部屋全体のレベルアップに寄与しづらいのは勿体ないし、有望な若手が別の部屋からスカウトされたらそちらを優先するのも致し方ないことだ。

似た環境の力士が多いところへ集まる。

 ただ、最近ではそうした部屋は少なくなってきている。小さな部屋の統廃合が進んだことも影響しているが、強い外国出身力士がいると日本出身力士も育つのだ。

 水戸龍の所属する錦戸部屋には関取経験のある極芯道が現れたし、今場所つに幕下の壁を突破した霧馬山の所属する陸奥部屋には、20代前半の若手の中で幕下・三段目の力士が3人もいる。外国出身力士と日本出身力士が共存共栄しているのが現在のトレンドなのである。

 では、最近の大相撲の最大派閥と言える大卒力士を巡る状況はいかなるものだろうか。

 外国出身力士とは異なり、人数に制限もなく安定して成績が残せる大卒力士はどこの部屋も喉から手が出るほど欲しい存在だ。だがこれだけ安定して成績が残せるとはいえ、大卒力士は入門者全体の20%前後に留まっている。

 人数で言えば年間で10人前後といったところだ。彼らは地方公務員や教員という現実的な進路を蹴って角界入りする。リスクを許容するだけの勝算が無ければこの決断はできない。

 そして、彼らにとって最もポピュラーな進路が、大卒力士を多く抱えている相撲部屋である。

エリートを揃える追手風部屋。

 前述の木瀬部屋は、関取6名のうち臥牙丸以外の5名が大卒だ。さらには、幕下力士の15名中大卒力士がなんと12名である。近年どこの相撲部屋も入門者を確保するために苦心しているのが実情だが、数少ない大卒力士がこぞって木瀬部屋を選ぶのは、大卒力士が安定して結果を残せるという信頼によるところなのだろう。

 そしてこの部屋の面白いところは、大卒の中でも幕下15枚目格付け出しデビューをする資格のあった超エリートは常幸龍くらいだということだ。突出した存在ではない力士達が、大相撲の世界で生き抜くため、現実的な選択として同程度の実力と潜在能力、そしてキャリアを持つ者が集う相撲部屋を選ぶというのは自然なことだ。

 一方で追手風部屋は7名の関取の中で5名が大卒だが、この部屋は大卒の中でも超エリートが集っているのが特徴だ。

 遠藤は幕下10枚目格、大奄美、大翔丸の2名は幕下15枚目格付け出しデビューを果たしている。期待値を考えると物足りなさを覚える方もいるかもしれないが、アマチュアで実績ある力士でも結果を残せずに土俵を去ることも多かった時代を目の当たりにしてきた身としては、この選択は間違っていないと思う。

 矢後と友風が台頭し、嘉風と今場所引退した豪風の尾車部屋や正代と豊山の時津風部屋も大卒力士が進路として選択している。そして少し意外なところだと、横綱白鵬を擁する宮城野部屋も石浦と炎鵬、そして山口といった大卒力士達が門を叩いている。

名門の再建を目指す2つの部屋。

 そして、名門の再建を大卒に託す部屋も現れている。御嶽海の出羽海部屋と朝乃山の高砂部屋である。

 出羽海部屋は出羽疾風、高砂部屋は朝弁慶という叩き上げの力士が、部屋が低迷する中で関取に昇進したのだが、時同じくして超エリート力士のリクルートに成功し、今では彼らを中心に部屋が軌道に乗りつつある。

 叩き上げの力士には厳しい時代ではあるが、入門者の大半が叩き上げという構図は今も変わらない。大卒と外国出身力士だけに頼るわけにもいかないのである。彼らと共に叩き上げも成長し、部屋を盛り立てていけたとしたらそれが理想であろう。

 九重部屋はそういう理想的な姿を体現している部屋と言えるだろう。叩き上げの千代丸と千代の国、外国出身の千代翔馬、そして大卒の千代大龍に千代の海。様々な背景の力士が近いレベルで切磋琢磨している。気掛かりなのは次世代が現れていないことだが、伝統的に強い力士が生まれている部屋なので、これからの巻き返しに期待したい。

全員が平成10年以降生まれという部屋も。

 伝統的に繁栄している部屋という意味で考えると、春日野部屋と佐渡ヶ嶽部屋が思い付く。この2つの部屋は叩き上げが安定して育成できるところに強みがある。

 かといってそれ以外のところに排他的なわけではなく、春日野部屋は栃ノ心、佐渡ヶ嶽部屋は琴光喜のように叩き上げでない力士も入門し、確かな結果を残している。そして春日野部屋には塚原や栃幸大、佐渡ヶ嶽部屋には琴鎌谷に琴手計といった叩き上げの若手が順調に育ってきている。伝統の強みは今も健在なのだ。

 新興部屋は前述の事情から大卒力士がなかなか進路として選びにくい事情があり、最初は叩き上げの育成を中心に部屋を運営していくことになる。最近誕生した元・若の里の西岩部屋や元・雅山の二子山部屋は全員平成10年以降の生まれと、非常にフレッシュだ。

 西岩親方は以前稀勢の里の初優勝をメインにしたインタビューの中でも叩き上げに対する熱い想いを語っていたことから、これからもこの傾向は続くのではないかと思われる。

2019年の、さらに先へ。

 最後に、これから注目してほしい新興部屋を紹介したい。元魁皇の浅香山部屋と、元武蔵丸の武蔵川部屋である。

 いずれも叩き上げが中心なのだが、浅香山部屋は魁勝が幕下7枚目で勝ち越しており、初の関取誕生も目の前である。そして武蔵川部屋は当初親方の甥の武蔵國が話題だったが、ここに来て20歳前後の若手が次々と幕下三段目に顔を出している。

 特に争奪戦を制して獲得した徳田は18歳ながらも既に幕下に昇進し、今場所は幕下50枚目で勝ち越している。新興部屋でこれだけ多くの叩き上げが門を叩くのは異例のことだ。数年後、この2つの部屋が関取を多く輩出することになっても驚かない。

 何が起こるかわからない2019年の大相撲も興味深いが、その先に目を向けると大相撲はさらに面白い。稀勢の里のドラマが終焉を迎えた今、誰が次のドラマを産み出すのか注目しながらテレビやネット中継を見るのも一興である。

文=西尾克洋

photograph by Kyodo News


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