ゴルフ史上最大級のルール変更。捜索時間から旗竿、キャディーまで。

サッカーのルールは全部で「17しかない」というのは、スポーツ好きの間ではよく知られたことかもしれない。
規則をつかさどるのは国際サッカー評議会(IFAB)というところで、日本サッカー協会のウェブサイトから、同機関が発行している競技規則をのぞいてみると確かに「第1条 競技のフィールド」から「第17条 コーナーキック」という条文にまとめられている。
それで言うと、ゴルフのルールは全部で24である。
全米ゴルフ協会(USGA)とロイヤル・アンド・エンシェント・ゴルフクラブ・オブ・セントアンドリュース(R&A)によって統括されるゴルフ規則は、「規則1 ゲーム、プレーヤーの行動、規則」にはじまり、「規則24 ティーム(チーム)競技」で締められる。
「意外と少ない」と思うことなかれ。
両方の日本語版ルールブックの文字数を起こすと、サッカーの規則はおよそ3万9000字。一方ゴルフは13万字以上ある(どちらも補足事項等を除く)。今年1月、ゴルフ人口の減少に歯止めをかけるべく、簡素化された新規則でもそうなのだ。審判がいないこと、自然を相手にプレーするスポーツという事情が相まって、決めごとが実に多い。
プロゴルファーたちが戦う世界のツアーでも、規則改正に伴い、2019年の始まりはなんだかドタバタしている。
旗がついたままパッティング。
今回はこの1カ月で起こった、新ルールにまつわる話題をおさらい。ちなみに、エンジョイゴルファーが今後お世話になりそうな、OBショットの後の救済、距離計測器の使用許可といった規則改正は、プロツアーの多くが導入しないため、タッチしませんがあしからず。
○ピンフラッグは抜かなくてOK(規則13.2a)
昨年までの規則では、パットは旗竿を抜いてから行う必要があった。グリーン上からストロークした球がピンに当たると2罰打を科されたが、新ルールでは無罰に。旗竿を抜いて打つべきか、残したまま打つかを考えるのはまさにトレンドだ。
旗竿はあった方が入りやすい?
ブライソン・デシャンボーという米国人選手がいる。ニックネームは“科学者”。これまでの常識を覆し、番手によって異なるアイアンの長さを揃えてプレーする25歳である。すでに欧米ツアーで6勝をマーク。物理学を専攻してきたインテリ系で、何につけても実験を試みる。
今回も検証を重ね、彼が導き出した結論は「旗竿は差したままの方がカップインの確率が上がる」というもの。アダム・スコットらも好印象を抱いている選手だ。
その反面、タイガー・ウッズ、フィル・ミケルソンといったベテラン勢はどうもまだ、しっくり来ない様子。「若者だったら変化をすんなりと受け入れられるんだろうけど……」(ウッズ)。旧規則の元でのパットの得手不得手はもとより、世代間でも意見は違いそうだ。
他方では、松山英樹のような選手もいる。「よくわかんない」。今のところ「差したまま」の効果のほどを実感できず、かといって過去のしきたりに固執する気もない。同伴競技者のやり方に従ったり、あるいは、気分転換で変えてみたりと現段階で一貫性がない。
ひとつ言えるのは、余計なストレスを感じる要素ではなさそうということだ。
ちなみにグリーン上の他の改正として、スパイクマークを修理することが認められた(13.1c)。当初は各選手が修理に時間をかけることでプレーが遅くなるという懸念がささやかれていたが、現場を見る限りそれが要因でスロープレーが相次いでいる雰囲気は感じられない。
それよりもキャディーがピンを抜いて、差して、また抜いての繰り返しの方がよっぽど時間がかかる印象を受ける。
ボールを再設置する時は膝の高さから。
○球をドロップするときは膝の高さから(14.3b)
ニー・ハイ・ドロップ。なんだか新種のプロレス技のように聞こえて仕方がない。ペナルティエリアに入ったときなどは、救済でドロップをしてプレーを再開する。これまでは肩の高さから球を落としていたが、新規則では膝の高さから、が正しい。
小平智は1月の米ツアー、ハワイでのセントリートーナメントで誤って肩の高さから落としたところを同伴競技者に指摘され、やり直して事なきを得た。もしもブルックス・ケプカが、見て見ぬふりをするイヤなヤツだったら1罰打がついていたところだった。
この変更の目的は、これまでドロップした球が転がりすぎ、規定の範囲(ニヤレストポイントから1クラブレングス以内:こちらも2クラブレングスから変更された)を超えて、再ドロップをすることがスロープレーにつながると判断されたから。
JGA等によると、実は決定までには、球を接地させず、わずかでも浮かせてドロップする、もしくはただ置くだけ(プレース)でOKとするという案も出たという。しかし、あくまでショットを打った後のように、球の動きの“不確実性”を重視したというが……。
松山英樹のボール大捜索事件。
○ボールは3分で見つけ出せ(6.3b)
カリフォルニア州でのファーマーズインシュランスオープン2日目。松山英樹が打った16番パー3での第1打が消えた。手に残るミスショットの感覚から、本人はボールの軌道を目で追うのをやめたという。
グリーンの近くに歩いて行くが、白球の姿がない。同伴競技者やボランティアスタッフのみならず、周りにいたテレビスタッフも大捜索。旧規則では捜索時間は5分だったのが、3分に短縮された。見つけたのは同組でプレーしていた韓国のキム・シウーのキャディー。バンカーに埋まっていたところを発見してくれた。
偶然動いたボールの処置も変更。
○偶然に動いた球はノーペナで元の場所に(13.1d)
同じファーマーズインシュランスオープンで、今季初戦を迎えたタイガー・ウッズは初日、グリーン上でパットのアドレスに入る前に静止していたボールがわずかに動いたという。以前は風などで動いた場合は、球が再び止まった地点から打つのがルールで、新規則(実は数年前からのルール)では元の場所に戻す必要がある。ウッズはその処置に従った。
ところでアリゾナでのウェイストマネジメントフェニックスオープンでは、珍しいシーンがあった。
優勝したリッキー・ファウラーは最終日の11番ホールで第3打をグリーン奥の池に入れ、1罰打を科されてから傾斜地の刈り込まれた芝の上にドロップ。ところが、一度止まってインプレーになったボールがショットする前に動き出し、再び池に転がってしまった。さらに1ペナが加わり、結局トリプルボギーになった。
ゴルフはパッティンググリーンと、そうでないエリアを明確に“線引き”をしている。規則集には「規則13はパッティンググリーンのための特別規則である。パッティンググリーンは球を地面の上で転がしてプレーするために特別に作られており、各パッティンググリーンのホールには旗竿がある。したがって、他のコースエリアとは違った特定の規則が適用となる」とハッキリある。
ファウラーの球はグリーン上でなかったため、無罰とはならなかった。だが、もし負けていたら、彼の絶大な人気も相まってどんなに“悲劇”と騒がれたことか……。ひょっとしたら、世論が次の規則改正を後押ししたかもしれない。
キャディーの立ち位置が論争中。
○是か非か 「キャディーは後方線上に立つな」の新規則(10.2b)
目下、大論争に発展しているのがコチラ。最初の事件は欧州ツアー・オメガドバイデザートクラシック最終日のこと。中国の李昊桐がグリーンで2罰打を科された。パットのスタンスに入った瞬間まで、キャディーが球とターゲットの後方線上に立っていたと判断された。
以前からアドレスをとる際に、キャディーを後方線上に立たせて、狙いに対する体の向きをチェックしてもらう選手が多くいた。昨年、USGAとR&Aは新規則の発表を控え「ゴルファーが自分の足、体を使ってライン取りをすることは選手の基本的なゴルフスキルだ」とし、この行為を禁止することを決めた。
ところが李とキャディーにその意図がなかったこと、スタンスに入ろうとした直後にはキャディーが後方線上から外れたことが映像で確認でき、欧州ツアーのトップまでもがペナルティに疑問を投げかける事態になった。
問題は起こるが、目指す方向は期待。
翌週、今度は米ツアーで同じルールの“犠牲者”が出た。フェニックスオープン2日目、デニー・マッカーシーが4打目のショットを打つ前にキャディーが後方線上に立っていたため、同じく2ペナ。ところがキャディーが実際に同ポジションにいたのは選手が素振りをしていた最中のことで、もう一度アドレスに入り直したときには後方線上にいなかった。
マッカーシーは罰を受け入れたが、「僕は今までキャディーにライン取りの助けをしてもらったことはない」と意図がなかったことを反論。ツアーは翌日、USGAとR&Aとの協議の末、異例となる罰打の取り消しという処置を行った。
ややこしいハプニングを呼んでいるのは、まず「スタンス」の定義がゴルファーに熟知されないまま新規則が施行されたことが要因のひとつ。ルールを統括する2機関は相次いだ事件をうけ、改めて同規則を検証する必要がある、と明らかにした。
このルールは規則集「10.2 アドバイスと他の援助」という項目に紐づいている。「プレーヤーにとっての基本的な挑戦は自分のプレーのための戦略・戦術の決定である。したがって、プレーヤーがラウンド中に受けることができるアドバイスや援助には制限がある」というのが規則の目的。
そうであれば、そもそもゴルフが審判を設けず、各プレーヤーの良心によって成立しているスポーツであれば、例えば「ライン取りの際にキャディーの助言を受けてはいけない」と記すだけに留めればよかったようにも思う。それを防ぐ“方法論”を持ちだしたから、余計な問題が起こったのでは。規制の目的と、規制順守のための手段がごちゃ混ぜになっている。
簡素化とスピードアップを目指したルール改正の結果、ツアーでは今のところ少しばかり複雑な議論を呼んでいる。
施行から1カ月でこれだけの話題を創出したのだから、物事のはじまりは、やっぱり簡単ではないと痛感させられる。だからこそ、ゴルフ史でも最大級の改革とさえいわれる新ルールの可能性と今後の展開が楽しみでもあるのだ。
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文=桂川洋一
photograph by Yoichi Katsuragawa
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